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 姫は準一を見て、

「でも、このお兄さんに助けてもらったんだ。だから今度この人と結婚することになったんだ。マグニくんも結婚式に来て欲しいんだけど、ちょっとムリかな?・・・」

 姫は保母を見て、

「報告も済んだことだし、これで帰ります。あ、保母さんも結婚式に来て・・・」

 保母はその発言を遮断するように即答。

「いや、私は身分が違い過ぎます。遠慮しておきます」

「あは、そうですか」

 姫は右手を突き出しました。

「箒よ!」

 するとこつ然と箒が現れ、その手に箒の柄が握られました。姫は準一を見て、

「準一!」

「OK!」

 姫と準一はタンデムで箒に跨ると、箒はふわ~と舞い上がりました。姫は保母や子どもたちを見て、

「じゃ!」

 2人が乗る箒はゆっくりとしたスピードで飛び去りました。子どもたちは一斉に手を振り、

「バイバーイ!」

 保母はゆっくり手を振りました。準一は横目でその保母を見て、

「もしかしてあの保母さんが、君の曽祖母ひいおばあちゃんの生まれ変わり?」

「うん、そう。前世が見えるおばあさんに導かれておじいさまが行った場所が孤児院だった。あの時代この孤児院は、貧民街にあったそうよ」

「貧民街? よくそんなところに君のおじいさん行けたね。王様だろ?」

「自分を生んで育ててくれた人の生まれ変わりだからね。それにその頃の貧民街は、それほど危険な場所ではなかったそうよ。ま、今もそうだけど」

「それも君の曽祖母ひいおばあちゃんのおかげ?」

 姫は微笑んで返答。

「うん、そうね。

 おじいさまはそのあとも、何回も何回もお忍びでその孤児院に行ったそうよ。そのうち保母さんは妊娠した」

「ええ、それって大問題になるんじゃ? 身分の差があり過ぎじゃん!」

「ふふ、その通り。宮殿の中は上を下への大騒ぎになったわ。私はまだ6歳だったけど、そのときの騒動は今でも覚えてるわよ。

 さらに驚く事実が発覚したの。侍従の1人が探偵を雇って調べてみたら、あの保母さん、立ちんぼやってたそうよ」

「立ちんぼ? 立ちんぼて街娼のこと?」

「そう。あの保母さん、あの孤児院出で、そのまま保母として孤児院に残ったそうよ。けど、運営資金がまったくないから、自分の身体を売るしかなかった。12歳から立ちんぼやってたそうよ。

 皮肉なもんね。前世では娼婦の低年齢化を嘆いて、私娼を廃止にして娼館はすべて国営にしたというのに、来世では自ら立ちんぼしてるんだから」

「国営の娼館があるんだから、そこで働けばよかったんじゃないの? 街娼て違法行為なんでしょ?」

「もちろん違法行為よ。その法律を作ったのも曽祖母ひいおばあちゃん

 でもね、困ったことに国営の娼館で働くには、学校出てないといけないのよ」

「あ、それ、昨日娼婦から聞いたよ」

「当時孤児院は学校と認められてなかった。だから保母さんは街角に立つしかなかった。あ、今は学校と認められてるわよ、あの孤児院。

 ま、そんなわけで侍従たちは、保母さんの胎内おなかの子はおじいさまの子じゃないと推測することにしたの。おじいさまと出会う前にすでにできてた子と見なすことにしたのよ。

 それからしばらくして、保母さんは出産した。生まれてきた子は男の子だった」

 準一は反射的にマグニの顔を思い浮かべました。

「男の子? も、もしかして?・・・」

「そう、マグニくんがその男の子。でも、やっぱ彼はおじいさまの息子じゃなかったみたい」

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