09:クエスト2 完了

「よかった、帰ってこれた」


 向こうに召喚しょうかんされてから、ずっと緊張きんちょうした表情だった琴音ことねが、やっといつものほんわかした顔にもどった。


「そうだ、何かられたものは……なさそう」


 スイッチやバッグを残したままコートに召喚されていた。さっきまでそこの遊具で遊んでいた子たちがいないので、向こうにいた時もこちらの時間は進んでいたらしい。


「ていうか、マジでびっくりしたわ」

「ホントホント。結局、さっき暴れてた人はどうするんだろ?」

「武器持ってるから、消すしかないんじゃ?」

「だよねー」


 今のところは消すしかない。でもそれが私たちの手で元から解決できるなら、やりたい。いくらゲームの世界といっても、何回も復活できるとしても、やられた方はたまったもんじゃない。


「……ラックス、じゃなくてコートから召喚されるまで待つとして、さっき志音しおんが言ってたやつ、決めようか」

おれ何か言ったっけ?」


 さっき? 何だっけ?


「……パーティ組む前にだれをリーダーにするかって言ってたよね? その前に『GROSKの方もそうだけど』って言ってなかった?」


 あー、そんなこと言ってたかも。だけど普通ふつうに聞き流してた。


「そうだった。水曜のレッスンが終わった後、先生にリズムが分かんなかったところを聞いてたんだよ。その時に『できれば来週までにリーダー決めといて』って言われてて」


 えっ、そんなこと、この三日で一度も聞いてなかったんだけど。


「誰がいいと思う? 俺はちょっと……」


 あまりみんなの前に立ってすることが、私と比べると苦手な志音。最初から辞退する。


「……ぼくもそういうのは……」


 弦斗げんとくんは何か分かる。あとは女子三人かぁ。


「私もリーダーはあんまりやったことないから……」


 琴音も顔の前で手をって断ってしまった。

 あとは私か律歌りっか……。初めて会った時から色々引っ張ってもらったから、律歌の方がいいよね。


「私は律歌にリーダーしてもらいたいなぁ」


 自分にしつけられる前に、もう一人を推薦すいせんしておく。しかし――


「うち? うちよりおとの方がいいでしょ」


 げっ、私?


「えっ、だって今日もレッスンの時も律歌が引っ張ってくれたじゃん」

「うちはただ言いたいことを言ってただけ。電話番号聞いたのも、つながってないと何か不安で」

「でも……」

「おとはアルトサックスで目立つし、うちみたいな厄介やっかい者をこうやってちゃんとあつかえてる」


 何かそれっぽいこと言われちゃった。

 そういえば、志音は律歌のこと、ちょっとうっとうしいって思ってるらしいけど。私はそうは思わない。……もしかして、そういうこと?


 これを一秒くらいで考え、仕方なく私が折れることにした。


「そっか……まぁ、リーダーでもいいよ」

「マジ! おと、ありがと!!」


 例のごとく、律歌に音を立てて背中をたたかれる。


「三人とも、おとがリーダーっていうことでいい?」

「いいんじゃね?」

「いいよ〜」

「……誰でもいい」


 最後の弦斗の言葉が少し気になったが、私でもいいということだろう。

 結局、私がリーダーということになっ(てしまっ)た。






 あの後、またパーティ戦を三回くらいやったり、ちがうゲームをやったりして、夕方まで五人で遊んだ。


「「ただいまー」」

「あっ帰ってきた。おかえりー」


 家にいれば、必ず両親とも「おかえり」と返してくれるが、お父さんの声がしない。

 家の前に置いてあるはずの車がないので、察することはできるが。


「あれ、お父さんは?」

「今ね、買い物行ってもらってる。今日の夜ご飯で買い忘れたものがあって。おやつ買っていいよって言ったら行ってくれた」

「なにそれ」


 おやつでつられるとか……! やっぱりお父さんは子供っぽい。


「お母さんが買い忘れたのが悪いからね。それくらいしないと」

「まぁね」

「はい、二人とも手洗ってきて。昨日買ってきたアイスあるから」


 そうだった、アイスあるんだ!

 私たち双子ふたごは、真夏はもちろん、真冬の極寒でも季節関係なくアイスを食べる。お母さんは「冬にアイスは……見てるだけで冷えてくる」とか言うけど。

 いつもの低いたなの上にとりあえずバッグを置き、手を洗いにいく。

 と、ここで問題発生。


「俺が先」

「私が先」


 いち早く大好きなアイスを手に入れたいので、二人で洗面台の前で張り合っている。


「じゃんけん!」

「……ちぇっ」


 お母さんは私たちがケンカしないようにと、同じ味のものを買ってきてくれている。だが、私たちにはこの先のことまで見えている。早くアイスを食べられれば、先にゲームができるのだ。


 ちなみに、このじゃんけんに負けて後に手を洗うとしても、早くアイスを食べたいがために雑に洗えば、お母さんに忠告されて洗い直しになる。


 ――アイスを制する者はスイッチをも制す。


「「最初はグー、じゃんけん――」」

「早くしないと、お母さん食べちゃうよ〜!」

「「分かってる!!」」


 お約束のじゃんけんをしようとして、お母さんにあおられてしまう。またケンカしてると思われたのだろう。仕切り直しだ。


「「最初はグー、じゃんけんポン!」」


 私はグーを出し、志音はチョキを出す。……勝った。


「はいじゃあ私が先ー」

「あーもうお母さんのせいだー! じゃんけんしてんのに話しかけてくんなよ!」


 ふてくされる志音をどけて、わざと鼻歌を歌いながら丁寧に手を洗う私。


「……早くしろよ」

「ちゃんと洗わなきゃ……ね?」

「あーもう うるせーな」


 丁寧ていねいに洗った手を丁寧にタオルでふき、完全に『おこ』な志音の横を通り過ぎて、チョコアイスにたどり着いたのだった。

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