第33話 芳賀康介と言う男



 「うっす康介」


 「……なんじゃ、お前から挨拶たあ珍しい」


 翌朝、僕がわざわざ挨拶をしてやったと言うのに、この男は怪訝な顔をしてそう返して来た。


 「えらいご機嫌じゃんけ。何かあったんか?」

 

 「えー?分かるぅー?」


 「……きっしょ、やめーや、それ」


 「……うっす」


 ナチュラルな康介の暴言に僕は何も言えなくなってしまう。せめて言葉ぐらいは選んで欲しいものだ。

 しかし、機嫌が良いのは確かだ。


 ____何せ、東條さんを花火大会に誘う事が出来たのだから。

 

 「……どしたんか?急にニヤニヤしよって、ホンマに気色悪いぞ?」 

 

 「な、何でも無いわ」


 当時の気持ちが表情に出ていたのか、康介に引いた顔をされてしまう。

 

 「……どうせ東條さんじゃろ、顔によう出とる」


 しかも理由まで当てられてしまった。まあ、よく相談に乗ってもらっているので当たり前なのだが。

 

 「ほいで、花火大会には誘えたんか?」


 「……うん」


  「良かったのう、安心したわ。お前もやるじゃんけ」


 笑顔で康介に肩を小突かれる。色々と相談に乗ってくれたのもあったので、親友のこの男にそう言われたのは、胸の空く様な思いだった。


 ____やはり、この男は誘っても大丈夫そうだと、僕の中で決まる。


 「ほいでな、康介、今まで相談に乗ってくれた礼ってわけじゃ無いんじゃけど、……お前も花火大会に来んか?」


 「…………は?」


 康介は案の定、素っ頓狂な反応をした。これから説明をして、どんな反応が来るのか楽しみだ。


 

 _______



 「………マジで?」


 「うん、マジじゃ」


 康介は心底驚いた表情をしていた。無理もない。学園一のマドンナと言っても過言ではない東條さんと、偶然であるが一緒に遊ぶチャンスが訪れたのだ。

 こんな反応もするだろう。


 「……お前は本当は出来る子じゃって、信じとった」


 両肩を叩かれて、しみじみと康介はそう言う。

 僕としては叫ぶぐらい喜ぶと思っていたのだが、この喜び方は予想外だった。


 「そ、そんなに東條さんと遊べるのが嬉しいんか?」


 「え!?あ、あー、……も、勿論じゃ!!美人さんとお出かけなんて滅多に出来る事じゃ無いけえのぅ!!」


 「?」


 僕は康介の反応に違和感を感じた。大層喜んではいたのだが、東條さんが来る事自体にはそんなに喜んでいる様には見えなかったのだ。

 なら康介の喜ぶ要素は何処にあるのだろうか?まさか花火大会自体にそんな喜びを感じているわけではあるまい。


 小学生じゃないんだし。


 「あー、ほいで、蓮さんや、その……」


 「?、何じゃ?お前らしくもないのぅ」

 

 芳賀康介と言う男は単純明快、言いたいことは口からすぐ出る様な男だ。そんな男がこんなにも言い淀んでいるのを見て、僕は一層違和感を感じる。


 

 「その……末籐さんは、俺が来る事に何か反対しよるとか、聞いた?」



 緊張と心配が入り混じった様な表情で、康介はそう聞いてくる。


 コイツ……まさか……



 「……お前、由美目当てかいな」



 康介は、静かにコクリと頷く。

 その反応は、僕の想像の斜め上過ぎるものだった。

 

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