二十話 デビュー前夜
既に死んだはずの息子を佐藤家に住まわせておくわけにもいかず、浩介は俺達と一緒に暮らすことになった。
タラコ唇さんとの同棲を邪魔するお邪魔虫だが、絶対服従のエインへリヤルだし何かの間違いは起こらないだろう。少なくとも俺の目の前では。
これから人数も増えていくだろうし守るべき規律を設けるべきなのかもしれんな。ずっと命令するわけにゃいかんし不届き者は目の届かない所で事を起こすだろうし。
「それにしても妹さんはチートをせがまなかったな。内心は気になってソワソワしてたのが丸わかりだったが」
「アリス姫、やっぱり利香を巻き込むつもりだったんですね」
責めるような目で浩介が見てくるが、偽りとはいえ超常の存在を明かすのだ。いっそのこと関係者にしてしまえと考えるのはおかしな事じゃないだろう。
「浩介もチートを貰う代わりに死後の魂を渡すのに最後は納得してただろ。妹には選択肢すら与えないつもりか? 死後にどうなるかなんて分かってもいないのに。完全に消滅したり浮遊霊となって現世をひたすら彷徨うかもしれないんだぞ」
「お姫ちん。確かにそうだけど、家族には普通の人生を歩んでもらいたいって気持ちもわかってあげようよ」
「普通の人生ねえ……」
浩介に説教、いや説法? 洗脳、これだな。をしていたらタラコ唇さんに水を差された。
俺はやりたくもない仕事をやってギスギスした人間関係を騙し騙し続ける普通の人生とやらに一切の魅力を感じないんだが、タラコ唇さんと浩介は違う意見らしかった。
大学生で社会生活を知らない浩介はともかく激務のプログラマーを仕事とするタラコ唇さんが浩介側なのは意外。やはりキツくても自分で選んだ道だと充実してるんだろうか。
適当に生きて遊んでた俺には分からんな。まあ、遊びに全力を尽くしていたからチートを貰っても活用できてるんだし、後悔はないけど。
「まあ、詐欺同然に契約した俺を不審に思うのは分かるが、妹には妹の人生を選ぶ権利があるんだぞ。お前だってネトゲに熱中してた時に余計な口を挟まれるのは嫌だったろ」
「それは、はい。理解はしてるつもりです」
不承不承、浩介も頷いたのでこの件は終わりだ。妹さんも必要以上に近付こうとはしなかったしな。本物の魔女を誕生させる計画は一旦、白紙に戻そう。
それよりも。
「浩介、サブキャラの育成は進んでいるか? いや、キャラメイクをするだけでもいいんだ」
「そ、それってまさか」
「言ったろ?」
青ざめてる浩介をニヤリと笑って見る。
「死後はTSしてメイドになれって」
かくして俺達の家に赤毛のロリっ娘が一人増えた。
それからしばらくは俺は浩介と一緒にブレイブソルジャーでシンクロ率の訓練。タラコ唇さんは仕事漬けの日々を送った。
アリス姫の炎上によるPK祭りは弘文の性別暴露により、なりを潜めたので障害とはならなかった。非常に不本意だが感謝してやらなくもない。
炎上が治まったばかりの今こそが好機だとVtuberの3Dモデルを完成させようと修羅場モードに突入してタラコ唇さんは作業に没頭している。いよいよ配信者としてデビューする日も近い。
最初はブレイブソルジャーから興味本位で覗きに来る連中ばかりだろうし、ネカマの姫プレイヤーとしてロールプレイするつもりだったんだが、北欧系美女としての情報も拡散してるしどういった姿勢で挑むべきかね。信憑性は薄いけど、うちのギルド連中が完璧に信じているせいで茶化して流すことも出来ねえんだよな。
あー、んー、本格的にリアル北欧美女をやるには英語も話せないしなー。日本生まれのクォーター設定は……リアルの容姿を表に出すことで成り立つもんだしなぁ。
あ。そういやネタで立てた質問スレでTS美少女をやってたか。
ネトゲの方でもチート転生者のロールプレイつーか、事実を話してるし。いっそのこと隠し立てせずにありのままでVtuberになるのも一つの手か?
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