異世界ウォーキング

あるくひと

エレージア王国編

プロローグ

「我の呼びかけに応えし者たちよ。よくぞ参った」


 眩しい光に包まれたと思い、視界が回復したと思ったらそこは見たことのない場所だった。高校に行くために電車に乗っていたはずなのに、ここは何処だ?

 目の前には大仰に手を広げた王様っぽいオッサンが、興奮したように震えている。

 その周囲には髭を蓄えた恰幅の良い中年が。左右には整列して佇む鎧姿の騎士っぽいものたちが、警戒しながらこちらの様子をうかがってきている。

 俺の周囲には、同じような服装。学生服やスーツ姿、カジュアルな軽装をした男女が、俺を含めて七人ほどいる。男女比3:4だ。

 誰もが戸惑い、中には不安そうな顔をした者もいる。

 そもそも呼びかけに応えた覚えはないし、勝手に呼び出したのだろう。原理は謎だ。


「ここは何処ですか? それにあなたは誰ですか?」


 一人の学生君が一歩前に出て問いかけた。

 その瞬間騎士が動きを見せようとしたが、目の前のオッサンが手をかざしてとどめた。


「ここはエレージア王国。そして余はエレージア王国国王である。此度は我が王国に伝わる異世界召喚によって、そなたたちをここに呼び寄せてもらった」


 長々と退屈な話を聞かされた。

 要約すると、召喚された勇者は優れたスキルの恩恵を貰えるので、その力を使って復活した魔王を討伐してくれとのこと。

 学生君が魔王を討伐したら元の世界に戻れるか聞いたら、魔王の持つ魔石を使用することで元に戻ることは可能らしい。

 可能らしいとは、あくまで文献に帰還した勇者がいるとの記録が残っていたからだ。と、彼らは主張した。


「では、勇者よ。ステータスオープンと唱え、その力を我に示すがよい!」


 周囲からステータスオープンという呟きが聞こえる。

 俺も逆らわずに言う。

 言葉とともに透明なパネルのようなものが目の前に浮かび上がった。

 そこにはゲームでいうステータスが表示されている。


名前「藤宮そら」 職業「無職」 レベルなし


HP10/10 MP10/10


筋力…1  体力…1  素早…1

魔力…1  器用…1  幸運…1


スキル「ウォーキング」 効果「どんなに歩いても疲れない」


 弱キャラだ。最弱モンスターにも勝てるかどうか怪しい?

 向こうの世界では学生だったが今は無職。何もしていないからか?

 そもそもレベルなしってなんだよ。


「確認は済みましたかな? 済んだなら一人ずつ、この水晶に手を触れるがよい」


 王の傍らに立っていたローブ姿の老人の指し示す先には、豪華な台に置かれた水晶があった。

 これに触れると、触れた者のステータスを他者が見ることが出来るようになるとのことだ。

 一人一人。順番に水晶に触れていく。

 それを見た王と老人、その周囲にいるものたちから次々と歓声があがる。


「剣聖」「魔導王」「パラディン」「聖女」「剣王」「精霊魔法士」


 職業の呟きと共に、そのレベルにも驚きの声をあげる。

 高いもので既に50。一番低くても30だ。

 スキルだって皆複数持っている。

 5つもあるだと? お前が勇者か!

 思わず心の中で突っ込みを入れたが、現実とは常に残酷だ。

 期待するように見てくる無数の視線が痛い。

 しかし逃げることも出来ず、一歩二歩と歩いて行き、諦めて水晶に触れた。

 一瞬ノイズのようなものが走ったが、同じようにステータスパネルが他の人たちにも見えるように表示される。

 誰もがその表示に言葉を失う。

 それは同じように召喚された同郷のものたちからもだ。さっきまであった熱狂が波を引くようにおさまっていく。


「何だこのステータスとスキルは!」


 俺が聞きたいわ! やり直しを要求する。

 ざわつく周囲と自分のダメっぷりに心が折れそうになったその時、ふとステータスパネルに表示された一文が目にとまった。

 さっきまでなかった項目だ。


スキル「ウォーキングLv0」 

効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1習得)」

経験値カウンター 21/1000


 しかし水晶の方に表示されるステータスを見ると追加された一文の表記がない。

 歩くだけでレベルが稼げるとか……けどレベルなしだったからこれは何の経験値なんだ?

 ただ経験値カウンターの数値は0ではなく21となっている。

 水晶まで歩いた歩数がカウントされたのか?

 しっかり覚えていないがそれぐらいの歩数を歩いたような気がする。

 考え事をしていたらいつの間にか周囲が静かになっていた。

 顔を上げて王様を見ると顔を逸らされた。

 次にローブの老人を見たら同じように顔を逸らされた。


「うむ。此度は六人の選ばれし勇者を無事呼び出すことが出来た。これより歓迎の宴を開こうと思う! 勇者の皆様はこちらへ」


 どうやら俺のことはなかったことにするようだ。

 召喚された同郷の人たちは、困惑するもの、視線を逸らすもの、心配そうにするものそれぞれいたが、最終的には強制的に連れていかれた。

 職業が立派でも、レベルが高くても、戦う術なんてない社会で生活してたんだ。武装した騎士に囲まれたら従うしかないのだろう。

 一人残された俺の目の前に、同じく残っていた騎士が近づいてきて小さく「付いてこい」と呟き返事も聞かずに歩き出した。

 結果は、ハイ、城から追い出されました。

 門まで来ると、そこで別の騎士から餞別だと金の入った袋を投げられました。

 確認すると袋の中には金貨が二枚入っていた。

 袋の大きさに対して入っている金貨の枚数が少なく感じますが?

 しかも二枚とか中途半端じゃない?

 騎士を見るとニヤニヤと馬鹿にしたように見ている。

 何処の世界でも馬鹿な奴はいるなと思いつつ、どうせもう会うこともないだろうと街中に向けて歩き出した。





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