これって運命?それとも策略?
ひろかつ
地震に自信
『地震、カミナリ、火事、オヤジ』おじいちゃん世代の、日本の怖いことランキン
グだと言う。世代は移り変わり、今は最初に『オヤジ』は消えると思う。うちだけの話かもしれないけれど、パパを怖いと思ったことは一度もない。声を荒げる姿さえ見たことがない。
『火事』も怖いとは思うけれど、幸いなことに一度も経験がないし、実際に遭遇したこともない。昔と違って木造建物が減り、耐火構造の建築物は増えたこともその理由なのだろう。
『カミナリ』も避雷針の発達などで落ちることはめったにない。ピカッと光る閃光と音に関して言えば、怖さを感じることは否定できない。けれども、季節的に限られているものだと思う。
ところがこの中で『地震』だけは、日本の地に住む者にとって、昔も今も最も身近な災害であり、最も怖いものではないだろうか。突如として襲ってくる地震に、心臓は高鳴り身体全体が脈打つ感じは、恐怖以外のなにものでもない。
ところが、恐怖を感じるものの、対処には自信を持てるようになる。ある程度の震度も予測出来るようになり、それに見合った方法を身に着けるものである。
今の地震もそうだった。寝ていても地の底から響くような唸りを感じ取り、脳はすぐに覚醒することが出来た。枕を頭に乗せ、出口確保のためにドアを開いて部屋の隅でじっと落ち着くのを待った。
部屋の隅と言うのは、柱が近い分、強度があるからであり、ここは窓からもそう遠くない。
もしも家が崩壊した場合、窓などが近い方が救助しやすいとの話を聞いたことがあるからだ。幸いにして揺れの時間は短く、すぐに落ち着きを取り戻した。
「ふぅ、収まったかな?5くらい?」と、そんな判断を下すころには、心臓も呼吸も平常に戻っている。数年前から頻発するようになった地震に、身体はおのずと対応していくようだ。
落ち着きを取り戻した私とは対照に、階下からは悲鳴のような声が聞こえていた。階段を降り居間に行くと、パパもママも既に起きだしていたが、ママの騒ぐ声には呆れかえるしかなかった。見たところ、室内に大きな被害はなかったようだ。
「大丈夫だったか?」パパが私に気が付き、声を掛けた。
「うん、平気」
「いやん、大事なカップが割れちゃった」とママは泣いていた。
「そうか、よかった。それにしても四時か。二度寝は出来ないな」と、パパは掛け時計を見ながらそう言い、そして苦笑いを浮かべた。ママの大騒ぎには慣れっこになっているため、パパも知らん顔をしている。それからガウンを羽織り、
「まあいいや、ちょっと畑を見てくるな」と、懐中電灯を片手にまだ薄暗い外へと向かった。畑と言っても家族の胃袋を潤す程度の小さなものだが、パパにとっては大切な畑のようだ。
それに引き換え、ママの慌てぶりは極端だった。
「あー、怖かった。あー、なんで揺れるのよ」他にも台所に被害がないかと確認しながらも、眼に涙を浮かべながら動き回っている。
「仕方ないよ、日本なんだから」私はそんなママを可愛いとさえ思っている。
「美紀ちゃんは大人だわ」この点だけは、都合よく大人扱いしてくれる。
「はいはい、ママは若いですよ」大げさに対応すると、
「仕方ないわ、早いけど、ご飯の支度するね」と少しは笑顔になった。ママをおだてるには『若い』と言う言葉を使えば事足りる。
「余震があるかもしれないから、火には気をつけてよ」
「はいはい、大人の意見を尊重します」
ママが極度に地震を嫌う理由は、帰国子女だからだろう。地震とは縁のない国で、大きくなるまで育った。だから、『地震に慣れる』ことがなかった。
勿論、身体的な慣れと言うことだが、免疫のないことが理由だろう。日本に戻ってきてからは、その地震の多さに驚き、いつまでも怖がっているのだと思う。
日本で産まれた私でさえ、地震は怖い。しかも、越してきたことにより、更に身近になったのも事実だ。『田舎で暮らそう』パパがそう言いだして、翌月にはここへと越してきた。ここが地震の多い地域とは、恐らくパパも知らなかったことなのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます