十三話 プロは何処の世界だろうとお高いもの
幽霊騒ぎの後、観光旅行を楽しんだことでリフレッシュは出来たけど、タラコ唇さんの仕事が洒落にならないレベルで遅れていたのでしばらくはそちらに専念することになった。いちゃいちゃも出来ない。あの巨乳を揉みしだいて眠るのが最近のマイブームだったんだが。
俺もゲーム内で自己研鑽をすべきなのかもしれないが、リバースリンクでシンクロ率を鍛える前にせっかく手に入れたエナジードレインで身体能力を上げておきたいんだよな。木々から分けて貰った精気は姉のミイラを普通の死体に戻すのに大半を使用したから、俺自身の身体能力はあまり変わっていない。補充しに行きたいんだが、東京近郊で自然豊かな場所って何処だ? 名所とかの有名所は目立つし無理だよな。
いっそのこと富士山とか日本有数のパワースポットにでも向かってみるか。幽霊が実在したんだし自然崇拝とか山岳信仰とかの総本山は凄いことになってるだろ。
でもその為の金がないな。生活費を考えると辛抱しないと。ガチで困窮してきてる。
「お姫ちん。Vtuberの件なんだけど」
ああ、そっちの準備もあったな。俺がすべき事前準備って何があるんだっけ。
「アリス姫を3Dにするで良いんだよね? 元となる絵が欲しいんだけど描ける?」
「余裕、余裕」
普通なら、あーでもないこーでもないと数時間は格闘するんだろうけど、そんなの無駄だ。ちゃっちゃと終わらせよう。
用意するのはカメラと子供用衣装。これだけ。他に必要な物はない。そんで。
「リンク『ブレイブソルジャー/アリス姫』」
身体が十歳くらいの幼女に変わっていく。鏡で確認するが完璧なアリス姫だ。
基本衣装はブレイブソルジャーの装備である瀟洒なドレスでいいかな。
「この姿で写真を撮るだけでモデリングの手間を考えなきゃ複数の衣装も実装できるし便利でしょ」
「なっ……」
愕然とするタラコ唇さん。どうやら想定外らしい。
せっかくチートを手に入れたんだから上手く活用していかないと。
「ずるい、ずるい、ずるいぃぃ。3DVtuberの高クオリティイラストは頼むだけで数万円とそこそこの時間は必要なものなのにぃっ」
いや、それは高すぎだろ。イラストは数千円での注文が可能ってネットに……有名所の絵師さんだとそんくらいが相場なのか?
確かに仕事として絵を描いてるようなプロが端金で仕事を請け負うはずがないよな。漫画を出版してるような人だと請け負ってもくれないかもしれない。
Vtuberは遊びじゃない。活動をしていくことで視聴者から投げ銭を貰ったり、広告費で稼いだりと給料が発生する歴とした仕事だ。
企業ならマネージャーやタラコ唇さんのような技術者がいて、最新機器で演者の動きをトレースするような機材を使用している。
演者も声優事務所からの派遣として来ているようなプロ声優の卵だったりして事務所に一定金額を支払ったりもする。
そこまでしても人気が出なければ赤字になるし、上手くいってるように見えても炎上して簡単に破綻したりする。
芸能界が華やかに見えても数々の苦労が裏にあるようにVtuber業界もお気楽な世界じゃないのだ。
まあ、素人が企業のオーディションに合格して瞬く間に人気Vtuberへと駆け上がっていくようなシンデレラストーリーが実現しているのもVtuberの面白い所なんだが。
そんな仕事の顔になるようなVtuberのイラストをたかが数千円で依頼するか? しないだろ。
数万円でも安いのかもしれない。ちょっと奮発してでも有名な絵師に頼みたいのが正直な所だと思う。
「写真は写真で専門のカメラマンさんに頼みたいのかもしれないけどな。タレントの宣材写真とかプロにしか撮れないだろ」
「ううん。Vtuberの3Dモデリングには無表情の顔が必要だったりするし、勝手が違いすぎるから頼まないかな」
さっそくカメラを手にしたタラコ唇さんが俺の姿をパシャパシャ撮っていく。
他にも実写に近すぎるとVtuberのアニメ絵としては向かないから、画像加工を施して良い感じにデフォルメする予定だ。
写真をアニメ絵に出来るとか凄いよな。アニメーションとかに活用すれば納期が早くなりそう。いや、実はもう活用してるのか?
「どうだろうね。3Dをアニメーションに活用しても手描きの作画が消えることのなかったように、要所要所に取り入れてもそこまでのスピードアップは難しいんじゃないかな。全体の整合性を取らなきゃならないし、現実にない景色は結局のところ人が描かなきゃならないし」
まあ、そうか。それに取り入れたら取り入れたでコストカットの名目で人員を減らされそう。
「うっ、ありそう。最近、海外から優秀なアニメーターが引き抜かれているからコスト増になってるんだよ。更なるデスマーチの予感がする……」
オタク同士なだけにアニメの話題がすんなりと通じて嬉しい。
一般の人だと作画って何? とか諸々の説明で会話が止まってしまうからなぁ。
ネットならググれカスの一言で済むんだが。
「私もお姫ちんと面と向かってお喋り出来て嬉しいよ。昔はボイスチャットしててもお互いに声を変えて素性を隠してたから、深くまで踏み込めなかったし」
「確かにね」
タラコ唇さんは実は女だとネトゲでバレるのを恐れてぶっきらぼうなキャラだったし、俺はオタクに貢がせようとネカマモード全開で姫キャラを演じていたし、互いに正体を偽っていた。それでもタラコ唇さんは姫プレイに付き合って面倒を見てくれていたし俺もタラコ唇さんの愚痴を聞いてずっと相手をしていたし気は合ってたんだろうな。ダチだろうと女々しく何時間も愚痴を吐く男を相手に出来る自信はないもの。
他のセクハラ男はボロクソに言って撃退してたし。いや、これは本当に相手が悪い。ネットだからってもうちょいマナーは守れよ。
ストーカーみたいに付き纏ってくるだけならまだしも相手にされないと分かるやPKを繰り返して意識させようとするとか阿呆か?
我慢できずにネカマ宣言したらどっかに行ったが、今も変なのは時たま湧くんだよな。リバースリンクをする時は本当に気を付けないと。
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