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「なんだ、こりゃあーっ!」
突然の罵声。中央奥に大きな執務机があり、それに座ってる中年の男性が発した声でした。男性は太ってて、かなり不逞な態度。
執務机の前には男性が1人立たされてます。明石準一の父親です。父親は怒鳴られてますが、小さくなってません。毅然としてます。太った男性はそれに気分を悪くしたか、持ってた数枚の紙片を父親にぶつけました。
「ふざけんなーっ! なんだ、その態度はーっ!」
紙片が男性の顔がぶつかりましたが、男性は顔をそむけるどころか、瞬きもしません。太った男性。
「こんなふざけた文章、小学生だって書けるわ!」
それを2人の事務員が見てます。2人とも事務机に座ってます。男と女です。2人ともまだ20代か? 男性事務員は小声で、
「ああ、常務、なんとしても明石さんを切るつもりだぞ」
女性事務員が応えます。
「明石さんは何回も何回も設計コンペに入選してる設計業務のベテラン、うちのエースよ。その人が書く文章が小学生のような文章であるはずないじゃん」
「あの常務のパワハラでいったい何人の設計士が辞めてったことか・・・」
「なんであんな人がうちの常務になったの?・・・」
「次はオレたちかも・・・」
執務机の前、明石父は毅然とした態度を変えません。
「わかりました。書き直してきます」
「当たり前だ! 大人なら万人が読める報告書を書いてこい!」
明石父はくるっと振り返り、歩き始めようとしました。が、ここで太った常務が、
「そういや、お前んとこの息子、引き籠ってるんだってなあ」
その発言に明石父はビクッとしました。常務は発言を続けます。
「ごく潰しかぁ~ 親がバカだと子にも遺伝するんだなあ。がはは!」
明石父は振り返らず、横目で常務を見ました。ここまでは平然を装ってきましたが、今はかなり険しい眼になってます。当たり前です。明石父にとって準一は最大の弱点。絶対触れて欲しくない事象。それをこのバカ常務は土足で上がり込んできたのです。
常務の上から目線の発言が続きます。
「オレんとこの息子は大学に行ってるぞ、お前んとことは出来が違うんだよ。がーはははーっ!」
常務は高笑い。ちなみに、その息子が通ってる大学は、入試試験で解答用紙に自分の名前を漢字で書ければ入れる程度の大学です。けど、そのセリフに明石父の血は一気に沸騰しました。
明石父は振り向きざま封筒を1つ、手裏剣のように投げました。それが常務の右の眼の下に命中。常務は悲鳴をあげました。
「うぎゃーっ!」
常務は机に落ちたその封筒を左手で持ちました。
「なんじゃこりゃーっ!」
なお、右手は封筒が当たった右の眼の下を押さえています。手の隙間から1筋の血が流れて来ました。明石父はきっぱりと回答します。
「退職願です!」
その発言にこの事務室にいる人全員がビクッと反応しました。が、常務の反応は逆です。
「ぐぐぐーっ! ふざけんなーっ!」
常務はその封筒を掴むと、ビリッと手で真っ二つに。
「退職なんか認めるかーっ! お前なんか懲戒免職だっ! 退職金なんか一切出さんからなーっ!」
歩きだす明石父。
「お好きに」
常務の怒りは収まりません。
「ちょ、ちょっと待てーっ!」
常務は手元の固定電話の受話器を持ち、ダイヤルボタンを押しました。
「くっそーっ、警察に通報してやる!」
けど、明石父はドアを開けてます。常務はそれを見ると慌てて罵声を浴びせます。
「コラッ、逃げんなーっ! お前みたいなヤカラは暴行罪、いや、傷害罪で逮捕だーっ!」
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