第1章 37話 スレイヤーギルドの改革①

「今のままでは、上位魔族に対抗をするのは難しい。」


ギルドに戻ってから、会議が始まった。


疲弊した馬を回復させてからの出発となったので、すでに夜となっている。


参加したスレイヤーはランクAばかりで、それぞれがパーティーのリーダー級だ。そこにリルとフェリ、テレジアを含むうちのパーティーと、スレイドのパーティー全員が呼ばれていた。


「確かに。今日現れたような上位魔族に遭遇をした場合、我々ランクAが複数名でパーティーを組んでいたとしても対処は難しいですね。せめて、1パーティーごとに、魔族1体と対等以上に闘えるレベルにならなければ、話にもなりません。」


ステファニーが現実的な事実を述べた。


「そうだ。だが、それよりも先に、魔族の存在を事前に察知できないことが、最初の課題だ。ギルド内では、タイガしかそれができない。」


「ギルマス補佐は、どうやって魔族の気配察知をしているのですか?」


魔族は魔力を隠蔽する。


通常の気配察知では、存在を事前に知ることはできない。ステファニーの疑問はもっともだった。


「··ん···まぁ、特殊なスキルかな。」


「まさか···それもカンサイジン特有の!?」


いや、それは違うぞステファニー。


関西人の特殊スキルはノリツッコミだけだ。あとは関西弁?


「あのスキルはタイガ独自のものよ。他の人が身につけることはできないわ。」


ナイスフォローだ、リル。


「まぁ、魔族の気配察知については、鍛えてどうにかなるものではないだろう。それについては、聖属性魔法の使い手を何人か招聘するつもりだ。」


「招聘···ですか?」


「ああ。チェンバレン大公閣下にお願いをするつもりだ。騎士団直属か、教会に属している者を派遣してもらう。」


「そんなことが可能なんですか?」


みんなの視線が、自然とテレジアに向かった。


「え···あ···私がお父様にお願いをすると言うことでしょうか?」


テレジアが急に注目をされて焦っている。なんか、かわいい。


「いくら何でも無理よ。大公閣下は公私混同はなさらないわ。」


さすがにリルは冷静だ。


「そうだな。ここはタイガにお願いしようと思う。」


は?


俺?


なんで?


「それでしたら、お父様もお話を聞いてくださいますわ。」


おい、テレジア。


何が「それでしたら」か理解ができませんが。


「だと思ったよ。と言うわけで、タイガよろしくな。」


···やられた。


この腹黒アッシュめ。


俺を人身御供にするつもりだ。


「でも、大公閣下は公私混同はしないんじゃないのか?」


いちおう抵抗をしてみた。


「公私混同じゃないだろ?魔族の驚異は国にとっても重要な課題だ。大公閣下の信望が熱いお前なら適任だ。」


「··················。」


リルに助けを求めてみたが、苦笑いをされた。


やだよ。


チェンバレン親子は、何かを企んでいて怖いんだよ。


「じゃあ、その件は大丈夫だな。次の議題にいこう。」


おい···何が大丈夫なんだ。


意味がわかんないんですけどぉ。


「次に、各スレイヤーのレベルアップをどうするかについてだ。タイガが魔族を単独で討伐することは周知の事実だが、今日は別の者が討伐に成功しているよな。俺は見ることができなかったが···テスに状況を説明してもらいたい。」


「あ···はい。タイガさんにアドバイスをされた通りに魔法を放っただけです。どちらかと言うと、ケイガンさんの方が状況を詳しく理解されているかと···。」


ケイガンはテスに丸ぶりをされて目を丸くした。


「いや···実は自分も何がどうなったのか、理解はできていないのですが···。」


と言って、俺に目を向けた。


やめようよ。


みんなでキラーパスを送りあうのは。


「ああ、やっぱり、あれもタイガか。説明をしてもらっても良いか?」


何だろう。


すごく悪いことをして、尋問をされているような気分なんだが···。


「簡単なことだ。火に酸素を送れば、高い燃焼効果が得られる。」


「·················。」


「··················。」


なんだ?


みんなフリーズしているぞ。


「······それだけか?」


「·······それだけだ。」


「·······酸素って、なんだ?」


そこからかぃぃ。


あ···そうか。


この世界の科学は、一部でしか研究がされていないんだった。


「ちょっとややこしい話になるから、明日にしないか?時間がかかるぞ。」


「ギルマス補佐。今日のようなことが、いつ起こるかわかりません。私達なら大丈夫ですから、お話をしていただけませんか?」


ステファニーは真面目ちゃんだった。


「別に構わないが、疲れている中で、科学的な話をしても構わないのか?」


「科学···。」


「無理無理。」


ほら、参加者から拒否の意思表示があったぞ。って、言ってるのはアッシュじゃないか···。


「·····科学って···難しい内容ですか?」


ステファニーも青白い顔をしている。


短い付き合いしかないが、俺はスレイヤー達をこう見ていた。


そのほとんどが、『脳筋』だと。




結局、その日の会議はお開きになった。


科学と聞いて難色を示したスレイヤーが、全体の8割に及んだからだ。


魔導学院を卒業した者でさえ同じ反応を示したのは、異なる属性の魔法を掛け合わせるという概念がなく、単属性かつ単独での活用が常識とされているからに他ならない。


どこの世界でも、慣習にとらわれると常識の範囲が狭まるのは同じだ。


逆に言うと、それだけ伸び白があるということにもなる。


これまで知らなかった知識を身につけ、新しい手法を活用することは悪いことではない。


まぁ、もっともらしい事を言っているが···単に俺を嵌めるような真似をされたから、その腹いせで科学を持ち出しただけなんだが···これは内緒にしておこう。


因みに、フェリとリルは今週末から学院が長期休暇を迎えるため、しばらくはスレイヤーの職務に集中できるらしい···ついでにテレジアも。


こちらの世界の学校では、9月から進級となるため、6月の半ばから8月までが長期の休みとなるのだ。あまり気にしていなかったが、今は6月らしい。


誰だ?


ご都合主義とか言っている奴は。


フルボッコにするぞ!




次の日の午前中に、昨夜のメンバーがギルドの会議室に集まった。


リルとフェリ、それにテレジアについては、学院に行っているので欠席となったが、あとから俺が話すので問題はない。


「さてと。まず始めに、科学についての簡単なレクチャーを始める。魔法に応用するための基礎だから、ちゃんと聞いてくれ。もし、寝るような奴がいたら、横のテーブルにある液体を口に注ぎ込むから、注意をしてくれ。」


「···タイガ、質問だ。その赤黒い液体はなんだ?」


アッシュが訝しそうに聞いてきた。


「知りたかったら、試しに寝てみると良い。」


俺はにっこりと微笑んだ。


この脅し···警告のおかげで、タイガの講義で寝たスレイヤーは誰1人としていなかった。


「···と言うわけで、空気には酸素が含まれている。風撃を炎撃に掛け合わせると、その中に含まれている酸素が燃焼を促し、さらに風の勢いで炎撃の威力が高くなると言う訳だ。」


俺は学校の授業のように、会議室の前にある黒板に図を描いて説明をした。


エージェントのブリーフィングも図を活用して行うことで、短時間の理解を促すことができる。脳筋どもには口で何を言っても時間がかかるだけだ。百聞は一見にしかずという諺は本当なのだ。


「先生!それが昨日のテスとケイガンが使った魔法なんですね?」


パティが手を上げて発言をした。


ご丁寧に、赤いフレームのメガネをかけている。


「そうだ。」


うん、似合うぞパティ。


かわいいし、良いと思う。


でも、俺は先生じゃないぞ。


「理屈はわかりました。それで、なぜ炎撃は青い炎になったのですか?···先生。」


うん。


良い質問だ、セティ。


でも、先生じゃないからな。


「遊離した炭素が輝いて見えるのが赤い炎、その炭素と釣り合いのとれた酸素が反応した状態が青い炎だ。」


「え··と···炭素とは何ですか?」


「炭素とは炎を作るための燃料と思えば良い。魔法で言えば、魔力がそれにあたるのかな。」


「では、青い炎とは、どのくらいの威力があるのですか?」


「風の強さや、炭素と酸素の量のバランスにもよるが、赤い炎は1000度以下、青い炎は1700~2000度くらいの温度になる。単純に言えば、1.7~2倍。それに風による勢いにより、プラスアルファの攻撃力だと考えたら良いと思う。」


話を聞いていたスレイヤー達は、全員が呆気に取られていた。


理解が追いついていない者、単純に攻撃力の加算具合を聞いて驚く者など様々だろうが、今の単属性による魔法よりも、格段に強い魔法が使えることは何となくだがわかったようだ。

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