三十話 カリスマ

 日常に戻ってVtuber活動を再開してから何日か。コラボも順調に熟してアリス姫の知名度は日々高まっている。

 スパチャもギルメンが貢いできたのもあり結構な額を貰ってると思う。

 Vtuberとしての一月の給料額を確認してみたら事前に予想していた最低額と桁が一つ違った。


「Vtuberって儲かるな」

「うーん、始めたばっかりだから、ご祝儀の意味合いもあると思うけど確かに多いね」

「アリス姫は元から姫プレイヤーでしたし、3年近い活動期間があると考えれば不思議じゃないのでは」

「なるほど」


 記念に高級肉を買ってタラコ唇さんと浩介の三人で焼き肉パーティと洒落込んだ。

 戸籍もユカリの伝で日系の2世としてアリス姫の分は確保できたし、もうコソコソと隠れ潜む必要もない。

 盗聴発見器を買うために5万も散財させられたが、結果的にユカリにチートを渡して良かったと思う。


「でも、ユカリさんは目標が高すぎてちょっと不安だよ。お姫ちんは対価に何をしたの?」

「サキュバスを2人増やした。今後も頼み事かお金と交換で増やしていくことになると思う」

「別のチートを強請(ねだ)られなかったんですか?」

「部下とするには不確定要素が多すぎるからな。それにエナジードレインは現状のチートでは破格の能力だし」

「リンクも強いけど、色々と下準備が必要だしね」


 回復魔法あたりは風俗嬢的に必須チートだと思うけどな。

 まさか状態異常回復で病気も治療できるとは思わなかった。サキュバス達の性病を予めアリス姫に変身して治していった時は驚かれたもんだ。

 ちなみにアリス姫と店に来た高位サキュバスが同一人物だと一部を除き説明はしていない。

 ユカリが言うにはサキュバスになって変に人間を侮って欲しくなかったのと、異能者との繋がりを示すことで自らの権威を高めたかったのだとか。

 俺としても短絡的にチートを手にして増長して欲しくはなかったんで協力するのはやぶさかじゃなかった。


「いえ、それならサキュバスよりもギルメンの方が可能性は高いんじゃ……」

「まあね。それはね」

「否定できる要素がないね……」


 オフ回をこれまで開いてこなかったから余計なトラブルが発生しなかった反面、現実での繋がりが希薄で連絡先すらネトゲを止めたら分からないからな。

 死後はエインヘリヤルになるってギルメンは知ってるから変な事にはならないとも思うんだが、増長はするかもなぁ。


「だけど、ギルドはあくまで自由意志で入るものでサキュバス達と違って明確な部下ってわけじゃないんだ。命令を強制するようになったら心が離れて逆効果だぞ」

「うん。私もそう思う」

「そこはユカリさんがオカシイだけなのでは。風俗嬢達も別に従う必要性なんてないですよね?」

「まあ、それはそうなんだけどね」


 確かにサキュバスとユカリの関係って単なる仕事の同僚だよな?

 なんであんなに完璧な部下ムーブをしてるんだ?


 それを言ったら俺も気が付いたらユカリをサキュバスの親玉として自然と扱っているんだが。

 あれ、もしや既に術中に嵌まっている?


「時たまいるんだよ。そういう風に自然とリーダー格になる人が」

「ああ、前の職場にもいたな。別に役職もない平社員なのに気が付いたら部門の中心になってるような奴」


 上から仕事を押しつけられて本人はヒーヒー言ってたが。

 優秀だからって別に幸せになれるってわけでもないんだよな。


「最近はコラボ配信でBSにログインしてなかったし、久しぶりに普通にブレイダー活動するか」

「シンクロ率修行じゃなくて?」

「それだと高レベル地帯に行けないだろ。せっかくだし本格的に遠征しよう」


 そろそろギルド戦のイベント時期だ。高ランクモンスターを乱獲して消耗品を揃えなくては。


「あー、すみません。今はそんな雰囲気じゃないかもしれないです」

「ん? 何があった?」

「以前に言ってたじゃないですか。『引き出し屋』に浚われたギルメン」


 聞いたな。貧困ビジネスの犠牲者。ヤクザ擬きにカモにされた哀れな親子。


「何か脱走して連絡してきたらしくって。リンチされると怯えてるんです」


 いや、そこはネトゲ仲間じゃなくて親に電話しろよ。

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