第64話 攻防戦・11

 あれから二日が経過した。近付いてくる商隊もあと一日のところの距離まで来ている。

 ルイルイも気付いているが、この事は冒険者たち以外は誰も知らない。

 下手な期待を持たせるのと、気の緩みを懸念したからだ。

 そして、動きがあったのは商隊だけでなく、オークの一団にもあった。

 今まで洞窟前から離れなかったのに、移動を開始したのだ。

 この時間帯なら夜のうちに森を通過して、そのまま夜襲を仕掛けてくるかもしれない。

 この情報は宿に集まる皆で共有した。否が応でも緊張感が上がる。

 その不穏な空気を察知したからか、今まで静かにしていた野営をしていた商人達が騒ぎ出した。


「いい加減こんな扱いはやめろ。訴えるぞ」

「もっと食事を寄越せ。ワシを誰だと思ってる」

「この事はギルドに報告させてもらう。後で問題になってから謝っても遅いぞ」


 口々に罵詈雑言を述べる。

 そういえばこいつら全員商人なんだよな。そこそこの商会に所属してる奴もいるとかいないとか?

 ある意味冒険者が一人も生き残っていないのが不思議だ。

 最低限の生活は送れるだけの物資は、一応提供してるんだけどな。最低限ではあるが。しかもタダで。作業を何一つ手伝いもしないし。何だかんだと言い訳をして。


「少し黙っていろ。今お前たちに構ってる暇はないんだよ」


 ピリピリしているからか、対応に当たっていた村人の怒声が飛ぶ。

 それに対する応えは、耳を塞ぎたくなるような汚い言葉。

 流石に見兼ねたロックが歩み寄る。

 村人には強気な商人たちも、ロックが現れると徐々に声が小さくなっていった。


「言ったはずだ。文句があるなら出て行けと。もう忘れたのか?」


 ロックも今は機嫌が悪い。いつもよりも迫力が違う。


「警告しておく。オーク共が攻めてくる。騒いだら容赦しない」


 言うだけ言って戻ってきた。これで騒ぐなら外にポイ捨てコースか。


「お相手ご苦労様ですわ」

「適材適所だ」

「それならオーク討伐の適材適所の話をしましょう。私としては、森の中で迎え討ちたいですわ」

「理由を聞いても?」

「一つとして、闇夜の中でも見通せる魔道具を持っていることと、あの集団と平地で戦いたくないと言ったところですわ」

「うん。統制がとれてた。一五体、しかもジェネラルが指揮を執るとなると厄介かもしれない」


 レイラの言葉に、タリアが補足説明を入れた。

 これは洞窟で戦っての経験談から、予想してるのだろう。


「防衛を捨てるのか?」

「森に入るのは……私とタリアちゃん、ケーシーちゃんの三人ですわ」

「それは危なくないか?」

「全てを倒すわけではありませんわ。数を減らして後退しつつ誘き寄せますわ」

「なら私もいく。主いい?」

「そうだな。俺よりも適任だから任せるよ」

「大丈夫なのか?」


 ロックの問いに、俺は大丈夫だと答えた。


「ならポーションを渡しておく。特に魔力切れには注意しろ。ヒカリ、フォローを頼むな」

「うん、任せる」


 四人に必要なアイテムを渡すと、こっちはこっちで準備を始める。

 ルイルイと俺は見張り台に上り、ヨルはロックたちと一緒に門のところで待機することになった。交代で休憩しつつ、その時を待つ。



 戦端は真夜中に開かれた。

 俺は高見の見物。というかMAPで戦況を見ています。気配察知と魔力察知を併用しながら。

 何かあった場合の防衛要員なので、四人を信じて待つしかないというのが現実だ。

 森の中なのでタリアとヒカリが活躍している。タリアは魔力の使い方の覚えも早いから、オークと遭遇したらすぐに倒している。ただ消費も激しいみたいで、二体倒してからマナポーションを飲んだようだ。減っていた魔力が回復している。

 ヒカリは堅実に麻痺させてから倒してるようだ。

 レイラとケーシーは待ち構えて撃退してる感じだな。木を使って身を隠しているのか、近付いてきた敵を奇襲して即倒してるみたいだ。

 レイラとケーシーがオークと重なると、即反応が消えていく。

 森の中からは絶えず雄叫びと悲鳴が聞こえてくる。

 その音を聞いて、寝ていた人たちも目を覚ましているようだ。


「状況は分かるか?」

「タリアとヒカリちゃんの活躍で大分減らせています。ただオークたちもここに来て警戒心が上がったようです。動きが変わりました」


 MAPで確認しているが、確かにばらけて移動していたのに一カ所に集まっている。魔力の大きさからジェネラルの元に集まっているな。

 それでも奇襲で九体を倒すことが出来た。残りは六体か。


「合図を送った方が良くないか?」

「はい、合図を送ったらリンクを一度切らせて貰います」


 そんな会話をしていたら、さらに三体の反応が消えた。

 集結するオークを阻むために倒してる?

 あれ? なんかオークを既に囲んでいるぞ。


「ちょっと待ってくれ」

「どうしました?」

「森の中を詳しく見れたりするか?」

「えっと、え?」


 また一体消えた。これで残り二体か


「……オークを取り囲んでいるようです」


 うん、ルイルイも驚いている。ジェネラルは残っているが、倒すのが早すぎないか?


「このまま任せて大丈夫でしょうか?」

「ああ、任せよう。下手に合図を送って集中力を乱さない方がいいだろう」


 結局撤退の合図を送ることはなかった。

 ルイルイの討伐完了の言葉を聞いて、ロックにその旨を伝えて俺は森に向かった。

 倒したオークの死骸をアイテムボックスに収納するために、そして詳しい話を聞きに行くために。

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