十九話 ラノベ展開? いえ、ただの詐欺師です
佐藤家への訪問は翌日に何とか実現することが出来た。
仕事で忙しいのにノートパソコン持参で付き合ってくれているタラコ唇さんには頭が上がらない。家族が急死してショックを受けている佐藤家にも。
浩介本人はファンタジーな世界に突入できて満足気なんだが、家族はたまったもんじゃないだろう。
「はぁ、それで浩介はまだ死んでいないと」
「ええ。アブラハムの信者に迫害されて伝承が途絶えてしまっていますが、ウィッチクラフトの知識ではまだ蘇生可能な範囲です」
馬鹿正直にチート能力者ですとか白状しても信頼して貰えないだろうから同じように胡散臭くても歴史の長い魔女を装った。
スラスラと息をするように嘘を吐く俺をタラコ唇さんが何か言いたげに見ているが、西洋人のガタイの良い男が物言いたげに見ていることが俺の話に信憑性を持たせていることに気付いているだろうか。
少なくとも浩介の両親は死んだはずの息子が姿を現して、しかも実体化と霊体化を実演してみせたことでほぼ信じている。
葬式屋にも警察にも連絡せずに、鑑識係もしくは検視官が帰ってから人知れず俺達に会ってるのが証拠だ。
唯一、妹さんが凄まじい目で睨んでいるが。
「待って。何でそんな表社会から潜んでいるような人が出てきてんのよ。昨夜も死んだはずのお兄ちゃんから電話が来てたけど、私達はまだお兄ちゃんが死んだことにも気付いていなかった。そもそも何でお兄ちゃんは死んだの?」
「お、おい利香」
「お父さんは黙ってて!」
ははーん。さては俺らが殺したと思っているな。半分は当たってるよ。
妹の江利香(えりか)さんは高校生なこともあってサブカルに慣れ親しんでる上にファンタジーを現実のものとして受け入れられる年頃だ。こっちの意見を鵜呑みにするのではなく、超常現象が実在のものであることを前提にこっちの人間性を疑ってきている。
確かにこの状況で死因がただの心臓麻痺だとか、あまりにも疑わしい。アニメなら犯人はお前だと視聴者に突っ込まれていることだろう。
「私共(わたくしども)が殺害したと、そう仰(おっしゃ)りたいのですか?」
「違うの?」
「ふふっ。まあ、そう捉えられなくもないでしょう」
「やっぱり!」
ここで否定しても相手は納得せず後々まで尾を引くだろう。
それなら疑念を一部肯定して話を進めていった方が良い。
タラコ唇さんと浩介は大丈夫かよと俺の方を見つめているが心配ない。それでも蘇生は俺にしか出来ないのだから、最終的に恭順するしかないのだ。
「浩介さんはサブカルの類いがお好きでいらしたようで、その延長線としてオカルトにも手を出されていたのです。他愛もない遊び半分だったのでしょうけど、本物に辿り着くとは運がなかったですね」
「それは……ああ、ありそうね」
納得する妹さん。ネトゲに熱中してて廃人してたんだからオカルトに興味を持っていてもおかしくはないだろう。
お前の兄ちゃん本当はネカマの姫プレイヤーに貢いでたけどな!
「ウィッチクラフトは未熟なものが扱うと容易く命を落とします。浩介さんは不肖とはいえ私の弟子のようなものだったのです」
「ええ……、普通そんな胡散臭い集団に入ろうとかする?」
「い、いや本物だったんだから俺の慧眼を誉めてくれよ」
大学生だしネトゲに嵌まっていたとしても大学には行っていただろう。大学は色んなサークルが勧誘活動をしているし、中にはオカルト関連のサークルも混ざっている。
奇妙な縁で本物の魔女に出会うこともあり得なくはない。ラノベならば。
妹さんの視線の性質が完全に切り替わっている。
不審で異様な存在に対する威嚇の目から、身内の変態が迷惑をかけた被害者に対する目へと。
兄の威厳を生贄に妹の信頼をゲット。チョロいもんだぜ。
「現状では蘇生の儀式を出来る条件が整っていないので、遺体を腐敗しないように保存しておきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。愚かな兄ですが、よろしくお願いします」
妹さんが頭を下げて、何か言いたそうな浩介を背景に佐藤家の訪問は終わった。
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