頭の中で何も起きなかったので……

 KAC第4回目のお題は「深夜の散歩で起きた出来事」。

 一日、あれこれ考えたが、まったくアイデアが浮かんで来なかった。

 KACには初年度から参加しているが、こんなことは初めてである。


 そこで、ある人に言わせると、アイデアを練るには散歩がいちばんだそうだから、実際に深夜の散歩をしながら考えることにした。

 もしかしたら、なにか話の種になる出来事に遭遇するかも、と欲張りつつ。




 とぼとぼ歩きながら話を考えようとしても、頭に浮かぶのは、川原泉さんの名作「月夜のドレス」の場面ばかり。

 「深夜の散歩で起きた出来事」というお題で、あの短編よりまさった作品などこの世にあるのだろうか。

 ああ、なにもアイデアが思い浮かばない。


 そうだ。フィクションでなにも思い浮かばなければ、実話はどうだろうか?

 深夜の散歩でなにか起きなかったか?

 散歩中、背後に視線を感じたので、スマホの灯りで照らしたら、ヌートリアがこちらを見ていた。

 うーん。弱いな。

 いや、そういえば、短いが、深夜の散歩中にふしぎな体験をしたことがあったっけ。

 その話でお茶を濁そうか。



 会社の先輩のマンションで、深夜三時まで飲んだ時のこと。

 泊まっていくかと言われたが、自宅までそう距離があるわけでもなかったので、酔い覚ましの散歩がてらに歩いて帰ることにした。

 その途中で、無人の駅前ロータリーに通りかかった時のことだった。

 タクシー乗り場に備え付けられていたベンチに、人の形をした黒っぽいものが三体、腰かけていた。

 明らかに人ではないが、なにかではある、それらを見て、私の酔いは一度に醒めた。

 それらはこちらを見ているようにもみえたし、なにか話し合っているようにもみえた。

 私は近づくことなく、ゆっくりとその場を離れて、自宅に着いた。

 その後、とくに病気などにはかかっていない。

 杉浦日向子「百物語」の「雨中の奇物の話」に出て来た化け物のような存在か。

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