回答【 良い話と悪い話 】ハーフ&ハーフ
🍻
ボクは迷った。
イタズラ好きな彼女のことだ。
良い話と、悪い話。うんと振り幅の大きな2択かもしれない。
良い話を先に聞いて、後でがっかりする。でも、先に良い気分になっておけば、後の悪い話を聞いてもダメージが少ないかも。
悪い話を先に聞いて、後でホッとする。でも、悪い話の余韻を引きずってしまい、後の良い話を聞いてもあまり喜べないかも。
ボクは迷いに迷ったが、それは時間にすればおよそ1秒。日頃から、ショートケーキのイチゴは先に食べるタイプだ。つまりそれは、美味しいものは先に、という選択。
「じゃあ、良い話を先に。お願いします」
言った途端に後悔した。だってボクは、お寿司は一番好きな中トロを最後に食べるタイプであることを思い出したから。つまりそれは、好きなものは最後に、という選択。
でも、言ってしまったものは仕方がない。ボクは彼女の言葉の続きを待った。
彼女はニコニコしながら、可愛らしく肩をすくめて言った。
「では、良い話から。実は私、治ったの。もうじき退院できるのよ」
呆気にとられ、言葉が出なかった。驚きのあまり、呼吸すら止まった。
交通事故で入院している彼女。事故当時かなりの重体で、もう5年も寝たきりになっている。
「……ほ、ほんとうに?」
ようやく絞り出した声は、震え、掠れていた。溢れ出した涙が頬を濡らし、零れ出る思いが喉を詰まらせる。
彼女は笑顔で頷いた。
「こんな嬉しい話、他に無いよ………」
ずっとこの日を夢みていた。ずっと、彼女が目覚める日を………
でね、と彼女は笑顔のままで続ける。
「今度は、悪い話なんだけど」
ボクは泣き顔のまま微笑んだ。こんな良い話の後なら、どんな悪い話だって笑って聞けるさ。
「実はこれ、みんな夢なの」
胸を思い切り殴られたような衝撃と共に、ボクは飛び起きた。途端に涙が口へ流れ込み、塩辛く苦い味が広がる。額に脂汗が滲み、呼吸は荒く、涙に噎せて咳き込んでしまう。
ボクは絶望のあまり、再びベッドへと倒れこんだ。
……あんまりじゃないか。こんな………なんて、残酷な夢。
夢の中でなら、何度もキミと話した。夢の中では、何もかも昔のまま。いつもの、他愛のない会話。
虚無感に引き摺り込まれるまま、ボクはきつく目を閉じた。
スマホの通知音が鳴って目が覚めた。ボクはショックのあまり、一時的に気絶していたらしい。
機械的にスマホに手を伸ばす。完全に、惰性の動作だ。だがほんの一瞬、脳裏を希望に似た何かがかすめた。
……もしかして。
スマホの画面に目を落とす。表示されたメッセージは……
「どっちも良い話じゃないか!!!!」
ボクはベッドから飛び降り、Tシャツとスウェット姿のまま家を飛び出した。今度こそ、喜びの涙を流しながら。
そういえば、彼女はイタズラを仕掛ける時には、いつも可愛らしく肩をすくめたものだった。なんで夢の中で気付かなかったんだ。
(全く、キミはイタズラが過ぎるぞ………!)
ボクは迷うことなく、病院までの一本道をひたすら走った。
🍻
おしまい。
ラブコメかどうかは微妙ですが、とりあえずハッピーエンドです♪
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