友だちは魔法少年!?

@wizard-T

ぼくのお友だち

 ぼくの名前は小堺良晴こさかいよしはる、小学校四年生。


 まだ辞書を見ながらじゃないと名前を書けないのが少しめんどうくさい。でも良晴って名前は、お父さんが付けてくれた名前だから、大好き。

 お母さんがぼくを生んでくれた時、ものすごくきれいな晴れの空だったからだそうだ。

 そのせいか知らないけど、ぼくは雨がきらいだ。外であそべないから、って言うのとはちがう気がするけど。




 ぼくのお友達は4人。多いのか多くないのかはわからない。

 友達100人できるかなとか言う歌があるけど、とりあえず同じクラスの子は全員お友達でいいのかな。でもとくになかがいいのは、4人。


「ようヨッシー」

「ああ大木君」


 ヨッシーって言うあだなでぼくを呼ぶのは、大木おおきりょう君。背がおっきくて、体重も重くて、それで力も強い。そういう頼もしい男の子だ。

 でも大木君は成績があんまりよくなくて、そしてその事をけっこう気にしている。ぼくは一度だけ、どこかのおじいさんにりょうせいって呼ばれたことがある。

 それで、大木君はそういう事がしょっちゅう起きてたらしい。


「ようようコウメイ」

「誰がコウメイだよ、オレの名前は大木りょうだ!」


 大木孔明、って書いておおきりょうって読む。


 三国志ってお話に出て来る諸葛亮孔明しょかつりょうこうめいって言う中国人のヒーローの名前、その人からとって孔明って書いてりょうって読むらしい。それにしてもややこしいんだなあ、中国の人の名前ってのは。

 小堺ってのがぼくの姓で、良晴って言うのがぼくの名前。でもその人の場合、諸葛って言うのが姓で、亮って言うのが名前で、そして孔明って言うのが字って言うのらしい。最近の中国の人の名前ってほとんど三文字だけどって言ったら、名前の部分はあまり口に出しちゃいけないらしい。むずかしいなあ。

 まあとにかく、そんな風にいつもからかわれて来たからなのか、りょう君はケンカが強くなった。人をなぐっちゃダメだとぼくのお母さんはいうけれど、りょう君のお母さんはちがうっぽい。

 逆に言い返したりなぐったりとしないと情けないと言われちゃうらしい。うーん、ぼくのお母さんとはちがうんだなーって思う。


「その孔明さんって人ってものすごく強かったの?」

「強いと言えば強い……けどその強さは頭の良さと言う強さで、それから政治もうまかった……」

 なるほど、それじゃりょう君がそういう事を気にするのもわかる。でもりょう君はぼくよりずっと運動ができて力が強いんだから、それでいいんじゃないかなあ。世の中ってめんどくさいよね。




 それで、ぼくにそういうことを教えてくれたのが友達のひとりである原新太郎はらしんたろうくん。運動神経はあんまりよくないけど、その代わりなのか成績がすごくいい。

 100点を取らなかったところなんか一度も見てない。その上にけっこうカッコイイ。テレビとかで出てるアイドルの人たちにも負けてないかもしれないぐらい。

 それでメガネもコンタクトレンズもなしで視力1.2ってすごいなあ。


 だけど、女の子からはあんまりモテない。バレンタインデーとか、ぼくの方が人気があったぐらいだ。まあ、大木君には負けてたけど。


「キミたちの勝利を、この僕が全身全霊ぜんしんぜんれいをかけて祝福してあげようじゃないか。ボクにはボクを選んでくれた女の子の事を考える役目があるから失礼」


 その時に新太郎君が言ってたのがこのセリフ。


 えーっと……あんまり意味が分かんない。


 負けおしみを言うんじゃねえって大木君は言ってたけど、それにしたってやけに長い。授業中とかはまだともかく、休み時間とかになるといっつもこの調子。


 それで授業が終わるとぼくらと遊ぶ事もあるけど、だいたいこんなよくわからない言葉ばかり使う。


「しばし待たれよ、かわやへと向かいぼうこうを空にしたい」

 例えばこれ。要するにトイレに行きたいんだよね、すぐ行けばいいのに。なんでこんなまわりくどくてややこしい言い方するんだろう。まあ、面白いからいいけど。



「あれでしょ、要するに。むずかしくてややこしい言葉を使えているボクってすっごくかしこいなーって言うアピール。まったく、実際にじゅくで中学生レベルの勉強を受けてるって話だけれどねー」


 めんどくさそうな感じで教えてくれたのは、周防俊恵すおうとしえちゃん。まじめな女の子で、クラスのリーダーっぽい存在。みんなのお世話を焼くのが好きで、俊恵ちゃんがいるとクラスが引きしまる気がする。


「どこでそんなもんを覚えたんだよ」

「お兄ちゃんのおかげさま」



 ぼくは一人っ子だけど、大木君には弟がいる。新太郎君にはお兄さんとお姉さんがいる。そして俊恵ちゃんにはお兄さんが一人いる。

 それから、俊恵ちゃんのお母さんは外で働いている。だから、家に帰るのがおそい。そのせいで、朝はまだともかく夜ご飯はあんまり作れない。その結果、俊恵ちゃんにその役目が回って来たって訳だ。


「ったくお兄ちゃんったらさ、いつもゲームばっかり!それで成績が下手にいいもんだからパパもママも強く言えないし、それでたまたまちょっと動くと案外これがうまく行くからもういやんなっちゃう。それなら最初からてきぱきやればいいのに、まったくつかれちゃうよ!とかっておこると、その時だけはんせいしたふりをしてるけどまたすぐ元にもどっちゃう!」


 ……だからと言って、ぼくらに八つ当たりするのはやめて欲しい。俊恵ちゃんのお兄ちゃんについてはよく知らないけど、俊恵ちゃんの言った通りだとすればそんなに悪い人じゃなさそうな気がする。

 そのお兄ちゃんにふだんからもうちょいてきぱきしてくれれば言う事はないんだけれどなーって言う、ちょっぴりぜいたくな気持ちがあるのかもしれない。もしぼくに妹ができたら、こんな風になるんだろうか。




 ここまで3人、ぼくのお友達をしょうかいした。


 そして4人目が、浅野悠太あさのゆうたくん。クッキーが大好きで、お父さんもクッキーを作る会社につとめているからぼくらはクッキーってあだ名で呼んでる。


「ようクッキー」

「うん……」


 クッキーは、正直あまり目立たない。大木君のように強くないし、新太郎君のように言う事が面白い訳でもない。そして俊恵ちゃんのように、あれこれときっちりと動くわけでもない。

 ぼくもまあそんなに目立ってる訳でもないつもりだけど、クッキーはもっと目立たない。いや、ちょっと前はもう少し目立ってたけど、最近は目立たなくなった。


「どうしたんだよ最近」

「いや実はさ、もうちょっと勉強した方がいいかなって思ってさ」

「そんな事ならばはらしんにまかせればいいじゃねえかよ」

「ダメよ、新太郎君じゃいろいろ話が飛んじゃってなかなか教えてくれないから」


 クッキーの成績は、そんなにわるい訳じゃない。そりゃ新太郎君にはかなわないけど、そんなにあわてふためいて勉強するほどなのかなあ。


「ならば……ボクを導く塾へ共に歩み、共にくつわを並べようではないか」

「それはまずいよ」


 新太郎君はいつものようなしゃべり方でクッキーを自分と同じじゅくに通わせようとするけれど、ぼくはそれはいけないと思う。

 だって、新太郎君は中学生のお勉強をしてるんでしょ?クッキーはそのじゅくに通ったところで四年生の勉強をする事になるはずだ。同じ場所で同じクラスの友達にずっと上の勉強をされているのって、ぼくは正直やだ。


「ありがとう、でもじゅくってお金がいるんでしょ?」

「心配無用!塾に自ら行くと言えば、親は自ずと動く!」

「本当、新太郎君って油断ならないわね!」

「過分なほめ言葉をいただき幸いである」

「お兄ちゃんだってさ、ぐうたらしてるように見えて裏では勉強をカリカリやっててさ、それでテストでいい点とってお母さんのごきげん取ってるんだよ。じゃなきゃゲーム買ってもらえないのわかってるから。って言うか、服とかにぜんぜんお金使わないでさ」


 新太郎君の言う事って、たしかに正しいかもしれない。

 じゅくや習い事をする時はお父さんやお母さんは新太郎君のお父さんやお母さんみたいにお金を何万円でも出してくれそうだけど、おかしとかだと百円でも首がななめにかたむく。

 おもちゃだとなおさらだ。そのために、俊恵ちゃんのお兄さんはがんばるのかもしれない。そういうやり方もあるのかなー、でも俊恵ちゃんは気に入らないみたい。


「そうかあ……今度お父さんとお母さんに相談してみるよ……」

「オレはどうもそういうのってきらい、って言うか苦手だな。ってかはらしん、お前自分で行きたいって言ったのかよ」

「我が兄が行っていた、格好のいい兄の真似をしたかった」


 クッキーもぼくと同じ一人っ子だ。一人っ子ってのは手本になってくれたり、手本にならなきゃいけなかったりする存在が近くにいない。それはたぶんあんまり良くない事なんだろう。

 でもその代わり、お父さんとお母さんはずっとぼくの事だけを考えてくれる。いい事ばかりはないし、わるい事ばかりもない。だって、新太郎君の服は正直あんまりきれいじゃない。いわゆるお下がりだって新太郎君が言ってるように、何か少し古めかしい感じがする。


「あのな、お前のアニキは5つ上だろ?」

「それはどっちもどっち……」

「いいなあ、きょうだいがいるって。男でも女でも、上でも下でもいいからぼくもきょうだいが欲しいよ」




 ちょっと前のクッキーはいつもにっこりしてて、お父さんの会社の商品のじまんをよくしてた。

 ぼくも大きくなったら同じ会社につとめるんだって、いつも言ってた。

 でも最近はあまりあれこれと言わない。もしかして、勉強しなきゃいけないってのはお父さんと同じ会社に入るためなんだろうか。でもクッキーがその会社につとめるのはあと10年以上先の話だ。そこまで考えてるとしたら、本当にすごいと思う。


「まあまあ、とりあえず遊ぼう、なっ」

「うん……」

「よーし、オレが今から100まで、いや120まで数える間にどこかへ逃げろ。捕まえてやるからな」


 かくれんぼだ。いつも大木君がオニになり、ぼくらがかくれる。いつもの事だ。


「何だよやっぱり最後はお前か」


 そして最後まで捕まらないのは、今回もこのぼく。それはちょっとじまん。


 そう、ぼくたち5人はいつもこんな事をやっていた。なかがいいってのは、いい事だよね。

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