第730話 待ち伏せ

 扉を開けてゆっくり外に出て行く。

 その家のすぐ横には木が生えていて、まるで家を隠すかのように枝葉が家を覆っている。

 そのせいで月明かりも届かない。


「伏せろ!」


 外に出て周囲を警戒していると、アルゴが叫んだ。

 その一言で咄嗟に動けるのはさすが軍人といったところか?

 俺は右に、アルゴは左に移動して矢を避けた。

 狙撃手は正面の枝の上だ。

 第二射を放とうと矢をつがえる。

 矢の先端は伏せている軍人を狙っているのか下の方に向いていく。

 だからその前に俺はナイフを投擲する。

 ナイフは狙撃手の肩に当たり、バランスを崩して枝から落下した。

 けど一息吐いている暇はない。

 森からぞろぞろと魔物が現れたからだ。

 魔物の種類はゴブリンにオーク。鑑定したら複製体だった。


「アルゴ、奴らだ」

「分かった。とりあえず倒すぞ。軍人さんらは自分の身は自分で守ってくれよ」


 アルゴは言うが早いか斬り込んでいく。

 俺もそれに続く。

 剣を振り下ろし一体ずつ確実に倒していく。

 複数に囲まれても焦らず攻撃を受け、躱し、踏み込んで剣を振り下ろす。

 斬られた魔物は倒れて動かなくなると、遺体も残さず消えた。

 それを見た軍人たちに緊張が走っている。

 複製体がここで襲ってきたということは、ここに黒幕もいるかもしれない。

 軍人の二人も見ると、背中を合わせて死角をなくし、対峙するゴブリンと戦っている。

 ゴブリンの数は三体だし、俺は他を優先する。

 ゴブリンのレベルは30と上がっているが、町で戦ったゴブリンと強さは変わらないように感じた。

 オークもそうだ。レベルは上がっているけど、強さは変わらない。

 それは俺のレベルが高いからで、軍人は苦戦しているみたいだ。

 ただここで俺たちが助けにいくと、背後を取られるし、逆に軍人たちを危険に晒すことになるかもしれない。

 だからまずは周囲の敵を倒して、その後助ける。

 問題は町の時のように複製体が次々と現れた場合だけど、今回は最初に現れた以降複製体が現れなかったため、無事切り抜けることが出来た。


「どうにか倒すことが出来たな」


 アルゴは疲れて座り込んでいる軍人たちに声を掛けた。

 軍人は顔を引き攣らせている。

 ゴブリン三体を倒している間に俺たちが残りを倒したからな。


「それでどうする? 俺たちだけで探索するのは難しいと思うぞ?」


 俺はアルゴと軍人に言った。

 反応を捉えることが出来れば違うけど……一応MAP上に反応は表示されているけど、大きく動いているものはない。

 遠く離れているところにオークらしき反応が十体あるが、それ以外は動物みたいだ。


「俺たちだけで森を探索は無理だろ。一旦戻った方がいいんじゃないか?」

「そう、だな。それがいいな」


 軍人が答えている途中で轟音が鳴り響いた。

 それはすぐ近く、俺たちが出てきた家の方から聞こえてきた。

 そして俺たちの見ている目の前で、音の発信源となっているその家は崩れ落ちた。


「まじかよ。自然に崩れた……感じじゃないよな?」

「たぶん……」


 息を呑むアルゴに頷く。

 変な音が鳴っていたし自然に崩れたということはないはずだ。

 崩れ方で人為的かどうかという判断は出来ないけど。

 これが時限式で元々仕掛けられていたら、中を調べないでさっさと出てきたのは正解だったはずだ。


「ソラ、あれをどうにかすることは出来るか?」

「出来なくはないが……」


 家だけでなく、注意して見ると周囲の木も倒れている。

 魔法でどかすことは出来ると思うけど、人為的に行われたとしたら秘密の通路もどうなっているか分からない。

 土で埋まる程度なら魔法でどうにか出来るけど、完全に崩落していたら無理だ。


「なら森の中を歩いて帰るか?」

「その方が早いと思う」


 俺たちは茫然としている軍人を見た。

 二人は俺たちの視線に気付くと力なく頷いた。

 一応俺たちの声は聞こえていたようだ。


「けどこれで終わりだとしたら、この騒動を起こした奴は何がしたかったんだろうな」


 それはアルゴの言う通りだ。

 町を混乱させるという目的だったら達成したと思うけど。

 それに黒幕は結局逃がした。

 いや、それも分からないか。

 少なくとも複製体をここに配置していたのはもっと……いや、その可能性は低いか。

 とりあえず町に戻るか。

 幸いMAPがあるから現在地も分かるし、周囲には魔物がいないみたいだし、それほど難しくはないだろう。

 問題は他の人たちの体力が持つかどうかだ。

 複製体との戦いに追跡。気も張っていたし、体力だけでなく精神的にも疲れているだろうしな。

 俺は……まあウォーキングスキルのお陰で大丈夫だし、眠気も並列思考があるから大丈夫だな。

 結局俺たちが町に戻れたのは夜明け前だった。

 戻ってからは色々事情聴取を受けて、解放されたのは朝日がすっかり昇り切ったあとだった。

 その時聞いた話によれば、秘密の通路も崩落が起きていて、途中で通路が完全に塞がっていたということだ。

 秘密の通路の報告を受けて、準備に時間がかかったことで、崩落に巻き込まれなかったようだ。

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