15:クエスト4 いざ決戦の時!

「みんなそろったね。ちょっとここでは静かにしてほしい」


 さっそくしゃべりだしそうになる律歌りっかに向かって注意するコート。今日も黒フード姿である。


「今日、このオンラインのプレイヤーが一番多い時間の、十三時から十六時の間に事件が起きるとされている」

「今は二時――十四時だけど」

「もちろん、まだ起こってないよ」


 もし起こっていたら、急いで呼び出すか、コート自身で対処するはずだもんね。


「どうしてその情報を知れたの?」

「もちろん、ボクが裏で手に入れた」


 まぁそうだろうね。

 固唾かたずをのんで、私はその時を待った。もしかしたら空振からぶりになるかもしれない、その時を。


「どんどん今日の最高同時ログイン数を更新こうしんしているよ」


 ログインする人が増えてきた。そして、それは急に訪れた。


 ドンッ! ガシャン!

「「「キャーーーーーーッ‼︎」」」


 背筋があわだつ。まるで車が急発進するような音のあと、何かにぶつかったような衝撃しょうげき音と、何かが割れたような音、そして悲鳴が聞こえたのだから。


「来たっ!」


 すぐさま建物のかげから飛び出したコート。それを追いかける私たち。


「みんな、フォームチェンジだ!」

「「「「「オッケー!」」」」」


 走りながら、うで時計の横のボタンをトリプルクリックし、まばたきもせず例のスペシャルスキンに変身した。


 それを見て私たちは困惑こんわくした。どうしてオルビスの世界に『現実世界のような』車があるのだと。


 あちこちから悲鳴があがり、プレイヤーやアバターはまどう。五人と一ぴきは暴走する車を追いかける。


だれか、大きいバリア出せる人いない?」

「私できるよ!」


 一週間ほど前から、ヒーラーに転職しているハーモニーこと、琴音ことね


「ハーモニーがバリアを出したら、みんなでバリアを支えて」

「「「了解りょうかい」」」


 やっとリーダーらしい指示ができた私。

 車はもうスピードで進んでいくものの、建物にぶつかって少し遅くなったところで、ハーモニーが車の前に出た。その顔は車への恐怖きょうふを、何とか我慢がまんしているような顔だった。


「ハーモニー! ブライト・シールド!」


 ハーモニーの体の何倍もある、グランドピアノの形をしたバリアが現れる。すぐさま他の四人が加勢する。このスペシャルスキンから流れ出す力でよりかたく、分厚くなっていく。


 凶器きょうきである暴走車が止まった。


「チッ」


 進めないと分かった運転手が車を降り、舌打ちをしてどこかに逃げ出した。


「待て、殺人犯!」


 最初に気づいた志音しおんが一番先頭で追いかけていく。

 私たちと人との間に車という障害物がなくなると、コートの目がキラリと光った。『バーチャルアイズ』というもので、プレイヤー情報を解析かいせきするものだ。


「今、あいつはログアウト状態だ。現実世界の人間が操っているわけではない」

「オッケー、了解」


 だから、そもそもフリーモードのここで殺しができるわけだし、チートでもないと出せない『車』を、『オルビス』の世界に入れられてるんだよね。


 ねこなので一番速く走れるコートが、うまく路地のおくへ奥へとさそいこみ、ついに行き止まりに追いつめた。


「……ついにここまできたか、虎帝こてい


 えっ?


「何でおれの名前が分かるんだよ!」

「……分かるよ。僕と目が合った瞬間しゅんかんに、アクセルをむのをやめて逃げ出したんだから。そうなると、思い当たる人はぼくの中に一人しかいない」


 弦斗げんと……じゃなくて、ビート、すごい!


「お前ら、警察でもないのに何をするつもりだ?」

「プレイヤーネーム:虎帝、お前の心をうばいにきた」


 コートがしゃんと言い放った。


「はぁ? なんだそれ」


 猫と虎帝がバチバチと争っている中で、私はベストの裏ポケットから一枚のカードを取り出した。そして、人差し指と中指ではさんで持ち、構える。


「ということで私たちは、怪盗かいとう団・GROSKグロスク。今、あなたにこの予告状をきつける!」


 私の手から放たれた一枚の予告状は、虎帝が一回瞬きをする間に体にりついた。


「くっ……取れねぇ!」


 そして、予告状に書かれたものと同じ文章で、りんとした声で宣言した。


白昼はくちゅう堂々殺人をし、たびたび余罪を犯したあなたの心を頂戴ちょうだいする」

「ふっ、何だよ余罪って。俺が他にも罪を犯しただって?」

「余罪は、あなたやあなたを作ったプレイヤーがした、数々の迷惑行為です。あなたはこのオルビスの条例を、プレイヤーは利用規約を破っています」

「そうか、もうちっと自由に遊ばせてくれよ」


 追いめられているにもかかわらず、余裕よゆうそうな態度の虎帝。


「他人に迷惑めいわくをかけない範囲でなら、自由ですけど」

「俺はな、プレイヤー様のストレスを発散させるために生まれたんだよ! 何が他人に迷惑をかけるな、だって?」


 ピキッ


 貼りついている予告状がカモフラージュするように体の中に吸収されていくと、虎帝の体が小刻みにふるえ始めたのだ。

 私たちは一歩後ろに下がる。


「この世界の法律じゃ、プレイヤー様の世界じゃ、何もかもがしばられすぎていてつまらねぇんだよ! うるせぇ‼︎」


 ピキピキッ


「俺とタタカウのか? どうセ歯もタタナイだろうがナ‼︎」


 ピキッ、バキバキバキバキッ‼︎


 虎帝の胸がぱっくりと開き、虎帝自身は地面にたたきつけられるようにたおれる。開かれた胸からは、どす黒い煙のようなものが飛び出して虎帝を飲みこみ、巨大きょだい化していった。


 ウォォォォォォォォッ‼︎


「とうとう姿を現したな、欲望のかたまり怪物かいぶつ・ラチオ!」


 全身の毛を逆立て、戦闘態勢をとるコート。

 これが……コートが言ってた怪物⁉︎


 背が低めのビルと同じくらいの高さの、虎帝とよく似たフォルムの巨人が、そのこぶしの一発で近くの建物を破壊はかいしたのだ。

 私はそのおそろしさに足がすくんだ。

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