四十六話 ワンダーランド一期生結成記念パーティ

 Vtuberとして本格的に登場させる前に強力な存在感を発揮した妹さんだが、あの神回を実現させる為に俺も多大に貢献してることを主張したい。

 なんたって今の浩介はリンクチートでレッドの姿で暮らしているからな。普通に会わせるだけでは初対面同士になってしまう。

 そこで事前に妹さんにはアリス姫へとリンクで変身する姿を見せて能力を説明して、その上で浩介のレッドとしての写真を事前に見せておくことで、兄と同一人物だと知らせる必要性があったのだ。

 浩介の萌え声練習回の配信日という絶好の日程に青森からわざわざ妹さんを呼び出して、スマホで配信の様子を見て突入させるタイミングまで見計らっていたからな。

 茶番は入念な下準備があってこそ実現するのだ。

 もちろん浩介にも妹さんにも一切、企画の事前説明はしなかった。


「それで、言い訳は終わりですか姫様」

「言い訳にもなってないよぅ、お姫ちん」


 浩介に正座させられて弁明している姿を見てタラコ唇さんも思わず綻んだ顔をしている。

 やっぱ外野から見て面白かったよな?


「配信者としてパーフェクトな出来だと思ってる」


 グッとサムズアップをすると浩介にハリセンで叩かれた。お前も遠慮なくなってきたな、おい。




「はい、そういうわけで新たに三人のVtuberがワンダーランドに加わりました。拍手ー」

「パチパチパチー」


 せっかく青森から東京まで足を運んで貰ったんだから、ついでに歓迎会を開くことにした。流石にドッキリの為だけに来いっていうのも酷だしな。あと不自然だし、そういう名目で呼び出したのだ。

 ノリよくミサキが口で拍手音を言ってくれる。そこは手で本当に拍手してもいいんやで?

 この場にいるのは赤衣アカリ・ピグマリオン・諸星セナのVtuber組と裏方でも人付き合いの良い方の絵描き三人衆と翻訳家にマネージャーのポン太。

 それにタラコ唇さんと何故かいる弘文、新Vである浩介の妹の江利香・サキュバスのミサキ・元リリエットの穂村雫だ。

 総勢で14人にもなる。

 ワンダーランドも大きくなってきたな。


 あ、この場にいないミュージシャンの川村悟とプログラマーの加藤総次郎にもご馳走は浩介が部屋に届けている。

 普通の会社だったら無理矢理に出席させるんだろうが、俺自身がそういうのが苦手だから自由参加にしてる。

 飲み会に参加しないと打ち解け合って仲良くなれないって? 飲み会で本当に仕事仲間と仲良くなったことある?

 俺はない……、まあ楽しく飲んでる奴らもそりゃいるんだろうから飲みニケーションを完全に否定してるわけでもないけどな。でも、強制してまで来させるのは単に新人にマウント取る為なのとそういう決まりだからってだけの同調圧力な気がして、個人的に抵抗感があったのだ。

 他の奴がワイワイと楽しそうなのに一人で部屋に籠もってご馳走を食ってるのもそれはそれで侘(わび)しいだろうが、そこまで面倒は見切れん。

 俺はカウンセラーじゃないし、うちは職場であって介護施設じゃないのだ。


「ワンダーランドの一期生募集はこのメンバーで締め切りだから、暫くはこのメンバーでやって行くんでよろしくな」

「6人中、4人が女性ですか。アリス姫も入れたら男2女5。正直、肩身が狭いです」

「何を言ってんだよ。女6に無性1で男なんていないだろ?」

「そうだよ浩介君。女性だけじゃなく男性Vtuberとコラボする時も気を付けてね? 炎上するかもしれないから」

「マジで言ってます?」

「ガチだぞ。Vtuber界隈ってそういう所だ」


 時々、よく分かんない理由で炎上するからな。女同士でふざけあってたら本人そっちのけでリスナーにガチでセクハラ扱いされて問題になったり、地声が低すぎて笑ったら彼氏の声が配信に混ざったと邪推されたり、わざわざ別アカで書き込まれたツイッターを掘り起こした上に本人特定して荒れたり。

 一番ビックリしたのは面白くないって理由で炎上したことだな。

 いや、面白くないなら見なきゃいいじゃん?ってなった。


「うっわ、それは酷い」

「ありましたね。しかも結構、本格的に炎上してて配信の低評価が所属企業で過去最高値を突破したと聞きます」

「何、その人は過去にどんな悪行をしたの?」

「だから面白くなかったんだよ」

「Vtuber界隈って地獄っすね」


 普通は配信が面白くないって感じたのならブラウザバックして別の配信を見るなりネットサーフィンをするなりするんだが、下手に所属企業がVtuber上位のブランド価値を持ってるからなぁ。それだけ見に来るリスナーも多かったのが悪かった。エンタメ的には面白くないのはもはや罪なのだ。

 まあ、それがキャラ付けになって一周回ってツマラナイのが面白いという新境地を開拓していたが。これは炎上を茶番にした周りのVの功績も大きいな。

 流石はV界隈でも大手の企業だ。転んでも只では起きないような曲者Vtuberが揃っている。


「アハハ……。それじゃアタシが元風俗嬢だってバレたら終わっちゃいますね」

「え?」


 ミサキが苦笑いで告げた言葉に何人かが驚愕したような顔で凝視する。ミサキは元気娘って印象でそういう要素とは無縁なイメージがあるからな。

 解釈違いか。確かにVtuberデビューをしたらこのサバサバした性格で人気が出てそういうキャラとして認識されるだろうし、後々になって裏で身体を売ってたと判明したらリスナーにそっぽを向かれるだろうな。

 Vtuberリスナーにはユニコーンと呼ばれる処女厨も多いのだ。


 回避する方法は二つ。一つは絶対に元風俗嬢だとバレないこと。

 Vtuberは基本的に中の人はいない体で活動することが多いからな。身バレをせずに活動を続けているVtuberも多いし、可能だとは思う。

 でも、こういうスキャンダルって何処からかバレるものだし、リーク元は身内だったというオチも多い。信じる信じないの話ではなく、リスク管理の点からそういう可能性はなくしておきたい。修羅場になりそうな地雷を除去しないのは信用じゃなくて妄信だ。

 だからもう一つの回避方法を選択したいんだが、これはミサキの同意が必要だな。


「んー、じゃあ最初から風俗嬢だったとバラすか。元からそういうキャラ付けをしときゃリスナーにも受け入れられるぞ?」

「はえ?」


 動揺したのかミサキは何時も浮かべていた朗らかな笑顔を消し、呆けたような顔で俺を見た。

 やはりミサキは未成年だな。素の顔は思っていたよりも幼い。

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