十八話 セクハラ社畜とムッツリ坊主

 新たに現れたエインヘリヤルの二人の男。チラチラとこっちを見てたムッツリが佐藤浩介(さとうこうすけ)、20歳の大学生。ガン見してたセクハラ男が土谷弘文(つちやひろふみ)、28歳の社畜。

 二人ともアリス姫親衛隊に所属して俺に貢いでいたギルメンだ。リンクのチートを所持している。

 特にムッツリの浩介は俺から事情を知らされるまでネトゲにチートの秘密があるに違いないと頻繁に潜っていた高シンクロ率を誇る我がギルドの精鋭だ。

 そんな人材がどうして死んだのかというと。


「炎上でギルドがPKの標的にされてんのか」

「はい。普通にログインするだけならともかく、リバースリンクを使用するのは止めた方が良いかと」

「蘇生魔法を覚えるのは80レベルだからシンクロ率を80パーセントには上げておきたかったんだがな」


 そうすりゃ死体さえあればこいつらも蘇るかもしれない。エインヘリヤルで生前とあんま変わらんといっても死んだのは事実。

 ゲーム内なら蘇生魔法も復活アイテムも使用可能なのに死んだってことは、それだけ何度も殺されたってことなんだ。良い気はしない。

 痛覚はないし、この二人も他のギルメンを庇って死地に残ったというんだから覚悟は決めていたらしいが、それでもな。


「いえ、姫様にお会い出来たんですから残った価値はありました」

「あそこで逃げるなんて男じゃないしな」


 ニカッと笑い合う男共。戦友というのはやはり特別なものなんだろう。

 まあ、それはともかく。


「二人の出身地と家族構成を教えてくれ。死体を回収しにいかにゃならん」


 もう夜中だが、まだ終電の時間じゃない。のんびりしてる暇はないのだ。



 社畜の弘文は東京都内に一人暮らしだったこともあって死体の回収はすんなりと済んだ。

 隠蔽が完璧に出来たこともあって明日も仕事に行かないといけないと気付き絶望していたが。死後も社畜を辞められないとは哀れな。

 問題はもう一人の浩介の方だ。


「利香、頼む。部屋には入らないで明日まで何とか両親を誤魔化して……おい、待て。入るな、待てって!」

【お兄ちゃん、寝てるの? 変な電話が……。ねえ、お兄ちゃんって。キャアァァッ! お兄ちゃん、お兄ちゃんがァ!?】


 青森に家がある浩介の自宅には今日は辿り着けないから、何とか誤魔化そうとコッソリ妹に連絡をとったところ、見事に逆効果だった。

 エインヘリヤルのメンバーの死が初めて表沙汰になったな。どうするか。

 悩みながらも、とりあえずは浩介の自宅に向かうことにした。電話も慌てていたのか既に切れているらしく、再度の通話も通じなかったのだ。


 列車を乗り継いで可能な限り早く浩介の実家に辿り着いたが、既に手遅れで医師の診断を受けて死亡が確認された後みたいだった。

 現在は警察が犯罪性がないかを調査して死体検案書を作成している段階だろう。自宅周辺にパトカーがある。

 この後、異常がなければ葬儀屋に連絡をして遺体を火葬したり遺骨を埋葬したりするんだが……隠蔽は不可能でも遺体の入手は出来ないだろうか。

 エリンへリヤルのコストカットも理由の一つだが、やはり生前の肉体を蘇るかもしれないのに処分するのは精神にクルだろう。本人だけでなく家族も。

 俺達の存在を隠蔽するならこのまま座して何もしないのが良いのは分かっているんだがな。浩介を家族に会わせないなら死者が蘇るなんて異常事態も発覚する可能性が低いままだ。理屈ではそれが正しい。

 社会にチートが表沙汰とならない方が良いという考えも変わっていない。だが、これからずっと付き合っていく仲間に家族と二度と会うなと命令するほどのことだろうか。


 掲示板に内情を暴露した俺が? ないね。


「浩介、俺達は近くの店で時間を潰しておく。葬儀屋に連絡される前に何とか家族と連絡を取れ」

「アリス姫。いいんですか」

「小さいことを気にするな。ギルドの仲間だろ」


 黙って頭を下げる浩介を残してタラコ唇さんと歩いて行く。

 タラコ唇さんもリンクで変身して外国人の男に見えてるし俺も大人バージョンだし、えらいハードボイルドな感じだな。そもそも浩介が死んだ原因は詐欺って下僕化チートを施したからなんだが。これがマッチポンプという奴?

 まあ、本人が納得してるし、いいだろ。


「あ、お姫ちんが女だってバラされてる。ついでに私も」

「あのセクハラ社畜野郎が!!」


 とりあえず弘文はボコる。

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