十五話 サキュバス

「どうも、ミサキでっす。今日はよろしくお願いしますね!」


 新宿駅でのナンパ攻勢がウザかったが、何とか目的地である歌舞伎町の風俗店に辿り着いた。

 途中で真っ昼間なのに泥酔していた酔っ払いに腕を捕まれたりもしたが、エナジードレインで生命エネルギーを吸い取ったらイビキをかいて寝始めたんで問題にはならなかった。あと、満員電車で周囲の客から少し分けて貰ったりもしている。

 自然から吸収するより生命エネルギーは多かったし、地方での数日間の収穫と同じだけの成果が数時間で集まった。

 何だ、エネルギー問題なんて意外と何とでもなるな。

 電車で痴漢してきた不届き者もスムーズに撃退できたし……治安、悪くない?

 東京ってこんなに危ないとこだっけか。


「それにしてもお姉さん、美人ですよね。色気が凄いっていうかっ。アタシが担当でラッキーだったかも」


 あー、俺が美人すぎるだけってことかな。タラコ唇さんと二人の時はナンパされはしてもここまでじゃなかったし、大人バージョンがそんなにヤバいのか。

 それに男だった名残で隙が多いのかも。押せばヤれそうとでも思われたか?


「ありがとう。私もこんなに可愛い娘が相手で嬉しいわ」

「えへへっ。お金を出してまで来て言ってくれると、本気だって思えるな。キュンキュンしちゃう」


 俺の担当の風俗嬢は短く切り揃えた金髪の元気娘だった。

 金色に染めた明るい髪は俺に比べるとくすんでいて濁って見えるけど、それはそれでありなんだよな。

 俺の髪色がプラチナブロンドの白っぽい透明さのある金髪なら、ミサキちゃんはアッシュブロンドのグレーが混ざった金髪だ。

 日本人が想像する金髪はミサキちゃんの方だろう。

 おまけに細い体型の割に胸がデカくて背がちっこい。いいね。ロリ巨乳とか大好きだ。

 年齢は二十歳だってことになってるけど、こりゃ未成年の疑いもあるな。

 風営法で未成年の風俗勤務は規制されてるけど、年齢詐称は単体では犯罪じゃないから風俗店では当たり前に年齢を偽る文化がある。それを利用して未成年者が年を誤魔化して働くことも珍しくはないのだ。

 年齢詐称は詐欺行為に該当するとしてもせいぜい軽犯罪だしな。赤信号を無視して道路を渡るようなもんだ。警察もわざわざ取り締まらない。

 まあ未成年が働いてることが明るみになったら店を潰されるが。


「それじゃ一緒にお風呂に入りましょうかっ」

「よろしくね」




「あっ……んぅ……」


 多くは語るまい。良かった。

 やはりプロは違うな。こう身体の使い方というか性に対して真剣に向き合っている。

 性技の指導とかあるんだろうか、ひょっとして。夢が広がる。


「ご、ごめんなさい。お姉さん……何でか異様に疲れちゃってぇ」


 むわっと性臭が漂うミサキちゃんは精根尽き果てたようにグッタリしててエロい。

 もちろんエナジードレインで生命エネルギーを吸い取ったからだ。そこまで性技に自信はない。


「これならどう? 楽になったでしょ」

「あ、あれ? 急に身体が……」


 手を当てて精気を多めに返すと見違えるように元気になったミサキちゃんは疑問符を浮かべる。

 気のせいなんて言葉で済むような差じゃないだろう。


「エナジードレイン」

「え?」

「これが世間で私達がサキュバスとか吸血鬼とか言われている秘密」


 ポカンとしているミサキちゃんが可愛くて思わず吹き出してしまった。


 何故、いきなり風俗店に来てチートをバラしているかというと、エナジードレインの能力詳細をスキルコピーで暴いた際に獲得条件が判明したからだ。

 姉に施した神様転生方式のチート覚醒はイレギュラーで、本来なら別の獲得手段がある。いや手段というか人種だな。

 霊能力が幽霊を信じることによって獲得できるように、エナジードレインは性を生業とする者が獲得するチートなのだ。サキュバスのイメージ通りだな。

 他にも暴力団なんかの反社会的組織がエナジードレインを獲得できる。こっちは吸血鬼のイメージかな。隠れ潜み暴力を生業とする集団。日本の暴力団でピンと来なかったら海外のマフィアを想像してみるといい。裏社会を仕切る吸血鬼が想像できるだろう。


 思ったね。これは金になるんじゃないかって。

 エナジードレインは人の積年の夢である不老不死を実現できる。富裕層にコネがありゃ数十億だろうと頷くだろうよ。

 危険すぎて試そうとも思わないが。国家を動かすことも出来る不老不死を実現した権力者が自分の死後を大人しく受け渡すわけがないんだ。

 死後にどうなるかなんて考えもしてないだろうに、目に見える位置にそういう存在が現れたら崇めるか排除するかしか選択肢なんてないんだろうな。

 そういう意味じゃ暴力団も危ない。

 身の危険を感じるのもそうだけどチートを手にした反社会組織なんて手に負えん。死体をミイラにして粉々にしたら殺しの隠蔽が余りにも簡単になってしまう。

 まあ、今でも裏で隠れて殺してるとは思うけどね。死体の始末が難しいなら自殺にでも見せかけてるだろ、どうせ。


 それに対して風俗嬢はどうだろう。店は暴力団のドル箱として扱われているとしても風俗嬢個人は?

 単なる民間人だ。日本の風俗嬢は30万人もいるという。その全てが暴力団と繋がっているわけがない。

 むしろ風俗店は暴力団にショバ代を支払わないと様々な嫌がらせを受けるし、トラブルから守っても貰えない。単なるカモだ。

 余程の馬鹿をやらかさない限り、依頼料を払ってまで風俗店が暴力団にトラブル解決を頼むことはない。


「ねえ、不安じゃない? 何時まで風俗嬢として稼げるのか、性病にかかったりしないか」

「そりゃ思いますけど……」


 将来への不安は誰しもが持ってる。特にこういう次への潰しが効かない職種は。法の保護の外に置かれる場合が多いからだ。

 それに風俗嬢は稼ぎも凄いから、妬みと軽蔑の両方の目で世間に見られて助けても貰いにくい。


「サキュバスの仲間になるならエッチの際にちょっとエネルギーを貰うだけで何時までも若々しいし、病気にも強いわよ?」

「わ、若く見えるって寿命とかは……」

「そんなもの、ないわ」


 ミサキちゃんは若さに食いついたが病気に強いってとこも風俗嬢に取っては垂涎の能力だと思う。

 淋菌感染症、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、梅毒、そしてHIVウイルス。

 店がお金を出して定期的に検査をしてるところもあるけれど、そんなとこは一部の高級店だけだ。

 多くの店は風俗嬢個人に任せていて、お金も風俗嬢の自己負担だ。しかも症状が出なければ保険適応すらされない。


「代金は今ならなんと100万円!」

「お金、取るんですか!?」

「そりゃこんな破格の力、誰もが欲しいでしょ。むしろ安すぎて不安なくらい」

「確かにそうですけどぅ……」


 項垂れるミサキちゃん。何というかサキュバスのイメージを壊してごめんね。

 でもこれで4万円が100万円に早変わり。なんて酷い。

 風俗に来て金を毟るチート転生者とか俺くらいだろうな。



――――――

風俗店の話に主人公の印象がかなり混じってます。

未成年に働かせると店が潰れるので面接官は年齢確認は怠りませんし、ヤクザへのショバ代も一昔前の話だそうです。

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