10

 ドアがバタンと閉まりました。


 廊下。明石父の眼が殺気に満ちてます。そのまま歩き去って行きました。


 再び事務室。事務室にいるスーツ姿の何人かは懐に手を入れ、残りの者は机の引き出しを開け、1枚の封筒を手にしました。先ほどの男性事務員と女性事務員も顔を見合わせ互いにうなずくと、立ち上がりました。

 そのまま全員立ち上がり、常務が座る執務机に向かいました。驚く常務。

「な、なんだ、お前ら!」

 最初に執務机に到達した事務員が掌でバーンと机を叩きました。びっくりする常務。

「うう?・・・」

 執務机の上には退職願と書かれた手紙が。その手紙を置いた事務員。

「明石さんは何度も何度も設計コンペで入賞しています。あの人がいなくなったらこの設計事務所は終わりです。あの人が辞めるんなら、私も辞めます!」

「ふざけんな! あんな三下さんしたに何ができるって言うんだ!」

 事務員が振り返ると、後ろに控えていた別の事務員が退職願を机の上に。さらに次の職員も退職届。次の事務員も、次の事務員も。結局全事務員が退職願・退職届を提出。全員ドアを開け、事務室を出て行きます。

 それを見た常務。

「こらぁ! お前ら、ふざけんな! 全員懲戒免職だ! 覚えてろーっ!」


 ここは姫と呼ばれてる少女がいる世界の宮殿。こちらも日中の時刻になってます。

 そしてここは浴室。宮殿の中にある浴室としては狭く、少し地味。けど、それなりの大きさがあります。床や壁は総タイル張り。その中に2人の姿があります。1人は少女。もう1人はお側ご用人の侍女です。

 少女はフロ用のイスに座ってます。侍女はその少女の髪の毛を洗ってます。泡が飛び散ってます。もちろん2人とも素っ裸。

 ちなみに、2人の胸の大きさは同じ。別に侍女の胸が小さいってわけではありません。少女の胸が年不相応に大き過ぎるのです。

 侍女が少女に話しかけます。

「姫様、本当にまた行くつもりですか?」

「うん。私は行くと言ったら、絶対行くよ」

「怖いですよ、私だったら2度と行きません。向こうの世界で片手を奪われたんでしょ?」

 少女は左二の腕の切断箇所を横目で見て、

「ふふ、大丈夫、大丈夫。私にはマナの力があるから、こんなケガ、すぐに治すことができるから」

 侍女はその言葉にちょっとびっくり。で、心の中で思いました。

「こんなケガ、って・・・」

 少女は準一の顔を思い浮かべ、言葉を続けました。

「でも、あのときあの人からマナの力をもらってなかったら、私、絶対死んでた・・・

 あの人のマナの力はすごいよ。あの人がいたら絶対やつらに勝てるよ。だから一刻も早くあっちの世界に行って、あの人をスカウトしてこないと!」

 侍女は桶に入ったお湯をゆっくり侍女の頭髪にかけました。姫の髪の毛から泡が流れ落ちました。少女は立ち上がると侍女を見ました。

「じゃ、行ってくる!」

「絶対帰ってきてください。お願いします」

「ふふ、帰って来るって、帰って来るって。ねぇ、帰ってきたら、またアレ、見せてね」

 侍女は苦笑い。

「ふふ。いくらでも見せてあげますよ。それが私たちの仕事ですから。だから無事に帰ってきてください」


 ここは我々の世界。日中の街道。明石父の愛車が疾走してます。

 その車内。明石父が運転してます。かなり怖い眼。踏み込むアクセルペダル。明石父の愛車がグォーンと加速します。かなりの速度。完全に法定速度を超えてます。

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