第1章 51話 国王からの招待①
バレック公爵の件が片づいた。
実際には、これから尋問や裁判などが執り行われるのだろうが、それは騎士団の役目となる。
そもそもが、来賓の俺が絡んでいたのがおかしいのだ。
「大変でしたね。」
アンジェリカが労いの言葉をかけてくれた。ワルキューレ部隊長のシリア·ボーディンから案内役を命じられたので、夕食会まで連れ添ってくれるらしい。因みに、スレイドはまた兄のジョシュアに連れて行かれたので、2人きりだ。
「バレック公爵の件は、スレイヤーとしての関連もあるから仕方ないよ。それよりも、忙しいのにつきあわせてしまって申し訳ない。」
「お気になさらないで下さい。むしろ、タイガさんと一緒にいると、退屈しないので役得です。」
そう話すアンジェリカは、銀髪で色白な美しさと、あどけないかわいさを兼ね備えている。甲冑を身につけているので、プロポーションまではわからないが、模擬戦を行った後でも良い香りがした。闘いの時の凛とした雰囲気とのギャップが萌える。
いや、こちらこそ役得です。はい。
「アンジェリカは模擬戦の時に剣技しか使わなかったけど、魔法属性は何かを聞いても良いかな?」
「聖属性です。回復と浄化、魔法防御にしか使えません。戦闘時には剣技に頼るしかないので、模擬戦でタイガさんにほめていただけたのが、すごくうれしかったんですよ。」
謁見時の国王の言葉のせいで、聖属性=性属性に聞こえてしまう···ダメだ、何か興奮する。
「実際に良い剣筋だったからね。フォームもきれいだったし。」
「きれい···。」
アンジェリカが何かをつぶやいている。
「聖属性魔法を使う人は、結構いるの?」
「え、ああ···聖属性魔法ですね。全体的には一番使い手が少ないですし、ほとんどは教会に属していますから···騎士団の中では100人に満たないかと思います。」
100人かぁ···その中から、数名を派遣してもらうのは難しいだろうか。
「そうなんだ。うーん、難しいかな。」
「聖属性魔法士を探しているのですか?」
「実はそうなんだ。魔族との交戦が激化しそうなんだけど、事前に存在を察知するためには、聖属性魔法士の力が必要なんだ。」
「初めて聞きました。普通の索敵では、魔族の気配は察知できないのですか?」
「魔族は魔力を隠蔽するからね。邪気を感じることのできる聖属性魔法士でないとダメなんだ。」
「そうなんですね····。」
アンジェリカは何かを考え込むような表情になり、しばらく無言だった。
国王に招かれた夕食会は、王城奥の公邸スペースで開催される。
俺は再びメイドちゃん達の着せかえ人形と化した。
いろいろと触ってくるし、あーでもない、こーでもないとコーディネートを繰り返されるので、衣装に着替えるだけで1時間も要することになった。
「もう好きにしてください」という心境で終わるのを待ち、解放された時には苦行を行ったかのように身も心も疲れ果てていた。
帰りたい···。
予定としては夕食会が本番なのだが、気持ち的にはすでに萎え、いやいや病を患っていた。
公邸スペースは意外なほど殺風景だった。装飾が無いわけではないが、国力を無駄に誇示するようなことはしていない。
拝金主義者や自己顕示欲が強い者の場合、他国からの客を招いたりする際に、これでもかというくらいの華美な装飾で相手を圧倒しようとする傾向があるが、この空間は個人的に質実剛健な感じがして好感が持てた。
待合スペースを兼ねたホールで待っていると、華やかなドレス姿の女性が2人でやって来た。
「え···と···ボーディン隊長と、ビューア副隊長?」
「····タイガさん、どうされたのですか?すごく他人行儀ですけど···。」
2人の装いが先程までとは異なり、可憐というのに相応しいものとなっていた。王族や貴族の女性がメインとなるであろう夕食会のため、地味な部類に入るディナードレスをまとっている。しかし、もともとのルックスの良さと、普段の鍛練によるしなやかな肉体が、落ち着いた美しさを醸し出している。
「················。」
「タイガ殿、どうかされたのか?瞳孔が開いているぞ。」
「···はっ!?2人があまりにもきれいすぎて、トリップしていたのか···危ない危ない。」
独り言が無意識に出た。
「だ···大丈夫か?」
ボーディン隊長が、こいつ大丈夫か的な顔で苦笑している。アンジェリカは頬を染めてモジモジしだした···トイレか?
「あの···タイガさんも素敵ですよ。」
「ありがとう。でも、これちょっとチャラくないかな?」
メイドちゃん達が時間をかけてチョイスしたのは、光沢のある濃紺スーツに、シルクの白ハイカラーシャツ。それに赤系ダミエ柄のスカーフと、白黒ツートーンのウィングチップを合わせている。
この組み合わせ事態は悪くはないと思うが、少し浅黒い肌で黒髪黒瞳の俺が着ると、なぜか遊び人に見えるのだ。
因みに元の世界では某ブランドで有名なダミエ柄は、日本の市松模様がモチーフとなっているらしい。
「···少しだけ。でも大丈夫です。」
ガ~ン!
アンジェリカ、こういった時のその答えは「かなりチャラい」と同意義だと思うぞ。
「大丈夫だ、タイガ殿。ちょっと色気が有りすぎるが、似合っているよ。」
メイドちゃん達は俺をどうしたいんだろう。
「お気遣いありがとうございます。」
「いや··はは···。」
ボーディン隊長も無理にフォローしなくても大丈夫ですよ。余計に恥ずかしくなるから。
まぁ、フリルやハデハデな装飾の貴族服は好みじゃないので、まだ良いかな···。
ワルキューレの2人と話をしていると、招かれた者が続々とやってきた。
とは言え、知っている顔ばかりだ。
大公にターナー卿、ジョシュアにスレイド。
他のワルキューレのメンバーもいたが、彼女達は基本的に夕食会の警護任務にあたるようだ。
「招かれた方達は、全部で何名くらいおられるのですか?」
何気に大公に質問をしてみた。
国王主催の夕食会にしては、あまり人が集まっていない。開催時刻まで30分と迫っている。
「ん?外部からはこれだけだと思うが。」
「····これは何の夕食会ですか?」
何か嫌な予感がした。
「君の歓迎会と御披露目を兼ねているのだが、それがどうした?」
歓迎会は良いとして、御披露目?
誰に?
なんで?
「まさか私のために国王陛下がわざわざ?」
「そうだ。何か問題はあるか?」
「問題と言うか···私は他国の有力者でも外交官でもありませんが。」
スレイヤーギルドのギルマス補佐、しかも平民に対する歓待としては度が越していないか?
「細かいことを気にするな。君にとって悪い話ではないぞ。」
ハッハッハと笑いながら大公がそんなことを言うが、あんたや国王が怖いんだよ俺は。
娘と結婚させようとしたり、妻を娶らせようとしたり···。
やっぱ帰りたい。
「タイガさん!」
また気が滅入りかけた時に、聞いたことのある声がした。
「···ガイウス?」
振り向くと、そこにいたのは意外な人物だった。
「こんばんは。」
招待客として正装をしている。
「僕がどうしてここにいるのか、わかりますか?」
ふっふ~ん、と得意気な顔をしている。ドヤ顔一歩手前だな。
「大公閣下の身内だからだろ?」
「······えっ!?なんでわかったんですか?」
まず初対面の時の自己紹介で、ケリーが「ガイウス·チェ···」とラストネームを言いかけていた。この場にはチェで始まるラストネームの人物は大公だけだ。それに雰囲気がテレジアに似ていた。
「大公閣下と目鼻口の数が一緒だからだ。」
「····それって、みんな同じじゃないですか。」
「そうだっけ?」
「······タイガさん、いくら男に興味がないからってひどいですよ。」
「···冗談だ。頼むから、俺を貶めるのはやめてくれ。」
こんなホスト擬きの格好をした上で、女好きのような発言はされたくない。
ニマーっと笑うガイウス。
「ケリーとセイルは?」
「ほら、やっぱり女の子のことばっかり。」
こいつ、うるせーっ。
「ここに来る前に、ガイウスを手伝ってくれたことは聞いている。親の私が言うのも何だが、息子は人を見る目が厳しい。それが稀に見る人格者だと絶賛をするのだ。義兄弟になるに相応しいとな。」
褒められているのは良いが、義兄弟って何だ。どさくさまぎれに何を言ってる。
「···この親バカ。」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、空耳でしょう。お疲れなのではないですか?」
「···············。」
ぷっ!
ガイウスが吹き出した。
「タイガさんだけですよ。父上にそんなことを言えるのは。」
「それにしても、大公閣下の嫡出子がなぜ冒険者をやっているんだ?」
話を無理やり逸らせた。
こんな不毛なやり取りはごめんだ。
「僕は嫡男ではないですから。以前にタイガさんが言っていたように、政事に関わるにも、人の上に立つにも、王城や貴族の世界しか知らないようでは考えが浅くなる。そう父上からも教わったつもりです。」
「よく危険度の高い冒険者になることを了承してもらえたな···いや、素晴らしい父上だ。」
側にいる大公は微妙な顔をしている。
おそらく、今でもガイウスの身を案じているのだろう。自分の子供には逞しくなってもらいたい。だが、怪我や身の安全は心配。親なら当然のことだが、大公には立場や主張がある。今も、本心ではそれが正しいのか揺れ動いているに違いない。
「父上には、見る度に成長したなと言ってもらってます。厳格な方ですから世辞は言いませんので、素直に喜ばしいですよ。」
親バカだけどな。
そうツッコミを入れようかと思ったが、大公がぷるぷる震えて感動をしていたのでやめておいた。ガイウスもリスペクトしているようだし···あ、ペロッと舌を出しやがった。
「ガイウスが大公閣下の嫡出子と言うことは、もしかしてあとの2人が王族だったりはしないよな?」
こっそりとガイウスに耳打ちをしてみた。こういった展開だとそんな可能性に思いあたる。
「違いますよ。」と否定されるかと思ったら、目を見開いてこちらを見るガイウスがそこにいた。
「えーっ!?どうしてわかるんですか?スレイドさんに聞いたとか?」
えっ···嘘ぉ。
マジか!
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