真月の英雄〜現代ダンジョン探索譚〜

剣崎 司

第1話

 また今日も剣を振るう。


 家の事情で9歳からダンジョンへ潜り続け、俺は今年で18歳になる。

 9年間もダンジョンに潜り続けているのに、俺は初心者向けのダンジョンから抜け出せていない。初心者ですら1週間でレベルが2に上がるのに、9年経っても俺はレベル1のまま。トップクラスの探索者はレベル100を大きく超えるらしい。比較すれば俺の弱さと惨めさがより明白になる。


 だが、俺が弱いからといって探索者を辞めることはできない。


 事故で目覚めなくなった妹を助けるためにダンジョン内で発見されるポーションが必要なのだ。現代医療の技術では治療も困難なため、俺がポーションを見つけるか、購入するしかない。しかし、必要なのはポーションの中でも特に高価な物で、今の俺には手が出せない代物だ。妹の入院費を支払うことで精一杯なのだ。


 そのため俺はダンジョンに住み、モンスターを食料にしながら生きている。モンスターの肉は食えば失神すると言われるほど不味く、モンスターの肉を食う行為は拷問とも揶揄されている。しかし9年間食い続ければ慣れるもので、最初は吐きそうなのを抑え込みながら食べていたが、今では何も感じなくなった。


 これらは普通ならあり得ないことだが、妹のためだと思えば全く苦にならなかった。(探索者はモンスターの討伐のみに専念すれば中々に身入りが良く、ダンジョン内に住むことで効率を良くするという側面もあったが。)


 妹を早く助けるためにはレベルアップが必要だ。だが9年間しなかったレベルアップなど既に期待していない。だから俺は技術を磨こうとしている。毎日剣を振り、モンスターを倒し、食らい、モンスターの死体から入手できる魔石を換金する。睡眠は1時間に済ませ、それ以外はモンスターの討伐か剣術の訓練に充てる。


 毎日素振り10万回。俺はそれを自分自身へ課した。

 99996。99997。99998。99999。100000。


 今日も日課の素振り10万回が終わり、一息つこうと思った瞬間、脳内にシステム音のような無機質な声が響いた。


 《想定以上の努力の痕跡を確認。対象にユニークスキル【努力】を贈与します。続いて、スキル【ステータス】を贈与します。》


 これはレベルアップ時やスキル取得時に聞こえるというダンジョンのシステム音か?スキルを贈与と言っていたため、やっとスキルを手に入れたのだろうか。


 《過去の経験値を清算。完了しました。レベルがアップしました。レベルが10になりました。【ステータス】にて、ポイントを割り振ってください。》


 「ステータス?」


 俺がそう呟くと、目の前に透明な画面が現れる。画面には文字が書かれていた。



 葛川 流星

 レベル10

 攻撃 45

 防御 70

 敏捷 45

 魔力 0

 ポイント 50

 

 【努力】

 ・ユニークスキル

 ・成長限界が撤廃される

 ・肉体的、精神的苦痛に抵抗した際、成長速度上昇。苦痛が大きいほど効果上昇。

 【ステータス】

 ・スキル名を明確に発声することで発動する。

 ・自身の能力を可視化する

 ・レベルアップ時に入手できるポイントを割り振ることで能力値を強化できる

 魔法

 なし


 葛川流星は俺の名前だ。画面に表示された情報を信じるなら、俺はレベルが10まで上昇したらしい。探索者の知り合いから能力を可視化するスキルがあると聞いたことがあるため、おそらくこの情報は本当なのだろう。


 9年間モンスターを倒し続けてもしなかったレベルアップができて、それもレベル10まで一気に到達できた事実に俺は驚愕と喜びを隠せなかった。


 それに今までひとつも入手できなかったスキルまで手に入れてしまった。

 9年間実らなかった努力が実った気がして、気がつけば俺は涙を流していた。


 そんな俺をよそに、システム音がまた、頭の中で響いた。


 《過去の経験、努力をスキルへと変換します。スキル【剣術】をレベル5の状態で贈与します。更に、一定以上のモンスターの捕食を確認。スキル【捕食】を贈与します。想定以上のモンスターの捕食を確認。スキル【捕食】が大罪系ユニークスキル【暴食】へと進化します。全ての経験、努力の変換が完了しました。新たに入手したスキルの詳細を表示します。》


 【剣術】 レベル5

 ・剣装備時、攻撃に補正

 ・剣の扱いに補正

 ・レベルアップで効果上昇


 【暴食】

 ・大罪系ユニークスキル

 ・満腹にならなくなる

 ・捕食した者の魔力を自身に還元する

 ・肉体に干渉する状態異常を完全に無効化する 

 ・使用者の成長に伴い、能力追加


 先程のレベルアップとスキルの入手で泣くほど嬉しかったのに、また新たなスキルを手に入れてしまった。俺は幸福感でいっぱいだった。


 最弱と呼ばれ続け、それでも強くなろうと努力してきた。それがスキルという形で手に入り、レベルも10まで上がった。これ以上嬉しいことはない。

 強くなるということは妹の回復にも近づくということだ。


 レベルが10まで上がったのなら、もう少し強めのダンジョンへ向かっても大丈夫だろう。そう考えた俺は幸福感を胸に抱きながら、最弱のダンジョン「ゴブリンダンジョン」を後にした。



葛川 流星

レベル10

攻撃 45

防御 70

敏捷 45

魔力 0

ポイント 50


ユニークスキル

【努力】 【暴食】

スキル

【ステータス】 【剣術・5】


 

 

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