三十八話 精霊魔法とゲーム魔法
魔法使い。現代社会でここまで有名な異能の使い手もいないだろう。
フィクションでは時に不可思議に時に熱血漢に時に冷酷にその姿を魅せてくれる。作品によって設定は異なるけれど、一つ共通して採用されている設定がある。
それは魔法使いは人間と同じく個性豊かで、自分の人生を謳歌してるというものだ。
まあ、そうでないとお話にならないしね。
でも昔は違った。
西洋では魔法使いは魔女と称され、悪魔と取り引きを交わし乱交し人間を生贄に捧げる邪悪な存在だった。
偉大な魔法使いとして有名なソロモンでさえ、晩年、享楽にふけって堕落したと教会に眉をひそめられてるくらいだしな。
奇妙な術を利用して人心を惑わす存在は最後には地獄に堕ちて苦しむというのがキリスト教ではスタンダードなのだ。
そういう事情もあって魔法のチート能力に目覚めさせる際は緊張した。
エインヘリヤルのチート能力が成長したせいか魔法チートにも幾つか種類があって、俺には知覚は出来ても選べないって分かったからな。
どうやら覚醒を促す本人の経験なり資質なりが関係してくるようだ。
下手したらマジモンの悪魔崇拝者が誕生するかもしれないとビビったわ。
浩介の妹を魔女に水面下で勧誘してた時は魔法の使い手になればいいなって軽い気持ちで誘ってたけど、危なかったかもな。慎重な性格の妹さんに感謝。
まあ魔女の悪いイメージは教会側の視点のものだからフィクションに出てくるような善い魔女だっているだろうけど。
単に薬の調合に詳しい薬師が魔女だと告発されたりもしてたみたいだし、結局は本人の良識次第でどうとでもなるとは思う。
悪魔は別の地域だと神様やってるし、悪用するならどんなチートだろうとアウトだしな。
しっかし、拓巳の霊能力を覚醒させる際にも似たような選択肢があったんだろうか。チートって奥が深い。
「見て兄ちゃん! 光の精霊さんが踊ってるよっ」
「流石に僕には見えないな……。翔太、魔力を与えたり精霊にお願いして姿を現してもらうことって出来るか?」
「やってみる」
どうやら弟君が覚醒したのは精霊魔法と呼ばれる分野かな。自然を利用して魔法を使う、所謂ドルイドか?
ケルトは口伝で文化を伝えて文字として残さなかったから実態があやふやなんだよな。
生贄を捧げていたって疑いもあるんだが、罪人に対する処罰だって説もあるしキリストの牧師が文献として纏めたから内部の詳しい実情が分からん。
まあ、クリスのゲーム魔法は攻撃魔法とか防御魔法とか何らかの属性がある発動型の魔法ばっかだからな。そのクリスに魔法を教わったんなら自然を利用して効果のハッキリしているだろう精霊魔法に覚醒するのは自然なことなのかも。
「どう? 見えた?」
「ああ、よく見える。ありがとうな翔太」
「わぁっ! 綺麗」
窓から差し込んだ陽光に半透明の羽を持った小さいピクシーのような生き物が舞っているのが俺とタラコ唇さんにもハッキリと見えた。
これは感動するな。精霊とか現代にも普通にいるのか。フィクションだと絶滅したって設定も珍しくないのに。
人間が彼らを見えなくなっていただけか。まあ、鉄を利用した科学技術が進んだからって地球上で何万年も生きてきた自然の化身が絶滅するとか無理があるしな。
二酸化炭素が増えての自然破壊とかもスノーボールアースが起こって地球全体が凍り付くなんて事態に比べたら誤差みたいなもんだし。
「リンク『ブレイブソルジャー/クリス』」
精霊に気を取られていたら光に包まれてクリスがゲーム内のアバターに変身していた。眼鏡も消えて銀髪の中性的な顔立ちになっている。
身体に纏うローブに杖はこれぞ魔法使いの正装という雰囲気で威厳を感じさせる。
「感覚的に魔力を放出してみてるんだが、光の精霊に与えられてるか?」
「ううん。空気中に霧散してるよ」
「魔力も視認できるのか。じゃあ、最下級の炎魔法を掌に浮かべてみるから精霊がいるか見てくれ」
「おい、火事には気を付けろよ」
「すいません。夢中になってしまって」
「ま、気持ちは分かる」
結果から言うとゲーム魔法に精霊は一切関与してなかった。
こりゃ仕組みからして別物だな。もし歴史の裏に今も魔法使いが実在してるなら目玉が飛び出るんじゃないか?
なんせ新しい魔法体系を一から生み出したようなものだからな。
ゲーム魔法は決められたプログラム通りに機能する不便な仕様で消費が大きいんだが、威力は高い。
精霊に頼めば想像力次第でどんな属性魔法も思い通りの精霊魔法とは対極的だな。あっちは練度不足もあるだろうが、その場にある要素を用いて低燃費低出力な魔法ってイメージだ。
特に炎は日常で周囲に存在しないから火元を用意しないと使用できない。
ま、ゲーム魔法もリンクで変身する必要があるから咄嗟には発動できないのに変わりはないが。
「面白いですね。同じ魔法でもここまで違うなんて」
「ホントにな。まあガチの悪魔崇拝者が生まれる危険性もあるから次の魔法使いを誕生させるのは慎重にならざるをえんのだが」
「それは残念。ではこちらは念の為に現実に魔法使いがいないか探ってみます」
「おう、頼んだ。あと幽霊対策にリアル霊能力者のことも探っといてくれよ。甥が苦労してるんだ」
「わかりました」
少しずつ現実が変容していってる気がするな。
世界は思ってたより、ずっと広い。
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