08:ハプニング! どうしてここに!?

「次どうする?」

「うち、またパーティ戦やりたい!」

「私も! あっ、その前にみんなで探索たんさくしたいね」

「……そうしよう」

「そうだな」


 私たちは一旦いったんパーティを解散し、『フリーモード』のニュー・オルビスシティーにもどってきていた。

 武器が持てないフリーモードでは、マップの中を自由に移動でき、店では買い物をすることができる。


 五人はアクセサリーショップの前で集まった。


「……ぼく以外のみんなは、本名をそのままプレイヤーネームにしてるんだね」


 プレイヤーの頭の上に表示されている名前は、弦斗げんとだけ英語なのだ。他の四人は偶然ぐうぜんにも、本名をひらがなにしたものになっている。


「どうして弦斗くんはBeatビートっていう名前なの?」


 さっきから気になっていたので聞いてみる。


「……僕も最初は本名にしてたんだけど……何かかっこいい名前にしたいなって思って。それでかんできた『ビート』にしたんだ」

「曲のビートに乗る、とかいうからなぁ。どちらかというと、ドラムとかのたたく系に近い言葉じゃ?」

「……言われてみれば」


 なるほど……って律歌りっか、するどいツッコミするなぁ。


「……でも、僕も曲のビートを作る仲間だから。……間違まちがってはない気はする」


 弦斗くんって、音楽関係ないゲームでも音楽のこと考えちゃうんだ。分かる、何か私にも分かる。


「名前にするくらい、音楽が好きなんだね」

「……うん、好きだね」


 ふふっとほんの少し笑ってくれたその時。


 ドカーーーーーーーーン!!


 通りの向こうの方で爆発ばくはつ音のようなものがしたのだ。今いる公園ではなく、スイッチのスピーカーからである。


「……え?」


 そして、こちらに一目散にプレイヤーたちがげてきたのだ。


「うちらも逃げた方がいい⁉︎」

「……逃げてみる」


 弦斗がうなずくと、私たち五人も他のプレイヤーと同じように走っていく。


「ちょっと、今日そんなイベントあったっけ?」

「……ない」


 自分の確認不足ではなかったようだ。

『オルビス・ナイト』では速く走る機能はないので、コントローラーのスティックを同じ方向にたおすしかない。

 一瞬いっしゅん後ろをり返ってみる。


「うわっ、何かめっちゃ強そうな人がキルしまくってるんだけど!」

「マジか!」


 志音しおんも同じく、一瞬だけ振り返る。


「しかもすげぇスピードで走ってんだけど!」


 もう訳が分からない。状況じょうきょうを理解する前に、私たち全員はほぼ一撃いちげきで死んでしまった。

 前回のセーブポイントである、パーティ戦を終えた直後にもどってきた。イライラ気味の律歌がたずねる。


「弦斗、これどういうこと? フリーモードじゃ、そもそも武器を装備できなかったはずだけど」

「……僕にも分からない。何で爆発したのか、何でキルできるのか……」

「しかも、一回で死んじゃったよね」


 琴音ことねめずらしく難しそうな顔をしている。志音が何かひらめいた様子だ。


おれが思うに、あいつ、チート使ってんじゃねぇか?」


 うん、そうとしか考えられない。


「確かに。チートで武器を持てるようにして、チートで爆発させて、チートで足を速くして、チートで一発でキルできるようにしたってこと?」

「そうそう」


 志音と私の意見に、他の三人もうなずいてくれている。


「許せない。チート使って他のプレイヤーをキルしまくるなんてな」


 テーブルの上に乗せられた律歌のこぶしふるえている。


「遊んでらんねぇ。他のやつで遊ぶか」


 志音がホーム画面にいくボタンをそうとしたその時。


『そこの五人、ちょっとこっちに来てくれない?』という文字が、ふきだしとともに表示され、またたく間もなく目の前に『たくさんのビル』が広がった。






 目を疑った。ここはどう見ても数秒前まで画面しに見ていた、『オルビス・ナイト』の世界だったからだ。

 自分の姿はというと、ピンク色のツインテールに……ていうか、これ、自分のアバターじゃん!


「急に呼び出してごめんね」


 そう話す声が聞こえた方に目を向けると……白いねこと目が合った。


「ラックスだ!」

「この猫、そんな声でしゃべるのか!」


 志音と同時にさけんでしまった。いつもは「ツー」という電子音でしか、声が表現されていないからである。


「ここは危険だから、安全なところにキミたちを転送するね」


 ラックスは前足を上げると、ヒュンと風を切る音がして、どこかのせまうす暗い部屋に移動した。 


「ボクが案内猫っていうのはみんな知ってると思うけど、案内猫の他に実はスパイもやってるんだ」


 ひそめ声で、そう暴露ばくろするラックス。


「それで、キミたちをこの世界に連れてきたのは、さっきのように暴れ回るプレイヤーを仕留めてもらいたいからだ」

「さっきのって、私たちをキルしたあの人ってこと?」

「そう、あのプレイヤーだ」


 いやいやムリムリ! だって一撃で倒されたもん!

 ざわめく五人。


「キミたちを呼ぶ前から少し会話を聞かせてもらったけど、あのプレイヤーはチートじゃない」

「……そうなの?」

「あのプレイヤーはオルビスの法律を破っているんだ」


 法律……?


「あっ、まずこの世界の説明をしなくちゃね」


 完全にぽかんとしている私たちを見て気づいてくれたようだ。


「キミたちの感覚で言うと、この世界はただのゲームの世界じゃなくて、『もう一人の自分』がいる世界なんだ。おどろくようだけど、キミたちが『オルビス・ナイト』からログアウトしている時は、このアバターは自我を持って生活しているんだ。要は、自分で見て聞いて考えて行動しているってこと」


 オルビスに、もう一人の自分がいる?


「その自我っていうのは、そっちの現実でプレイする人間と同じ心を持っているんだよ」

「へぇ……」


 初めての情報を整理するのに時間がかかっている私だが、早々に理解した弦斗が聞いた。


「……それで、僕たちをキルしてきた人は、その自我で動いていると言いたいのかな」

「話が早いね。そういうこと」

「そっか、現実にいる人間が操作してるんじゃないんだね」


 頭のいい琴音も理解しているようだ。私は何とか会話についていくので必死である。


「ボクがスパイで手に入れた情報だと、そういうプレイヤーの暴走を止めるには、自我の『かく』――中心にある本心を暴かないといけないんだ」

「……凶悪きょうあくプレイヤーの本心を暴く……か」

「ラックス、それをうちらがやれって?」

「うん、ボク一人、一ぴきじゃできそうにないから」


 律歌の言葉にコクっとうなずくラックス。いやいやムリだって!

 志音は「あ〜」と言って質問する。


「やっと話が分かってきた。どうやってその本心っていうのを暴くんだ?」


「それは…………」

「それは?」

「まだ方法は分からないんだ」


 ……へ?

 ズッこける私たち。


「やり方分かってないのに俺ら呼んでどうするんだよ」

「そういえばそうだね。でも、キミたちならできると思ったから。何となくかんで」

「しかも勘かよ!」

「でも、安全なここに連れてきたのはボクだから」

「まぁ……確かに」


 案内猫でスパイのくせに、どこかけているところがあるようだ。


「今日は一旦現実世界に帰すけど、ボクと話したことや話した内容は他の人に言わないで」

「どうして? うちら以外が知っちゃ、何がまずいん?」

「……色々面倒めんどうになるからね。ボクのスパイ行為こういができなくなるかもしれないから」


 それはそうだよね。スパイはかくれてこそこそするやつだから。

 ……そうだ。


「何でそんな隠れてやんなきゃいけないの?」


 疑問が浮かんだので私も聞いてみる。


「暴れるプレイヤーは、消去すればいいと考える人が多いからね。でもそれはただのイタチごっこにすぎないんだ。消去されれば、またアバターを作り直されてしまうから。最初の段階では危ないプレイヤーかは見抜けない。」


 あぁ、そうかも。BANされてもそうなっちゃうよね。


「だから、存在を消すんじゃなくて、根本を解決しなきゃいけないと思ってるんだ。でも、誰も『そんなのは面倒だ』って言って聞いてくれない」


 ラックスの目に力が入る。


「しかも、ついに現実世界から操作するプレイヤーに被害ひがいが出た。だからこそ解決しなくちゃいけないと思ってる」


 そういうことか……! 今まではこの世界だけで済んでいたことなんだ!


「状況が進んだら、またキミたちを呼ぶから。あと、ボクがスパイをしている時は、ラックスじゃなくて『コート』と名乗っている。次からはコートって呼んでくれるかな」


 やり方さえ除けば、ようやく事が鮮明せんめいになった気がしてきた。私たちはコートからの問いかけに首を縦に振る。


「それじゃあ、また会う時まで」


 コートがまた前足を上げた時、私たちは元の姿で元の場所、けやきの森公園に帰ってきていた。

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