六十一話 露骨なサービス回である

 穂村の処遇に関してタラコ唇さんの次に不満を言ってきたのはミサキだった。そら銃で撃たれてるしな。

 でもミサキの不満はそういうことではなかったらしく、俺が穂村と七日間も二人っきりで過ごしていたことに関してらしい。死にそうになるほど頑張ったのにこの結末はあんまりだという事だった。

 それで俺に穂村の足止めを頑張ったご褒美を要求してきた。早い話がエッチだ。

 流石にタラコ唇さんという恋人がいるのにそれは、とミサキの想いは知っていたが躊躇していると、タラコ唇さんの許可は貰っているという。アレだ。何時しかミサキがタラコ唇さんに提案してたらしい3Pをやろうと言うのだ。俺が穂村を相手にしている間、愚痴を言い合って仲良くなっていたらしくタラコ唇さんは陥落していたのだった。

 恋は戦争だと言い切るミサキはモロホシとはまた違う意味で恋愛強者だった。キッチリと外堀を埋めてから本命に突っ込んでくる。俺が満更でもないのは分かりきっていたな。


 それで気恥ずかしいけど、三人でラブホに行った。流石に防音とはいえ職場にもなってるマンションで堂々とは出来ない。タラコ唇さんとの情事は例外にしても。

 で、タラコ唇さんがどうして陥落していたのかそこで理解させられた。ご褒美として俺が拒否出来ない形に持って行ったのも普段は絶対にやらないようなことをさせるためだった。俺はこんな形(なり)だが歴とした元男だ。リンクを応用したエッチをするにしても俺がアリス姫に変身することはあってもタラコ唇さんが変身することはなかった。男を相手にするのなんざゴメンだ。それが恋人でもだ。オモチャを中に入れたこともない。

 それをご褒美だからという事で押し切られたのだった。男が無理なのは知られていたから部分リンクを習得してまで突っ込まれた。その、男のアレを。

 マジでふたなりとかエロ同人だけにしてくれ。浩介以外に出来ていなかった部分リンクをエロに活用する為だけに習得したタラコ唇さんも十分同罪だ。その情熱は理解出来なくもないけど。


 何か行為の最中は必死すぎて覚えていないんだが「怖いの本当に怖いの」とか「アリスは男の子だから無理だから」とか「お願いだから優しくして酷いことしないで」とか言って完全にメスになってたらしい。何だよ、そのエロ同人誌の登場キャラは!

 エナジードレインも活用して色んな年齢に何度も変身して余すところなく貪られた。性欲って男だけのものじゃないんだな。

 ちなみにエナジードレインで精子から精気を吸い取れるので避妊は簡単である。エインヘリヤルという幽体が子供を作れるかは知らんが。


 というか俺とタラコ唇さん、俺とミサキの組み合わせだけじゃなくてタラコ唇さんとミサキの組み合わせでもヤってたんだが。しかも何か慣れてた。これはひょっとして浮気じゃないのか? 何か意中の相手を二人同時に寝取られたようなハブられたような哀しみが俺を襲ったんだが。

 案の定、二人で愚痴を言い合って酒を飲んだ際にエッチしてたみたいだし。そりゃ陥落するよな。納得いかねぇ。


「いえ、アリスさんも私に足を舐めさせて悦に浸っていましたよね?」


 ブツブツとそう穂村に愚痴をこぼしていたらそう反論された。それは絶対命令権で行動を縛っていた七日間の間のエピソードである。


「それはお前が隙を狙って俺の喉にゴルフボールを転移させたからだろ。エナジードレインで呼吸すら不要になってなきゃ結構、危なかった」

「惜しい感じだったのですけどね」


 絶対命令権で行動を縛れると言っても最初の頃は30分しか効果がなかった。穂村との話に夢中になってる間に気付けば効果時間が過ぎていたなんて事態に陥ってしまったのだった。最初はマジで地獄だったな。


「他にも椅子に座るタイミングで尻の下に包丁を転移させたりとか。気付かなきゃ尻の穴に包丁が刺さる所だったぞ。トラウマになって椅子に座る際に何度も確認してるんだからな!」

「その後、電気あんまを私がイクまで続けましたよね?」

「まあ、その、罰としては軽い方じゃないでしょうか」

「楽しかったですか?」

「正直、楽しかった」


 それ実はタラコ唇さんに聞かれていたんじゃないのでしょうか、と穂村に諭されて確かにと納得した。食事とか差し入れして貰ってたし。俺も穂村を警戒して他が疎かになっていたし。もし聞かれていたとしたらミサキとの情事の前だな。絶対命令権の効果時間が短かった初日に集中して起こったから。

 愚痴をこぼしてのヤケ酒は俺が浮気してるってのも理由だったのかもしれん。いや、別にそんなつもりは……穂村はモデル体型のスレンダー美人で長い黒髪ストレートの髪型の割に中性的な美貌の持ち主なので、ぶっちゃけ好きだが。ちょっと危ないプレイに勤しむご主人様と奴隷みたいなシチュエーションに内心盛り上がったが。

 はい、すいませんでした。俺が悪かったです。


「はぁ。まあ、正直、私としましては貴女が清廉潔白な聖女みたいな人間ではないと判明して安心しましたが」

「極端な人間だと行き着くところまで行き着きそうだからか? 結構エッチなことしちゃったけど穂村はあんま抵抗ないのか、こういうこと?」

「どちらもイエスです。これくらいなら。女同士だと中学や高校で友ちゅーをしたりしますし」


 うーん、穂村の性格だと女子校とかだと王子様扱いされてそうなんだが。それ相手は本気だったのでは?


「他にもリリエットでのVtuber時代は皆、少し心が病んでましたからね。ちょっとした共依存関係だったりしました」

「ああ。百合営業の一種だと思ってたけどメンバー同士でお泊まり会とか頻繁にしてたな」


 思い返してみれば穂村のリリエット時代、茜ヨモギが人気だったのは同じメンバーにスキンシップをされて取り乱していたからでもあった。

 リリエットは女性Vtuberしかいないアイドル路線だったから、Vtuber同士が仲が良いのは百合営業が人気向上の基本戦略になりえるVtuber文化と合ってたんだよな。

 それが原因不明のまま分裂して個人勢となったり余所の箱のVtuberになったりしてコラボもしてないと。

 そりゃ炎上するわ。結局、営業に過ぎなかったんですか? これがリリエットのリスナーの本当に言いたいことだろ。


「なあ、リリエットのメンバーとはもう連絡を取ってないのか?」

「今も頻繁にしますよ。ラインやディスコードなんかで。しばらくは所用で連絡出来ないと予め伝えておいたので最近はしてないですが」

「俺を殺すつもりだったもんな。いや殺した後、何事もなく連絡を再開するつもりだったのかよ。お前やっぱりサイコパスだわ」


 一見凄い真面で信念を持った正義漢のようにも見えるが騙されてはいけない。こいつは善意で殺人しようとか決意するような奴なのだった。


「んー、それならリリエットメンバーか元メンバーとコラボしてみるか? 多分、それで炎上は沈静化するぞ」


 別に転生したからといって元の箱のVtuberとコラボをしてはいけない理由などはない。関係性が拗れていなければ。


「それは……」

「やっぱり抵抗があるか?」

「いえ。でもその前に幼馴染みに会わないといけない気がします。どういう顔で会いに行けばいいのか分かりませんが」


 穂村の幼馴染み。リリエットのVtuberだよな、この流れだと。鬱になったという友人かね。


「はい。私が暴力事件を起こした理由で、唯一連絡を取り合ってない相手です」


 むしろ友人の為に激怒したのだから申し訳なさそうにする理由なんてないと思うんだが。

 それでは済まないから人間関係というのは複雑怪奇だ。


「休みを取って心を回復させて、友人はリリエットに戻りました。今もそこで戦い続けています」


 結局、私のしたことは場を掻き回したに過ぎなかった。

 そう穂村は自嘲して呟いた。

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