第1章 46話 謁見③

残るはあと2人。


仲間の下敷きになっていた奴も、何とか立ち上がってきた。


額に汗を浮かべ、腰が引けている。


弱いものいじめをしている気分になってきた。


さっさと終わらせよう。


そう思って、最速で動いた。


魔族を相手にする時と変わらないスピード。


おそらく、普通の人間には残像しか見えないだろう。それだけスレイヤーの身体能力は圧倒的なのだ。


普段から行動を共にしているのであまり考えはしなかったが、金塊事件で普通の人間との力量差を実感している。


目の前の騎士団員の実力は確かに高い。


だが、彼ら5人が相手なら、パティ1人でも難なく倒すことができるだろう。手加減ができるかどうかはわからないが。


スレイヤーは周りの実力が段違いのため、基準となる強さが違いすぎるのだ。


目の前の騎士団員の個々の実力は、オーク1体よりは上だろう。しかし、オーガを倒すためには、複数人が必要となるのではないか。


俺自身はオーガと闘った事がないので、はっきりとしたことは言えない。あくまで推測での話だが、ほぼ間違いない気がする。




騎士団員2人の意識を奪うのに時間はかからなかった。


俺の動きについてこれないのだから、すぐに背後をとられて当て身を受け、昏倒する。


なぜ実力を試すような真似を、国王が今のタイミングで行ったのかはわからないが、メイドさん達が選んだチャラ男服を汚すこともなく、戦闘は終了した。


騎士団には何のメリットもなかったはずだ。


むしろ、恥をかかされて、ジョシュアのようにスレイヤーを嫌う奴が増えるかもしれない。


憂鬱さだけが募る。


口を開けて、唖然とする上位貴族達。


そのような中で、拍手をする者がいた。


国王陛下だ。


「さすがと言うべきか。それとも、騎士団の不甲斐なさを嘆くべきか。ジェラルド、そなたはどう思う。」


「スレイヤーの実力が秀でていると、改めて実証された訳ですな。騎士団が弱いわけではないでしょうが、あくまで対人間レベルでの話。これを機に、驕りを捨てて全体を底上げするように、ターナー団長にはがんばってもらいましょう。」


ジェラルドって誰だ?と思っていると、口を開いたのはチェンバレン大公だった。何か含みがあるような話をしている。


「ふむ、ターナー団長よ。そなたが言っていた通り、今の騎士団のレベルでは魔族に対抗する力はないようだ。その為に、スレイヤーの存在意義があることが再確認できたとも言える。事前に話していたように、協力体制を敷くが良い。」


「御意にございます。」


上位貴族達の中に並んでいたターナー卿が答えた。


ああ、何かようやく話が見えてきた。




「ショ···シウォ···シオタ··えぇい、呼びにくいな。タイガと呼ぶぞ。突然試すような真似をして悪かった。王城内に、スレイヤーの存在意義を疑問視する者もいたのでな。大公や騎士団長からの進言で、そなたの実力を見させてもらったのだ。」


良かった。


国王陛下にショタと呼ばれたら頭を叩く訳にはいかなかったので、ファーストネームで呼んでくれた方が良い。国のトップがショタと呼ぶと、他の者も絶対にマネるしな。


「元より、騎士団とスレイヤーでは、その役割がはっきりと別れていると認識をしております。今回、スレイヤーの存在意義を再確認していただける機会に恵まれたことを感謝致します。」


「うむ。そう言ってもらえると助かる。そなた達の存在は、魔族や魔物討伐が主任務。騎士団は国衛のために存在する。その認識は変わらないぞ。」


要するに騎士団こそ最強で、スレイヤーの存在は必要があるのか?という考えを持つ者が、騎士団か上位貴族達の中にいるのだろう。


先程の戦闘は、その考えを払拭するためのデモンストレーションということだ。


しかも、それを画策したのが大公やターナー卿というのは、マイク·ターナー事件での事後処理で信頼を得たという証だと解釈ができた。


「それでは今回の謁見の本題に入る。タイガよ、そなたは魔族討伐に多大な貢献をし、何名もの貴重な命を救った。それに対して報奨を与えたいと考えておる。何か希望はあるか?」


ずいぶんと面倒な余興があったが、報奨のために俺は呼ばれたらしい。それに乗じて、内政のダシに使われた感はあるが···まぁ、いいや。


それにしても、報奨か。


特に希望はないが···あ、そうだ。


「ありがとうございます。もし、希望を聞いていただけるのであれば、聖属性魔法士を数名で構いませんので、スレイヤーギルドに派遣していただけないでしょうか?」


「ふむ。性属性とは···エロいな。」


おい、こら。


おっさんの耳は腐ってんのか?


「聖属性魔法士です。」


「わかっておる。冗談だ。」


立場を考えた冗談を言わんかい!


間違いなく王の権威が地に落ちたぞ。


「魔族の驚異を事前に察知するために必要なことでございます。」


「よかろう、協議する。しかし、それは私的な報奨ではないではないか。個人的な希望を申してみよ。」


「申し訳ございません。個人的な希望は···思い当たりません。」


「なんと欲がない···では妻を取らせようか。」


「結構です。」


「···即答か。少しは私の悪ノリに付き合え。」


嫌だよ。


なんか目がマジだったし。


なんでこの世界の権力者は俺に嫁を取らせたがるんだ。


「ではこうしよう。そなたに騎士爵を陞叙する。」


は?


俺が貴族になると言うことか?


なんで?


「失礼ながら、それも冗談でございましょうか?」


「これは本気だ。」


「················。」


驚いて絶句した訳ではない。


ソート·ジャッジメントが反応したのだ。上位貴族の中に2人。おいおい、強い悪意を感じるぞ。


「嫌か?」


「···そうではありません。私など、大した功績がございません。」


悪意が揺らめいている。


陛下がいる方から数えて4番目と、中央から後ろに2つ目。目線は正面のまま、感覚で特定する。


「タイガよ。そなたはこれまでに何体の魔族を倒した?」


「10体程かと。」


「普通のスレイヤーなら、何年もの経験の中で1体を倒せれば良い方だと聞いておる。しかも、1人で対峙できる者など、アッシュとそなたくらいであろう。有り余る才能がありながら、あまりにも無欲過ぎるのは嫌味になるぞ。」


「···それは失礼致しました。」


「それとも、やはり誰かを娶らせようか?」


「いえ。まだ身を固める気は···。」


「もしかして···そなたは男が好き···。」


「女性が好きです。大好きです。」


「はっはっは。そうか、女性が好きか。爵位を持つと、一夫多妻が許されるぞ。ハーレムだ···まぁ、気苦労が増えるがな。」


国王は遠い目をして、違う世界に入っていった。


ハーレムは魅力的だが、いろいろとあるんだな。


ちょっと引くぞ。




ようやく謁見が終了した。


気疲れがひどい。


結局、爵位は国王の一存で陞叙されることになった。とは言え、騎士爵と言うのは栄誉称号だ。領地がもらえるわけではない。まぁ、一夫多妻が許されるという特典があるくらいか。


こちらから個人的な報奨はいらないと言ったことだし、実生活で何かが変わる訳でもないので、どうでも良かった。


アッシュあたりはハーレム、ハーレムとか言ってからかってきそうだが、同じ爵位で恐妻家の奴に言われると、ただのひがみにしか聞こえない。


「嫁さんに言うぞ!」


の一言で撃退してやる。




このまま帰れると思っていたが、面倒なことに国王から夕食会に招待をされてしまった。


俺は夕食までの時間を利用して、スレイヤーギルドに連絡を入れることにした。案内役のジョシュアが、謁見の後にスレイドと一緒に現れたので、連絡のための水晶を利用させてもらえないか頼み込んだ。


「それでは王城内にある連絡用の水晶が使えるように手配をしましょう。」


ジョシュアには俺に対するわだかまりはない。アッシュへの因縁は、スレイドを上手く利用することで飛び火しないようにできているようだ。


騎士団ではやり手なのかもしれないが、ブラコンなので扱いやすい。


「助かります。スレイドは素晴らしい兄上を持って幸せだな。俺には兄がいなかったから心底うらやましいよ。」


そんなことを言っておけば、こちらのお願いを簡単に聞いてくれるのだ。




「謁見が無事に終わって何よりだ。」


ギルドに連絡を入れるとアッシュが出た。


「そちらに変わりはないか?」


「ああ、問題はない。他の奴等も連携や個々の修練に励んでいるし、思っていたよりも成果が出ている。おまえが戻る頃には全体の戦力の底上げができそうだ。」


「そうか、それは良かった。今夜は国王陛下から夕食会に招待をされている。こちらを出るのは早くても明日以降になりそうだ。」


「わかった。気をつけて帰ってこいよ。」


「ああ。そう言えば、上位貴族の会合が今日明日で行われているが、お前の身内は見当たらなかったぞ。挨拶をしておこうと思ったのだが。」


「辺境伯は普通の貴族とは異なるからな。定期会合にはあまり顔を出さないんだ。」


そんなことを話し、やり取りは終了した。









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