何故オレがeスポーツ大会に出なくちゃならん!?
夜々
第1話
「
そう毎日何回と口にしている締めの文句をマイクに吹き込む。
目の前のディスプレイの中では、それぞれ自己主張の権化のように多様な
『gg』
『お疲れー。今日の撮影ってこれで終わり??? 』
『この企画まだまだ擦れそうっすね』
『ha? だれがやるかこんなくそきかく』
『配信見ろ。クソ企画だったら同接もっと少ねーだろ』
『だ・ま・れ☆ しんきがこさんにたてつくな』
『せめて変換くらいしろよww』
荒ぶるチャット欄。
おそらく配信裏で行われているグループ通話でもピーチクパーチク喚き合っていることだろう。
マウスを握りカーソルを正面右のディスプレイに映っている〈配信終了〉ボタンに合わせて1クリック。軽やかな音と共に画面が切り替わり配信時間や視聴者数、投げ銭額が表記される。
「お前らうるさい、チャット早すぎて読めねーよ。オレちょっとトイレ。つか落ちるわ」
『おk』
『アタシもう落ちます―』
『いっトイレー』
「鯖は開けとくから明日の企画の準備したい奴とかは適当にやっといて」
返事が返ってくる前にログアウト。これで今日のスケジュールは消化した。
ふとディスプレイ下部の電子時計に目を向けると午前2時を回っている。
まだこんな早いのかと思うのは、とっくの昔に生活リズムが一般人からかけ離れた表れだ。
今から寝ていつも通りに起きれば10時間は寝れる。いや先に飯は食わねーと……。って、昼からまた撮影あったわ。
疲れ切った頭で考えつつも、とりあえずディスプレイに釘付けになっていた目を外し辺りを見渡す。
照明を点けるのを忘れていた室内は真っ暗で、唯一の光源たるディスプレイが青白い光を放っている。パソコン周りは空になった
生活スペースたるデスクトップ後方は衛生面的には大丈夫だろうが、服やら雑誌が散乱していてとても人にお見せできるような状態ではない。
同居している家族……あるいは同棲相手でもいれば多少気を使うのだろうが残念ながらそんな相手はいない。そもそも誰かに気を使って生きるというのが性に合わないので、相手がいないどころか作れないまである。
「飯……はもういいや」
狭い足場を
洗面台にある鏡の前に立つと
年甲斐もなく派手な髪色。女から目を意識しているような全く髭のない顎。素顔を完全には晒さず
コレがオレとか笑えるな。
昔はもっと炎上覚悟で色々やってたってのに、今や馬鹿にしてたはずの陽キャみたいな恰好して仕事しているなんてよ。
支度を済ませ、あとはベッドに直行するだけと考えたところで再度時間を確認すると時刻は午前2時半。普段なら3時ごろに布団に入っているので若干早い。たぶん今寝転がったところで直ぐには寝付けないだろう。
なら、とオレはベッドに向っていた歩を今一度デスクトップへと向かわせ、最近ご無沙汰だった
まぁエゴサと言ってもサーチするのは仕事の結果だけど。
動画投稿サイトから自分のページに飛んで、投稿済みの動画の視聴回数を流し見していく。収益の確認なら月ごとに増減が表記される折れ線グラフがあるが、今日はまだ月の半ばで今グラフを見ても大した参考にはなんらない。
だから俺が主に確認していくのが視聴回数だ。
動画が投稿されてから数時間でどれだけ視られたかの初速。
視聴回数の増加がピークに至る昨日、一昨日までの動画ゾーンにスクロールで遡り視聴者のニーズと需要に目測を立てる。
様々なジャンルのゲームを投稿していると、自然と伸びやすいタイトルや伸びにくいタイトル。また同じタイトルでも単発企画とシリーズ企画でも再生回数にムラがあ目立ち、古参視聴者なら特定の編集者の動画が好きだという場合すらある。
適当に最近伸びた動画にカーソルを合わせて左クリックして動画を再生。動画自体には目もくれずこの動画の担当編集をチェック。
「こいつ……撮影にも来るし編集もするしよくやるな。今度のオフでなんか驕ってやるか」
ひとり言を零しつつコメント欄を開く。
コメント数はいつもと然程変わらず。有象無象の視聴者が頼んでもないのにお気持ち表明をしている。
『こういう動画見たいです!』
『もっとこんな風にすれば面白くなりますよ』
『あんな奴動画に出すより俺をだせよ』
『このコメントを見たあなたは呪われました。解除するにはこのチャンネルを……』
などなど――――。
しまいには売名まで現れてる始末。まぁそんなことは日常茶飯事なので無視を決め込んでおく。
別に何かいても構わんけど、もうちょっと実りのあるコメントは書けんのかね。
今度はコメントを評価順にしてみる。これは『良いな』を押してもらったコメントが上段に来るので何か役に立つかもしれない。
画面が動き『良いなマーク』数の多いコメントが現れる。
『今も惰性で見てるけどジハイス時代の方が好きだな』
『またRayさんのカッコいいところ見たいです!』
『戦いから逃げるな』
――――――――ッチ。
「うっせぇよ」
意図せず口から愚痴は零れる。
寝る前に嫌なものを見てしまった。胸の辺りに沸々と形容し難い不快なものが溜まっていく感覚。
何も知らない奴らが勝手なこと言うな。
それ以上作業を続ける気も起きず乱暴にパソコンをシャットダウンさせたオレは、胸の内で蟠り続ける憤りを無視してベッドに入り、睡魔の訪れを待った。
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