二十一話 オタク特有のアレ発動中

「ふぅ。何とか乗り越えたか……」


 配信終了と表示が出た画面を見て一息。Vtuberデビューは一応、成功と言ってもいいんじゃないだろうか。

 登録者数は既に二千人を超えていて個人勢としては破格の勢いだ。おそらくブレイブソルジャーの雑談掲示板から人が流れ込んできているな。

 こういう一定層にアピール出来る配信者は強い。たとえば企業所属・漫画家およびイラストレーター・外国出身なんかは支持母体が形成されやすいのだ。

 アリス姫が有名になるほどネトゲのBSもクローズアップされて有名になるわけで、公式からの支援さえも見込めるだろう。


 問題は内輪の空気が強すぎて新参のリスナーが加わりにくいことだが、そこは切り抜きに頼るかな。

 それか、もうちょっと配信を続けたら十分で理解できるシリーズを編集して貰うか。Vtuberの面白かった場面、ハプニング、強い個性が出た瞬間などを纏めて紹介することでVtuberのパーソナリティが簡単に理解できる良い編集動画だ。

 大抵のリスナーは2時間も続くアーカイブなんて最初は見ない。三十分の短時間の尺でやってるテンポの良い配信のVtuberが人気を得ているように、基本的に配信時間が長すぎるんだよな。でも生配信は動画と違ってありのままの姿を見られて、リスナーとリアルタイムでやり取り出来ると人気だから取り入れた方が良い。そうすると編集が出来ないから自然と配信時間が伸びることになる。アーカイブを編集するとそれはそれで苦情があるだろうし。


 やっぱ別動画にしてクローズアップするのが一番いいか。

 固定ファンになったら長い配信時間がそのまま視聴時間となって、見続けている内に愛着が湧いて応援するようになるから、長いってのはそれはそれで魅力になり得るし。

 リレー配信という企業の箱内で配信時間をずらして放送することで余所のVtuberにファンを取られないように身内で囲うって手法すらあるくらいだ。

 企業内の配信者同士でファンを取り合わずに済むし、箱全体のファンを増やすことでイベントに足を運ぶリスナーを増やしたりも出来る。

 所属人数が多い企業ならではの戦略だな。人数が多すぎると配信時間が被るのは避けられないけど。


 配信に来るリスナーってのはVtuber界隈全体で限られた人数しかいないから、そういう戦略を取るのもわかる。アニオタ鉄道オタとオタクにも種類があるようにVtuberリスナーもVtuber好きな限られた数の住人しかいないのだ。

 まあ、だからこそ新規ファンの獲得の為にも視聴しやすくする工夫は大事なんだが。Vtuber企業の運営も切り抜きを漫画化して上げたり、3Dモデルを利用して短編アニメとして放送したりと業界全体を盛り上げようと努力している。


 しっかし、昔は動画勢ばかりで生配信を行うライバーは少数派だったんだが。タラコ唇さんのように生配信には一定のリスナーがいないとダメージを負うから。

 今じゃVtuberといえばライバーってくらいにトレンドになってるし、色々と時代を先取りし過ぎたんだろうな。


「お疲れ様、お姫ちん。でも女性だって肯定しちゃったけど、良かったの?」

「ああ。それな……」


 迷った。当初の予定通りネカマだと言外に主張するか、掲示板で遊んだようにTS転生者だとでも設定を作るか。

 だが、まとめサイトにタラコ唇さんとのカップリングが公表されているのを見て、女以外の選択肢は消した。


「生身で放送するユーチューバーとアニメ絵が表に出るVtuberは客層が違う。アイドルや声優を見ているオタクがメイン客層になる。そうなるとな、荒れるんだよ。ノーマルカップルは」


 ユーチューバーだとカップルアカウントだの夫婦で活動をしているだの、そう珍しい話ではないが、Vtuberだとなぁ。

 アイドルや声優が恋人が出来て人気が低迷どころか二度と見ないなんてそう珍しい話じゃない。同じように本当の姿を公表していないVtuberでさえ男の影が見えると凄まじく叩かれるのだ。ファンの分類としてはそういうオタクをガチ恋勢と呼ぶのだが、これは何も本気で相手に惚れ込んでいるわけじゃない。

 一種のアレルギーだ。自分達の領域を陽キャが空気を読まずに荒らしているという拒否反応。神聖不可侵なはずの場所を穢されたというか、寝取られたというか。

 騒いでいるのは本人が好きで泣いているオタクばかりじゃないから二度と活動が出来ないほどに追い詰めることに躊躇がない。何故ならカップルとなった女なんてもう自分達の領域を侵す敵でしかないからだ。気になっていた女子を寝取られた片思い男子の心境だな。もはや憎しみしかない。


 まあ、だからカップルと明記されている以上、百合カップルだと断言するしかなかった。百合カップルなら許されるのはこれまでの積み重ね故だな。

 声優もそうだがVtuberも女性同士の百合営業というのか、てぇてぇ営業というのか仲の良さアピールが多い。これは何も職業故に始まった試みじゃなくて、女性同士の友情が男同士の友情と少し旗色が違うせいだ。


 仲が良すぎる女友達は友人が別の女性と仲が良かったり、あまつさえ男と恋人になったりしたら嫉妬することがある。これは友情と恋愛感情の区分が曖昧になってるからだ。

 相手に恋愛感情を抱いているのか友情を抱いているのか本人でも分からなくなることが女性だとあるらしい。おそらく生理的嫌悪が男よりも低いせいだな。

 本能的な忌避感が薄いから女性だけの場所に長くいると女性同士のカップルが簡単に生まれるし、世間に出ると簡単に別れたりする。百合カップルの中でも、ガチで女性が恋愛対象な女性とノーマルな女性とが混在してたりするのだ。

 男には友情と恋愛感情の区分が曖昧だなんて理解はできないから、仲の良い女友達は全員が百合に見える。これがVtuber界隈に蔓延しているてぇてぇの正体だ。


「や、お姫ちん。元は男の人でしょ? なんで女の友情にそこまで詳しい訳?」

「姫プレイヤーとして活動する為に観察してた」


 それに元々オタクだから、Vtuberはよく見てた。我ながらキモいな。


 まあ、そんなわけでネカマはアウト。TS設定も本当の性別が曖昧になるからアウト。ホモ設定もネタにはされるだろうけど登録者数は増えないだろうしアウト。

 こうして採用されたガチレズVtuberになったのでしたとさ。

 俺単体ならネカマもTSも面白い感じにネタに出来たと思うんだがな。弘文、覚えていろよ。

 完璧に女性扱いされるとセクハラは酷くなるしギャグに走りにくくなるし要所ではアイドルムーブを期待されるしでハードルが高くなるんだよな。

 歌とか今からでも練習しておくか。やれやれ。



――――――

めっちゃ早口で語ってます

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