二話 エインヘリヤル前編

 アリス姫。それがブレイブソルジャーで活動している俺のキャラネームだ。

 姫のところまでが名前ね。だから丁寧な人はアリス姫さんとか呼んできたりする。様じゃないとは頭が高い。


 所属ギルドはアリス姫親衛隊。ギルマスはタラコ唇さんでβ版からの古株。

 初心者の頃から姫プレイに必要な諸々を手助けしてくれた恩人で、ギルドネームを変更してまで俺に貢いできた筋金入りの変態だ。

 優しく罵倒されるのが好きなクールツンデレロリが性癖のヤバい人だが、社会人としての資金力と廃人としての情熱で上位ランカーの一人として活躍するブレイブソルジャーの名物プレイヤーだ。


「それで死因は何なの?」

「わ、わかんないですよぅ……」


 コンビニで晩飯を買おうとジーンズをハサミで切って短くしたりシャツを重ね着して乳首が透けないように準備をしていたら、なんとタラコ唇さんが契約通りに死後の魂となって馳せ参じてきた。早いって。

 夕方に騎士とお姫様ごっこと称して下僕化チートを使って一時間くらいしか経ってないぞ?


「お姫ちんに祝福されてからチート能力が宿った自覚はありました。ゲーム内に入れましたし」

「何それ、面白そうなんだけど」

「ええっチート能力を贈ったのに内容は把握してないんですかぁ!?」


 知らんがな。

 今はタラコ唇さんを通して習得したチート内容を把握できるみたいだけど、元はタラコ唇さんの魂の力だ。

 こりゃ現実でチートをホイホイ渡していたら催眠能力に目覚めた鬼畜男に肉便器にされてたな。俺は詳しいんだ。


「それでVRゲームだ異世界転移だって、はしゃいでいたらPKに襲われまして」

「タラコ唇さんなら撃退できそうなものだけど。カンストしてるし」

「うぅ……チート能力のリンクはゲームキャラとのシンクロ率というのがありまして、ゲーム内でレベリングの必要があるんです」


 タラコ唇さんのチートは一つだけ。リンク。

 ゲーム内の自キャラとリンクをすることで現実世界でゲームキャラの姿に変身するチートだ。

 どうやらリンクを辿ることでゲーム内に進出することも可能なようだ。いや可能というか進出して修行をすることが必須っぽい。

 そんで修行中に死んだってことは。


「ふんふん。ゲーム内で死んだらリアルでも死ぬのか。デスゲームだね」

「気軽に言わないで下さいよぅ」


 ゲーム内に入り込むといっても痛みも五感も曖昧だったらしく夢を見てるようなものだったという。

 だから悲壮感はそんなにないんだが、死んだのは事実みたいだし詐欺同然にリアルで下僕にされてるしと涙目になっている。可愛い。

 それにしても。


「タラコ唇さんって女性だったんだね。意外だった」

「驚いたのはこっちですよ。お姫ちんネカマの振りをしてたんだ」

「いや、ちゃんと男だったよ?」

「え?」


 だらしないボサボサの長髪にヨレヨレの衣服と外見に気を遣っていないが、巨乳にトロンとした目付きに分厚い唇が意外とセクシーで良い。

 うん。ガチャでSSRが来た時のような高揚感がある。

 見てくれ。絶対服従の妙齢の美女が女の子座りで涙目になっている。これで興奮しない男がいるだろうか? いないね。


「飯は我慢して性欲を優先すべきだろうか……」

「お姫ちん、何言ってるの!?」


 ネカマ宣言する前から姫プレイヤーがいるギルドでオフ会の話題が全くなかった理由が判明したね。こりゃ食われる側だわ。




 衝動のままにタラコ唇さんの巨乳を十分ほど揉みしだいたらリンクで巨躯の男に変身されてしまったんでお開きとなった。

 命令すればリンク禁止なんてことも可能だけど、さすがにね。初日だしね。


「はぅん、お姫ちんがこんなケダモノだなんて……」

「タラコ唇さんがエロいのが悪い」


 リンクを解除して元の姿に戻ったタラコ唇さんは衣服が少しはだけて吐息が荒く無闇にエロい。

 誘ってるんじゃないんだぜ、これで。いいね。


「それじゃ他愛もないスキンシップはここまでにして、タラコ唇さんの家に行こうか」

「あれが他愛もないって、家に着いたらどうする気なの……?」

「頭の中がピンクになってるよ。戻ってこーい」


 俺が悪いんだけど頬が薄らと赤くなってて怯えた目で見られると、くるものがあるな。


「真面目な話、可能な限り急いでタラコ唇さんの家に到着しないとマズいんだよ」

「どうして?」

「だって回収しないとさ」


 チートの仕様上、そういう結果になるはず。


「タラコ唇さんの死体が発見されちゃうじゃん」


 ここに居るタラコ唇さんは魂をチートで具現化してるだけだからね。

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