十話 リアルとオカルト前編
アリス姫は可愛らしい顔立ちにゴシックロリータを着た典型的な幼女キャラだが、性格はクールで辛辣。その上、ツンデレ。
これはネカマ宣言をしてから次から次へとやって来たキモオタのセクハラを罵倒し続けた結果だ。オタクの中には陰キャコミュ障が多数混じってて、空気が読めずTPOも考えず加減も出来ずセクハラをしてくる輩も多いのだ。まあ、人が嫌がることをするのが唯一の楽しみ的な確信犯も混ざっているが。
それでも癒やし系幼女を最初は目指していたんだから罵倒する時は優しく傷つけないように加減するようにしている。ネカマだからって何しても良いわけじゃないようにセクハラされたからって何しても良いわけじゃないのだ。
それが弱腰対応と見られたのか反応に興奮したのか知らないが、更にキモオタが寄ってくるようになったが。
他のツンデレ成分はアリス姫としてロールプレイをしてない時の素の対応が原因だな。ネトゲをしてる間中、ロールプレイを続けていたんじゃ疲れてしまう。
アリス姫というキャラとプレイヤーは別だという認識も広まっていて、ツッコミやボケのお笑いや理不尽な目に遭ってる時なんかは俺として反応を返している。
それが良いって俺の方が好きな変態もいて大変気持ち悪い。
最低限、キャラ崩壊をしないようにと女声だけは続けていたのが原因だろうか。男の声をネタにしたり歌ったりすればウケるし反応も良いだろうが、アリス姫というキャラクターが本格的に崩壊してしまう危険性がある。アリス姫ガチ勢なんかは離れていくんじゃないかな。
タラコ唇さんあたりはアリス姫ガチ勢だから危なかった気がする。思い留まって良かった。
今じゃもう、男の声は出せない。頑張っても少年風にしかならないだろうな。声帯が女になって変化したから。
これはひょっとして、女疑惑の払拭が不可能になったのでは?
「にょわー!」
「頑張れ、姫様!」
「効いてるっ。効いてるよ!」
「あざとい」
「うむ、これはあざとい」
「だがそれがいい」
チート能力、リンクを最大限活用する為に現在はシンクロ率を鍛えようと雑魚モンスターをポコポコ殴っている。
シンクロ率が低いとステータスが低くスキルに魔法を発動できないだけでなく、装備も低レベルのものしか装備できないとは思った以上に制限がある。
その上、普通のプレイヤーからは本来のキャラとは別キャラのように見えてるらしく同一キャラ扱いされない。
リバースリンクで魂がアバターに宿るシーンはどんな感じに認識されてるのかね。危険なんでギルメンには隠れてやるように指示したけど。
「た、倒した……」
「姫様、レベルアップしてるよ」
「おめでとう」
「おめ」
「やっと回復魔法が解禁されるな」
「パーティメンバーを回復させるだけじゃ経験値効率、悪いけどな」
「でも現実で回復魔法を使えるようになったんだぜ?」
「奇跡じゃん」
うげっ、現実で不用意に魔法を使うなよ。言い訳が出来なくなる。
まあリンクチートを持ってる時点で今更か。ギルメンを信頼するしかない。
俺のチートの仕様上、チートをばらまくのは確定事項だ。神様も最初からそのつもりで俺に他者覚醒チートを与えただろうから、迷いはない。
問題は現代社会に何時までバレずに居られるかだ。神様に許して貰えても社会に許容して貰えるとは思えない。
チートの存在が現実のものとして表社会に明らかになる前に現代社会に対応できるようなチートが必要なんだが、無差別にチートをばらまいた所で死なねえだろうしな。
俺のチートにゃならない。むしろ発覚の時期が早まるだけだ。
今は潜伏してリンクチートを鍛えつつ見付からないように祈るしかないのだ。
ま、自分達から掲示板に色々と書き込んだけどね!
ガチで馬鹿だな。俺らって……。
落ち込みながらも続けた修行は、ホーリーバーストというプリースト系列が使える攻撃魔法を習得したところでお開きとなった。
これで何とか一人でも普通にシンクロ率修行が出来る。ホーリーバーストはゾンビや幽霊といったアンデッド系統にしか効果がないけど。まあ、そこは墓場エリアを狩場にすればいいだけだ。問題なのはプレイヤーには無力だってとこだな。PKに狙われたらどうにもならない。
ゲーム内では護衛を引き連れて歩くように注意するか。街中でも安全エリアじゃないからギルドホームに入るまでは気が抜けない。GvGの際には市街戦が始まるのがブレイブソルジャーでは常識だからな。ギルド戦はイベント時限定だけど、PKはいつでも可能だ。
【お姫ちん、急いでログアウトをしてくれ】
ん、タラコ唇さんからギルドチャットで呼びかけられてるな。現実の身体に何かあったのか?
現在地はもうギルドホームの目の前だ。元より解散しようとしていたとこだし、一足先に抜けさせて貰うか。
「それでは騎士様方、所用がありますのでお先に失礼させて頂きます」
「姫様に敬礼!」
「うーすっ」
「お疲れ様~」
「乙」
「晩飯どうすっかな。ゲーム飯を食ったばかりなんだが」
「肉体は栄養を補給してないから、食わないと餓死するぞ。気を付けろ」
「え、マジ?」
ちょっと気になる情報を聞きながらログアウト処理とリバースリンクの解除を行う。
ログアウトをすれば自動的にリバースリンクも解除されるからゲーム内にアバターがないのに意識だけは閉じ込められるなんて事態もない。
こういう細かな部分は神様側が調整してくれてるのかね。サポートが行き届いてる感じがする。
何時の間にか閉じていた瞼を開くと、目の前には自室から持ってきたデスクトップパソコンがあった。画面はブレイブソルジャーのログアウト直後だ。
強張った身体を動かすと華奢な身体と長い金髪が視界に入る。ビスクドールのような綺麗な身体に未だに違和感を抱く時がある。
確かめるように発した声だけはネカマをやってた頃と変わらない女声で安心する。つーか、男の身体でよく出せてたな。
溜息を一つ吐くと、タラコ唇さんにログアウトを急かされた理由を聞こうと振り向いた。が、そこにあり得ない人影を見て硬直する。
「よ、タカ坊。ゲームは楽しかったか?」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて姉が立っていた。魂だけで。
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