第691話 アヴィドダンジョン・1

 準備が整い、俺たちはアヴィドダンジョンに足を踏み入れた。

 腰に剣こそ差しているが、手に持つのは採掘道具だ。


「ソラ、気合入り過ぎじゃない?」


 呆れるミアに、ルリカたちも苦笑する。

 そんなに変かな?

 いや、俺みたいな恰好をしている冒険者は普通に見掛けたぞ?


「ま、それより行こう。早くいかないといい場所を取られるかもしれないからさ」


 アヴィドダンジョンは変遷が起こり、魔物が溢れかえっていたがその魔物たちは既に討伐されて落ち着いている。

 ただ今回の変遷でミスリルゴーレムが出たということで、数日前まではお祭り騒ぎだった。

 ミスリルゴーレムは硬い上に素早いため狩るのは難しいが、酒の鉄槌によって討伐されたということだ。


「それでソラ、何処に行くの?」

「ちょっと待ってくれ。今から確認する」


 MAPを開いて人の反応を確認する。

 魔力察知を使うと、MAP上に大きな丸と小さな丸が表示された。

 こっちは人の反応だから……こっちは鉱石かな?

 鉱石の中には微量な魔力を含んだものがあるからね。

 よし、あの辺は近くに人の反応がないし、まずはそこを目指すか。


「先導するからついてきてくれ」


 歩きながら鑑定を使い続ける。

 鑑定を使うと何処に鉱石があるか一目で分かるのは便利だ。

 薄く表示されるのは、奥に埋まっているからなのかな?

 歩いていると採掘している冒険者とすれ違う。

 カンカンという音が坑道内に鳴り響く。

 冒険者たちは剣というよりもハンマーを持っている人が多い。

 ゴーレムに剣は通りにくいみたいだし、そのハンマーはそのまま採掘にも使えるように改造されているみたいだ。

 俺も一本買ってみるかな?

 しかし……俺はすれ違う冒険者たちを見て思う。

 何というか筋肉だ。

 筋骨隆々の人が多い。

 採掘は腕力が必要だから鍛えられるのだろうか?

 ただその人たちに交じって、採掘をしない人たちもいる。

 周囲を警戒しているし護衛かな?

 いや、採掘する人と魔物を警戒している人で交代して作業しているみたいだ。

 他のダンジョンと違って和気あいあいとしていて、殺伐していないのは驚きだ。

 顔馴染みなのか、何が採掘出来たかの情報交換もしている。

 そういえばギルド内に鉱石の交換希望とかの貼り紙もあったし、最悪集められなかった時はそれを利用するのもありか。


「主、ここがそう?」

「ああ、それで……」

「いい、直感を信じて掘る!」


 効率的ではないけど、自由にやるのが一番か。

 ヒカリたちが採掘出来なくても、俺が頑張ればいいわけだし。

 とりあえず最初は俺とヒカリ、ミアが採掘を行い、ルリカ、クリス、セラの三人が護衛に回ることになった。

 変遷後は魔物があまり出ないと言われているけど全く出ないわけではないからね。

 早速壁を打ち付けると、壁がボロッと壊れた。

 ダンジョンの壁って破壊不可なのに、これも不思議な感覚だ。

 採掘をしていて思い出すのは鉱山都市アレッサのことだ。

 あそこでも今みたいに採掘した。

 ダンジョンじゃないから魔物とは殆ど遭遇しなかったけど懐かしい。


「こういうところは掘っていて崩落しないのかな」

「ソラ、怖いこと言わないでよ」

「う、すまない」


 いや疑問に思うだろ?


「一階、二階で崩落は起こったことがないみたいですよ」

「それって三階では起こるってことだよな?」


 クリスは既に調べてあったようだ。


「さすがクリス姉」


 ヒカリはクリスを褒めながら壁をひたすら叩いている。

 残念ながら今のところ鉱石は見つかっていないが、今の方向を掘り続けていればいずれ鉱石を発見出来る。

 一〇分後、そして待望の鉱石をヒカリは発見した。

 叩いた音がカンコンと鳴り、明らかに色の違う塊が壁の中から顔を覗かせた。


「主、見つけた!」


 それは本当に嬉しそうだった。

 あるかないか分からない中、ひたすら採掘した結果見つけたものだ。

 鑑定で何処に何が埋まっているのか分かっている俺では味わえない感動かもしれない。

 いや、鑑定を使わないで採掘すればいいんだけどさ。

 その後もヒカリはいくつかの鉱石を発見して、満足した様子だった。

 逆にミアは一つも見つけられなかった。


「教えようか?」


 と尋ねたら、


「のんびりやるからいいよ。それにヒカリちゃんのあの嬉しそうな顔を見るとね」

「ん、自力での発見は気持ちいい」


 一時間ほど採掘をしたら、ルリカたちと交代した。

 今度は俺たちが周囲を警戒するが、人の反応はあるけど近くに魔物の反応はない。

 MAPを呼び出すと、ダンジョンの形が変わっている。

 これは採掘によって広がった結果だ。


「主、そろそろお腹空いた」


 交代してそろそろ一時間経とうとしたところで、ヒカリがお腹を擦って言った。


「そうだな。そろそろ昼にするか」


 ゴツゴツした地面にフワフワのシーツを敷くと、そこに焚火台を置く。

 焚火台の上に設置するのは鉄板だ。


「大丈夫だと思うけど……」


 ここも他のダンジョンと同様、火を焚いても煙が充満しないと思うけど……。

 火をつけて鉄板が温まると、そこにウルフ肉を並べる。

 今日はシンプルにステーキだ。

 他にはアイテムボックスの中にあるスープにパン、サラダを取り出す。

 バランスの良い食事は大事だ。

 肉の焼ける音が坑道内に鳴り響き、煙がのぼっていく。

 うん、問題なくダンジョンの天井に吸い込まれていく。

 そして肉が焼けていよいよ食事を開始しようとしたら、


「ん? ソラか? 何をしておるんじゃ?」


 と半ば呆れたヘルクが声を掛けてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界ウォーキング あるくひと @jwalk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ