四十一話 Vtuberの稼ぎを増やす方法をガチで考察してみた

 バズった。

 モロホシの泣きながらの初配信の切り抜きと掲示板に書き込まれた引き出し屋の一件がまとめサイトで取り上げられて、それがツイッターで拡散されてからというもの、ワンダーランド所属のVtuber全員がバズりにバズっている。

 ネトゲ仲間を救う為に現実で実際に救出に動くってシチュエーションがヒロイック的なのと、繋がりの薄いネトゲでそこまで絆を育めたってことへの感動が理由だと思う。

 昔、痴漢から女性を救った男が掲示板の仲間に相談しながら行動した結果、紆余曲折の末に付き合うことになった話がブームになった時があるしな。大衆受けをし易い題材だと思ってたんだよ。引き出し屋の件を暴露しても良いって許可しといて正解だったな。

 万一、引き出し屋に訴えられて裁判になったら民意の庇護を得ようと思っての判断だったが、どうやらユカリが独自に動いて引き出し屋の件は片付けたみたいだし心配する必要はないようだ。被害者団体に集団訴訟されて多額の賠償金を支払って示談したらしい。これで安心して広告に利用できるな。


「バズってるのは裏方の力もあると思うけどね。『見えない明日を』のプロモーションPVとか、ピグマリオンのダンス動画とか凄い出来だし」

「そりゃな。元から彼らを軸に戦う戦略だったしな」


 タラコ唇さんの言うようにギフトを与えたのはダンサーのピグマリオンと歌手のモロホシだけじゃない。

 失語症のミュージシャンのように対人コミュニケーションに難がある裏方は多いが、その成果は圧倒的だ。

 今までずっと意識してだろうと無意識にだろうと見下され馬鹿にされ続けてきた鬱憤がギフトによる才能の賦与により良い方向に爆発したんだろう。それぞれの才覚の分野にのめり込んでいる。天才によく見る光景だな。


 サヴァン症候群のように知的障害や自閉症みたいな何らかの問題がある人がその問題とは対照的に優れた能力や功績を残すことがあるのは有名な話だ。

 また天才には強迫性障害に陥ってるものが多いという調査結果も出ている。異常なほどの潔癖症や毒殺されるかもしれないという過度な妄想、3という数字に固執して生活の全てに影響があるなど、現代では精神疾患に数えられるこれらの病状を発症したのはいずれも歴史に名前を残した偉人達なのだ。

 目が見えない人が聴覚が異常に発達することがあるように、過度に苦手なことがある人は逆に優れた能力を手に入れることがある。これを代償性過剰発達という。


 狙ってギフトを与えたわけじゃないんだが、もしかしたら普通の人に与えるよりもチート効果は高いのかもな。


「切り抜きを公式でやっておけば無断で切り抜き動画を作ってる人間へ流れ込んでる資金もこちらが回収できたのでは?」


 そう質問してきたのは常に寄ってる眉間の皺と夏だろうとしている白手袋が印象的な二十代の男性だ。

 これがプログラマーのギフトを賦与した人間で名を加藤総次郎(かとうそうじろう)という。徹底的な潔癖症で唾が飛ぶので半径1メートル以内には決して近付かないようにと要望してきた程だ。常に殺菌スプレーを所持していて、叶うのなら一度着た服は捨てて常に新しい服を購入して着たいと愚痴をこぼしていた。

 食生活も壊滅的で各種栄養剤を大量摂取して暮らしてるようなガリガリの男なんだが、そこは浩介が必死に説得して浩介が作る飯だけは食うようになった。

 調理の光景を全て加藤に見せて加藤が納得するまで何度も挑戦していた浩介には頭が下がる。クリスとは別方面に面倒見がいいんだよな、浩介は。


「んー、それをやると切り抜き人がうちの企業所属のVtuberを追ってくれないからなぁ。今はそれでも何とかなるけど所属Vtuberは増えていくんだから、常に公式が切り抜き動画を出していては人手が足りなくなるし、切り抜き動画を作る人間は多い方が良い」

「人気が低迷して再生数が稼げないと判断したらそういう人種は真っ先に見限りますが」

「それでいいんだよ。人気が低迷してるってことは人手も減らしてコスト削減をした方が良いってことだ。余計な人手を増やしてちょっとした収益を得るのと引き換えにいざという時のゴタゴタの可能性を増やすのはリスクにリターンが合わない」


 それに外部で自分から収益を増やそうと切り抜く機会を伺ってる人間の方が意欲は高いだろうしな。ある程度の稼ぎを得られれば他に真似する奴も出るだろうし。

 単に配信から切り抜き動画を作るだけなら少し勉強すれば比較的簡単に出来るようだし人手も増えやすいだろう。


「あと、俺達が切り抜き動画を出すなら他の企業がやってるようにイラストを描いて貰ってそれに音声を合わせたい」

「どうして?」

「ほら、今回のバズった原因のモロホシの初配信とか、絵をつけて丁寧に切り抜けば時期をずらしても見てもらえるじゃんか。古参は懐かしいと喜ぶだろうし、初見は興味を引かれて新しいリスナーになってくれるかもしれない」


 必殺二度切り抜きバズり戦法。

 外部が切り抜いた簡素な動画内容で一度バズった後、公式が切り抜いた豪華な動画で更にバズる。

 時期をずらすことで別の新規リスナーを呼び込めるって寸法だな。ま、それには切り抜かれた元配信に相当なインパクトが必要なんだが。


「そういやVtuberが案件で貰える広告手数料ってテレビより遙かに安いって知ってるか?」

「うん、聞いたことあるよ」

「数分のCMよりも長時間の紹介を期待できる上にVtuberの客層はテレビよりも偏っています。その客層に合わせた商品を紹介できれば広告効果も高い。企業が案件を持ちかけるのは理に適っているでしょう」

「そうなんだ。つまり商品を紹介して貰ってる企業はVtuberよりも遙かに儲けている。大体、広告は紹介してもらう商品の利益から5%から20%くらいらしいね」


 逆に考えるとVtuberは本来手に入る金銭の5%から20%しか稼げていない計算になる。

 ま、案件を貰わなきゃ発生しないお金だけどね。Vtuberには元となる商品を用意できないんだから仕方ない話だ。

 でもVtuberは登録者数から考えられる影響力ほど金稼ぎが上手くないとは思う。人気をお金に変換する術が下手だと言っても良い。

 ボイスもグッズも限られたリスナーに限られた数しか販売していない。

 逆に商品を購入した客層を新しいリスナーにするくらいの工夫が必要だ。


「いや、お姫ちん。簡単に言うけど相当難しいよ、それ。つまりVtuber企業が商品単体で売れる物を開発してVtuberリスナーを増やせってことでしょ?」

「そう言ってる。ボイスもグッズも買うのはVtuberの元からのファンだ。新しいリスナーは増えない」

「何か秘策がお有りで?」

「秘策つーか、既にあるじゃんか。商品単体で売れてVtuberリスナーを増やす可能性があるもの」


 まるで触れてはいけないかのようにセンシティブな扱われ方をして口に出すのは一部のVtuberだけだが。

 別にエロ以外のものだってあるのに。


「同人誌だよ。普通の本屋で売るのは難しくてもVtuber企業としてコミケに参加するのは可能なんじゃねえの?」


 コミケ参加の前例だってあるしな。グッズも一緒に売り出せて一石二鳥だろ。

 他にもCD販売なんて手もあるが、こっちは歌唱力の壁があるからうちはモロホシ以外には難しい。

 俺がイラストに関連したチート能力者を三人も確保したのはこれが理由だ。

 Vtuberの面白い場面をイラスト化して切り抜き動画として紹介するのは既にやられている。

 なら、それを企業内の漫画家に本にさせ公式本として売るのは別に難しくないんじゃねえかな。

 何故かVtuber関連の漫画って売られてるのは配信とは微妙に違うオリジナル性を取り入れたり、リスナーに焦点を当てたりして詳しい活動内容に触れた物は少ないんだよな。ファンアートでなら一杯あるのに。

 やっぱ生身の人間が題材だから公式以外だと躊躇するのかもな。切り抜きすらグレー扱いだし。


 あ、いや公式だろうと権利関係で描けないキャラやシーンとかも結構あるのか。

 そこは俺達も事前に確認しないとな。

 でもやはり、ファンありきのVtuberリスナー向けの漫画じゃなくて、普通の一般人でも読んで面白いような作品にしたい。

 それを考えると、炎上や企業内の詳しい内情さえも詳細に描いた所謂、暴露本あたりが売れるんじゃないだろうか。

 Vtuberキャラクターを題材にした漫画ではなく、Vtuber演者を題材にした漫画。うーん、慎重にやらないと炎上では済まなそうな気配がプンプンするな。

 ま、そこは良い感じに脚色したりぼかしたりすりゃいいか。あくまで演者を題材にした漫画を作りたいんであって暴露本を作りたいわけじゃないんだ。


 その同人誌を読めば登場したVtuberの歩みが大体わかる。そういうVtuber入門漫画を作りたいのだ。

 本を読む方が配信を追ったりしてキャラを掴むのより圧倒的に楽にリスナーも付いていけると思うし。

 十分で理解できるシリーズすら1年2年と活動をしていくと数時間でも纏めきれないだろうしな。編集すると言っても限界はある。

 長期間、活動してると認知度と古参ファンが増える反面、新規が置いてけぼりになって新しいリスナーが増えづらくなったり飽きられないよう画期的な企画が必要とされたり他のVtuberとの絡みを要求されたりする。

 新人は物珍しいフレッシュさがあるから期待感で人を集められたりするから、必ずしも古参Vtuberが有利とは限らないのだ。

 でもその古参故の取っ付きづらさを逆に利用して同人誌を読む流れに持って行ければ、巨大な利益源となりうるかもしれない。

 まあ、そこまで長い期間を活動し続けること自体が難易度の高いことなんだが。活動を続けられるだけの採算を得る必要があるからな。


「アリス姫・ピグマリオン・赤衣アカリ・諸星セナ。俺達はまだ活動時間そのものが短いからこの四人の配信を纏めたワンダーランド公式読本をコミケで出す。そこで新しいリスナー確保と他の同人誌即売会に参加しているサークルの絵師さん達との繋ぎを作る。一部の絵師さんにはワンダーランド所属のVtuberの同人誌を作ってみないかと勧誘するのも良いかもしれないな。公式でエロ本は出せないけど」


 そしてある程度、活動時間が過ぎたら俺らの個人本を出す。

 これまでの自分の歩みが本となって手元に残るのはそのVtuberにとっても思い出の証になるんじゃねえかな。

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