第629話 帝国領再び

 朝食を摂ったらまずは解体の続き。といっても血抜きのために魔物を吊るして、それが終わるまで王都で用事を済ませる。

 ルリカたちはギルドに寄って、昨日解体した素材の売却。それが終わったら王都巡りをしたが、別に遊びのために回っている訳ではない。

 帝国領に入る前の最後の買い物のつもりで、減っている調味料などをここで全て揃えた。

 それが終われば露店を見て回って、ここでも食料品の補充だ。


「主、残りの魔物はいくつ?」

「あと三体だな」


 これは朝、冒険者ギルドに寄った時に、解体していない状態の魔物を売ったため、手持ちが減ったからだ。

 自分たちで解体した方が売る時に解体代がひかれないからお金はたくさん手に入るが、今回はこれから帝国に行くこともあって売ることにした。

 帝国に行ったらまたダンジョンだから、魔物には困らないだろうし。


「それじゃ家のこと、頼んだぞ」


 王都に来て三日後。俺たちは使用人たちに見送られて王都を発った。

 使用人といっても家の管理をしてくれたらあとは自由な時間を与えているから、結構自由にしている。

 最初本人たちは戸惑っていたけど、今は慣れたみたいだ。

 自由時間で別の仕事をしてもいいと認めているから、俺たちがいない間はそちらの仕事に従事するみたいだ。

 突然俺たちが訪れること以外では、実に働きやすい環境とのことだ。

 王都から帝国へは、街道を東に進む。

 最初に寄るのはグリットの町。そこからさらに東に進めば帝都ハイルに行くが、俺たちはグリットから南下してズィリャの町を目指す。ここがアルゴたちとの合流地点であり、ダンジョンのある町だ。

 ちなみに王都でアルゴたちのことを聞いたら、五日前に王都に立ち寄ってすぐに出発していったという話を聞いた。

 グリットの町は王国と隣接しているけど、エルド共和国との国境にあった町と比べると物見の塔こそあるけどそれほど殺伐とした雰囲気ではなかった。

 互いに人類至上主義をかかげていたからか、それとも王国の支配者である王が排斥されて立て直しているところだから、それほど脅威を感じていないかのどちらかかもしれない。


「目的は?」


 グリットの町に入場する際帝国に来た目的を聞かれたため、


「ズィリャのダンジョンに行く予定です」


 と答えてギルドカードを提示して入場した。

 グリットの町の中は帝国兵の数が多く、冒険者の数が少ない印象を受けた。

 それは間違っていないようで、宿の人に聞いたら冒険者の多くはダンジョンにある町に集まるという話だった。

 帝国領にあるダンジョンは三つ。帝都ハイルに今度俺たちが挑戦するズィリャの町、あとはアヴィドの町の三ヵ所だ。

 一応ズィリャの町の攻略が順調に行ったら、アヴィドに行こうと思っている。

 アルゴたちの話だと、攻略するだけなら実力と運があればズィリャの町のダンジョンはそれほど時間がかからないと言っていた。


「観光をするほどでもないし、今日は宿に泊まって明日ここを発とう」

「うん、分かった」


 本当なら屋台巡りぐらいしたいところだけど、大通りを歩いて宿に到着するまでの間、屋台もそんなに多くなかったし、値段が高かった。


「帝国の屋台は当たりはずれが多いからね。確実に美味しいものを食べたければ宿やお店を構えているところで食べた方がいいよ」


 帝国内を横断してきた経験があるルリカの言葉には説得力がある。



 翌朝。食事を済ませると早速グリットの町を発った。

 ズィリャの町まではグリットで購入した馬車で行くことになった。

 馬車を新たに購入した一番の理由は、ダンジョンで素材を買う商人の行き来が盛んなため、街道には多くの人の目があるから途中でゴーレム馬車を出して乗ることが出来ないと思ったからだ。

 乗合馬車で行くことも考えたが、ルリカたちに止められてそれは止めた。

 どうやら前回来た時に、かなり嫌な目にあったようだ。

 購入した馬車には一応吸収のスキルを付与して衝撃を抑えてあるけど、自作のものと比べると振動を感じる。


「夜までは我慢してくれな」


 御者台の隣に座るヒカリに話し掛けると、コクリと頷いた。

 現在御者台には俺、ヒカリ、セラの三人が座っている。

 手綱を握っているのはセラだ。

 一番馬が指示通り動いてくれるのが、セラが手綱を握った時だからだ。

 ただ一人に任せるのも悪いから交代で手綱を握る。

 何故か俺の言うことはあまり聞いてくれない。

 ヒカリも最初は駄目だったけど、日が経つほどに従順になっていった。


「ヒカリ、何か秘訣があるのか?」

「どっちが上かを示した」


 一体何をしたんだ?


「主は美味しいものをあげるといい」


 というアドバイスももらった。

 餌付けするというのか?

 けど馬に与えるものは生の野菜類をそのままあげるだけだしな。

 ブラッシングとかして親睦を深める? のが一番いいのかもしれない。

 言葉が分からないから、どうしても相手が何を求めているのかは手探りで探っていかないとだからね。

 結局ズィリャの町に到着する五日間の間では、セラやヒカリほど馬がいうことを聞いてくれることはなかったけど、それでも最初に比べれば良くなった……ような気がする。

 ズィリャに到着しても手放すことはないから、ダンジョン攻略の間は何処かに預けることになるけど、こまめに通って世話をするのがいいな。


「それで主、まずは何するの?」

「馬車を預けられる場所を聞いて、それからアルゴたちと合流かな?」


 入場する際警備兵に聞いたら、入り口近くに馬車を預かってくれる厩舎があるという話だった。

 一応宿によっても預かってくれるところがあるみたいだけど、一先ず厩舎に預けて冒険者ギルドに向かうことにした。

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