十七話 正義の在処
風俗店での資金調達は4万円が4千万円へと化ける大成功を収めた。
代わりに洒落にならない化物を生み出してしまった気がするが、まあチートを配っていくなら何時かは直面した事態だと思うから気にしない気にしない。
習得したチートがエナジードレインだから寿命でのリタイアが期待できないのが不安だが、別に俺、恨まれるようなことしてないし。
サキュバスとか騙したのはチートの成長には必要不可欠だったからなんだから、バレても平気やろ。たぶん。
「お姫ちん。それフラグだよぉ」
話を聞いたタラコ唇さんは頭を押さえて、んあーと呻いている。可愛い。
ミサキちゃんの話をしていた時は嫉妬でむにゅむにゅするだけで別に問題なかったんだが、ユカリさんが登場した途端、ムンクのようになった。
「エインヘリヤルにする為に死後の魂を確保することが常識になってて実感ないだろうけど、詐欺みたいな形で死後の魂を手に入れるのは恨まれてもおかしくないことなんだよ」
「ああ、確かにそうか」
真っ正直に事情を話してエインヘリヤルにしたのが姉だけだから、詐欺ることが常態化していて気付かなかった。
魂を騙して手に入れるとか悪魔の所業やん。
「まあ、悪魔なんて別の地域の神様なんだし、それはいいや。そんなことより、仕事の方はどうなったの?」
「そんなことって、もう。仕事は緊急性が高いのは片付いたから後はお姫ちんが寝てる間にやっておくよ。アリス姫Vtuberデビューに必要な作業も平行して続けていく予定だけど」
「ああ、炎上してるもんね」
「何でこうなったかなぁ……」
消沈してるタラコ唇さんは本人である俺以上に傷ついた顔をしている。
念願のVtuberプロデュースに最初から躓いたんだから、さもありなん。
アーティスト寄りの技術者は心が繊細だから、ネット越しで匿名故に肥大した心ない悪意の一言が刺さるんだろう。
まだ大人バージョンから戻っていないからタラコ唇さんが何時も以上に小さく見える。後ろから抱きしめて新調した絨毯に座ると、胸に顔を埋めて甘えてきてくれた。
「大丈夫。Vtuberなんて注目されてナンボなんだから、デビュー時の炎上は登録者を増やすプラスになってもマイナスにはならないよ」
「でも、真面なリスナーが居着く前にアンチが居座って嫌がらせをされてたら、活動を続けていけなくなっちゃう」
「アリス姫が客観的に見て悪いなら潰れるまで炎上祭りは続くかもね。人は嬲ってもいいと保証されると驚くほど残酷になるから。だけどアリス姫は悪いことなんてしてない。なら義憤に駆られた人が擁護してくれる。うちのギルドもそうでしょ。謂れのない差別はね、仲間の結束を強めるんだよ」
気持ちが悪い、キモい、許容できない。そういう感情は論理的な説得では何一つ変えることは出来ない。距離を置いて冷静になって時間が相手の考えを変えることを祈るしかない。
でも大事な物が謂れもなく粗雑に扱われた人ほど憤怒する。それは正義だからだ。自分達には怒っても良い正当性があると思えるからだ。
人の性は悪性に傾くこともあれば同じ感情で善性に傾くこともある。面白い話だ。
「お姫ちんって時々、達観してるよね。凄いなぁ」
「そかな? 単に人の意見なんてどうでもいいと思ってるだけなんだけど」
「ふふっ。そういう風に捉えられない人が多いんだよ」
キスをするでもなく、セックスをするでもなく、ピタッと引っ付いて過ごすことが何故かとてつもなく安心する。
いちゃいちゃしたいって要するに心の充足が欲しいってことなんだよな。
神様に願ってしまうほどに俺は人が恋しかったのか。
そう考えると、とてつもなく恥ずかしいな。
「ん? 何か変な視線が」
不意に他に誰も居ないはずの部屋で視線を感じて振り向くと、男が二人ほど所在なげに立っていた。
いや、片方は視線を逸らそうとはしているがチラチラとこっちを見ていて、片方はガン見しているな。
「あ、俺らのことは気にせずに続けて下さい」
「アリス姫はともかく団長も女性だったのか……」
魂だけだし新しいエインヘリヤルで発言内容からギルメンの一員か。
恥ずかしがったタラコ唇さんが、にょわー!と奇声を上げて立ち上がる。俺がよく使うせいで感染してしまった言葉だ。
それよりエインヘリヤルのチートってもうちょっと融通が利かないの?
トイレとか風呂とかエッチの時とかに急に来られても困るんだけど。もっと大勢に覚醒チート使ったら寝る暇もねえな。
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