第3話 ヨンフィ(透)
それから池袋、渋谷、原宿、中野、高円寺、新宿と渡り歩いてきた。
どこの街にも親切な女性がいて、皆、僕を可愛がってくれたと思う。
3ヶ月前までは高田馬場にいた。ヨンフィという韓国人の女性で、歳は22歳。日本語学校に通う留学生だった。
僕が、高田馬場でお腹をすかせていたら、拾ってくれた。
言葉の壁なんてものはなかった。日本人であろうが、韓国人であろうが、女性は女性だった。
彼女は非常に僕によくしてくれた。異国の地で言葉を学ぶには、現地の異性と付き合うのが一番だという。まさに彼女もその通りで、僕と付き合うようになって、目に見えて日本語は上達した。
自分の想いを相手に伝えようとする努力が、異国の言葉を必死に学ばせる。
僕も、彼女に、簡単な韓国語と韓国の料理を教えてもらった。ヨンフィ直伝のビビンバは、香織さんにも好評だった。
韓国は儒教の国であり、男性社会。昔の日本みたいに男を立てる社会がまだ残っている。ヨンフィは、自分と付き合う男性に、「責任」を求めてきそうな雰囲気があった。
ヨンフィは、今年の四月に学校が休みで、韓国に一時帰国する機会があり、その時に僕は黙って家を出た。
たった2ヶ月の付き合いだった。
韓国人と別れて、2日後、今度は香織さんに拾われた。
香織さんには「長沢健治」という名前で通っている。「宮沢賢治」を少し変えただけだ。
ヨンフィの時は「山下透」だった。
本名を明かさないのは、後々の面倒を避けるためだ。別れた後に、捜索されたり、まだ未成年だし、親父や兄貴たちが僕を探していないとも限らない。
少なくても、今まで偽名で通してきて困ったことはない。
彼女たちが望む、「健治」なり「透」なりを、彼女たちに提供してきたはずだ。
僕は本名がわかるものは何一つ保持していない。携帯も財布すらも持っていない。
実家を出る際に持ってきたのは、中学入学時に母に買ってもらった腕時計だけだ。あとは、Tシャツにトレーナー、Gパン、スニーカーと着ているもののみだ。
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