九話 オーディンもこれには困惑
諸々の話し合いが済んだのでやっとリンクチートのシンクロ率修行に移行できた。
最初はアリス姫の回復魔法・死者蘇生魔法無双でギルメンをゾンビ戦法でモンスターに突撃させる。
どうやら五分間の蘇生可能期間に復活すれば現実で死ぬこともないらしく新しいエインヘリヤルが増えることもなかった。チッ。
ブレイブソルジャーでは五分経過後に神殿でリスポーンするので死体が残らないんだが、現実でどういう判定になるのかは曖昧だ。死体さえあれば蘇生可能なのか、五分経過すると復活できないのか、死体と魂の組み合わせが必要なのか、わからない。
予測ではおそらく最後のパターンだと思うんだが。そうなると魂が死体を離れてあの世に行くとアウトなんだから、7日間が蘇生可能期間か?
有名な法事の49日は仏教と民間信仰の融合であり閻魔大王の裁きを一週間毎に7回受けて極楽浄土に行けるかが決まるというものだ。
その際に三途の川を渡って死後の世界に行くのが7日後と言われている。それまでは現世に魂が留まるということだ。
「あまり超常現象とか信じてなかったんだが、魂の実在はもう証明されてしまったからな。神様とも会ったしこの説が濃厚か?」
「そういえば詳しく聞いてなかったけど神様ってどんな感じなの?」
「ああ、神様? どんなっていうと……」
TSしたいとか言われて困惑してる隻眼の爺さんだったな。
チートの一つがエインヘリヤルだし、あれってオーディンだったのかね。日本人の俺が何故、北欧神話の主神と会うんだ?
まあ、神様転生とか何の脈絡もなく神様が登場するけど、オーディンはフェンリルに飲み込まれたはずだし違うか。
【現実で神様転生とか、たまげたなぁ】【なんで俺には来てくれなかったんだ?】
【いや、姫様がチートくれたやん】【確かに】
【他の奴からすると悔しくて眠れないレベル】
ギルメンやブレイブソルジャーの雑談掲示板には俺がTSしたことと、タラコ唇さんが女なこと以外は正直に話した。
下僕化チートを有効に使っていくにはこちらの事情を話す必要があるみたいだし、得体の知れない魔女だの悪魔だの恐れられて変なことになるよかテンプレのフォーマットが出来上がってるチート転生者だと白状した方が良い。どうせ掲示板に書き込んだところでネタとして受け取られるだけなんだし。
驚天動地なチート云々より実は女ですと書き込む方が何倍も危ないとか変な話だが。
そういや既に落ちて過去スレになった質問スレにTSのことやチートの詳細とか書き込んだか。チート内容が似通ってるし同一人物だと特定されるかもしれないな。
まあ、女だと明確に言わない方が良いってだけだし構わない。女疑惑はロリ声で姫プレイをやってる頃からあった。
ネット情報を素直に受け取るピュアな人は情弱として馬鹿にされるのが掲示板文化だから何をやったところで疑いの声は上がる。そもそも数万スレもある中で一つのネタスレを何時までも憶えてやしないだろ。
「お姫ちん、今居るギルメンは訓練終了したみたいだよ」
「ん、そっか。じゃ俺も行ってみようかな。魂の抜け出た身体とゲーム内のアバターを悪いけど両方見てくれる?」
「大丈夫、任せて」
「よし。それじゃリバースリンク、スタート」
身体から魂が分離して凄まじい勢いでコンピューター画面に吸い込まれていく。
これがゲーム内に入る感覚か。ジェットコースターで真下に落ちていく感覚と似ていて少し苦手だな。
恐怖に目をつむりそうになった時には既に身体はアリス姫のものへと変貌していた。リアルで変身した時と変わらない身体。
でも身体に纏わり付くドレスの手触りや重量感がないし夢を見てる時のように景色が曖昧で詳細に認識できない。
ゲーム内ではシステムで決められた行動しか取れないからトイレとかにも行けないだろうな。食べ物は食えるらしいのに不思議。
「純後衛だからタンクは肉壁になって代わりに死んでね。アリスが死んだら蘇生アイテムを使えるよう何人かパシリになって」
「姫様、もうちょっとオブラートに包んでくれませんか」
「アリスだけは死んだらお終いなんだもの。仕方ないじゃない」
しかもタラコ唇さんを巻き添えにしてだ。それだけは受け入れられない。
「いやいや、アリス姫はこれくらい辛辣な方がらしいでしょ」
「最近、姫ちゃんの暴言・毒舌・罵倒を聞いてなかったから物足りなかったんだよ」
「優しいだけじゃね……」
「アッアッアッ姫様が目の前にいるっ。もう死んでもいい……」
「この変態ギルドめ。調教されきってやがる」
周囲にはリンクチートでゲーム内に入り込んだギルメン達がいる。リバースリンクでゲーム内に突入する際はアバターに魂が宿るので位置情報もアバター準拠なのだ。
ゲームじゃ何度も見た顔ばかりだが、等身大の存在として見るとまた印象が違うな。誰もが不自然なほど美形で様になっている。発言内容さえ真面なら。
唯一、クリス君だけが頭が痛そうに顔を歪めているが、君が異質なだけなんやで。
「それではエスコートをお願いしてもいいかしら。騎士様方」
スカートの裾を軽く持ち上げてカーテシーを決めるとギルメンから歓声が上がった。
久しぶりに本格的な姫プレイをやってる気がするな。これからは動作にも優雅さが求められるのか。遊びで取ったフレーバースキルの礼儀作法が機能してるのを祈るばかりだ。
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