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 準一は、

「ちょっとごめん」

 と言って立ち上がり、自分が着てたシャツを持ち、胸のポケットに手を入れ、入ってた紙片を取り出しました。この紙片は姫に連れてってもらった図書館で見つけた紙片。謎の魔法円が描かれた紙片です。準一はその魔法円を娼婦に見せました。

「これ、なんだか、わかる?」

 娼婦は魔法円に添えられた短い文章を読みました。

よみがえりの魔法ですか? さあ、初めて聞きますよねぇ・・・」

 準一はちょっと考え、

「君の刺青は誰が彫ったの?」

「私たちが勤めてる娼館に出入りしてる彫師ですよ」

「その彫師に会わせて欲しいなぁ」

「ええ? ま、いいですけど・・・」


 時間は流れ、今は翌日朝。宮殿内の長い廊下を姫が歩いてます。と、観音開きのドアの前に立ち止まりました。ドアの向こうには準一と昨日の当番の娼婦がいます。姫は近くの壁に取り付けられた時計を見ました。現在8時30分。姫は思いました。

「8時30分か。あと30分・・・」

 そう、昨日から今朝にかけて準一と同衾してる娼婦は、朝9時でお別れとなってます。つまり姫は、9時になれば準一と逢えるのです。姫は準一に会いたくて会いたくてしょうがないのです。

 しかし、30分はいくらなんでも長いような・・・

 9時まであと15分となりました。さらに時間は過ぎ、あと10分。あと5分、3分、1分・・・

 ボーンボーンボーン・・・ ついに時計は9時を知らせました。わくわくする姫。けど、ドアはなかなか開きません。1分経過、2分経過・・・

 姫は原因を推理してます。2人は別れを惜しんでるのかな? まだドアを開けちゃいけないよな・・・

 でも、ドアはなかなか開きません。姫はついにしびれを切らし、ドアをノックしました。

「あの~ 9時ですよ~ そろそろドアを開けてください!」

 けど、反応はありません。

「も~!」

 姫はついにドアのノブに手をかけました。すると、なんと鍵はかかってませんでした。びっくりする姫。

「ええ、鍵がかかってない?」

 姫はドアを開けました。


 室内には誰もいませんでした。もぬけの殻です。姫は室内に入り、シーツがくちゃくちゃになったダブルベッドに触れました。

「どこ行ったの、準一?」

 姫は慌てて部屋を出ました。


 姫は廊下でリネン係のメイド服の侍女を発見。その侍女に声をかけました。

「あ、ちょっと!」

 いきなり姫=女王に声をかけられ、侍女はびっくり。

「ええ?・・・ あ、はい」

「奥の部屋にいた2人、どこに行ったのか、わかる?」

「あ、あの2人は1時間前くらいに出かけましたよ」

「ええ?」

 姫は考えました。2人はいったいどこに行った? 残り1時間、外で散歩? いや、外でデートなんて、そんなの契約にはなかったはず? 娼婦はもう帰ったのかも? じゃ、準一はどこに行った? もしや私より娼婦の方に興味が湧いて・・・

 姫は慌てて駆けだしました。リネン係の侍女はそれを見て頭を捻るばかり。

「ええ~・・・」


 箒に跨り空を飛ぶ姫。準一がどこに行ったのか、姫に思い当たる節はありません。とりあえず娼婦に行ってみることにしました。

 姫の行く先に宮殿なみの立派な建物が見えてきました。娼館です。

「あれだ!」

 と、姫は何かを感じました。

「マナの力を感じる・・・ やっぱここにいるんだ、準一」

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