希望と絶望の渦巻く戦の世界で僕は君と愛を誓う

志波奏多

第1話少年と少女

【prologue1】

かつて人族と魔族の力は均衡を保っていた。


それは人神と魔神が協定を結び、魔族には種族的な強さを、当時後手に回っていた人族には能力を補強する道具と環境的な強さを与え、攻め込んだ方が負けるように仕向けていたからだ。


そして——


はあ、と人神が眉間に手を当て、溜息を吐く。


魔神が協定を破ったのだ。


「魔神のしたことがせざるを得なかったことだとは理解しているが、面倒だな。」


魔神は環境的な弱点を補う道具を魔族に与えた。


ならば自分は人族に純粋に強い個体を与えよう。


彼は優れた人間作りに奔走した。


生まれる前の人間の特性を組み替え、戦いに特化した人間を作った。


結果——


彼は10人の優れた戦の才を持つ英雄を作り出した。


どのような場面でも対処できるように彼らに一つずつ戦以外の才能も与えた。


しかし、彼は読み違えていた。

人間という種族はそんなに優れた存在では無かったのだ。

大きな才能は反動で大きな歪みを生み出す。


そのことに彼は気づかない。


こうして、2つの才能と1つの弱点を持った英雄達が下界へと降り立ったのである。




これで人と魔族が勝つ可能性は五分五分

避けようのない大戦が始まろうとしていた。






【prologue2】

 その日、人類最強の戦士が長い眠りから覚醒した。


 六年間という長期間を昏睡状態で過ごした彼は、その横でほっと一息ついた女性——今まで彼の命を繋いできた医師に感謝を告げる。

 その女性に状況確認を行った後、彼はすくっと立ち上がり、部屋を出て行く。

 その姿は堂々としてふらつく様子も無く、長い間眠っていたようには見えない。


 彼は腹心を集めて、眠っていた間のことを尋ね、今後について指示を出す。

 彼の目覚めを喜ぶ彼らは笑みを浮かべて、その指示に了解した。


 彼はそれを見届けると、魔物が蔓延るトンネル、『ユグドス』へと向かっていった。


 到着する。


 彼は次々と魔物を倒していく。


 六年間のブランクをいち早くうめ、遅れを取り返そうと言わんばかりに敵に突っ込んでいく。


 絶好調とは程遠いものの、その姿は敵に恐怖を与え、それを感じた魔物は次の瞬間には屍と化す。


 そして——


 何かの使命にかられている。

 或いは、何かを恐れてもがいている。

 大量の魔物に囲まれながらも、一歩も譲ることなく無双している彼からは、しかし、そのような印象を抱くような必死さというか、鬼気迫るものがあった。

 




 

【prologue3】

「凶器が何かは分かりません。しかし恐らく他殺であることは間違いありません。」


 深く、深く、沈んでいく


「犯人は見つかり次第報告しますね。」


 全てが遠く見える——私はどこにいるの?


「ご両親が二人とも亡くなって、大変だと思いますが、これから頑張って下さい。」


 堕ちて、堕ちて、堕ちて、堕ちて、——————————私は希望を見つけた


 もう、悲しむ必要はない

 暗闇が晴れ、広がるのはモノクロの世界


 ————二色に染まる世界——————じごくか、てんごく



 

「機が熟したら、僕の仲間が迎えに来ますから。」


 ————狂い堕ちた鈴華りんかは、眼前の男の笑みに気づくことはなかった。

彼女の瞳に映る彼の顔は、黒く塗り潰されていた。

 




「お母さん……」


 母が死んだ。胸に大きな傷痕を残して。


 巨大な動物のもののようだが、どんな動物にも当てはまらない。そんな傷を受けたお母さんの死は永遠に謎のままで、きっと私以外の記憶から薄れて、無くなっていくのだろう。


 父の時もそうだった。私が産まれる直前に死んだと聞いたが、その時は、死因すら分からず、従って真相も分からなかったそうだ。………………私の家族は呪われているのだろうか。





 光の一切差し込まない、暗い道路。その中でも、一際暗い場所に佇んでいる彼女はふっ、と笑いを零す。呪いがどうとか馬鹿げた事を考えるなんて、私も思った以上に参っているなー、と。


 彼女にはもうなにも無い。頼れる人も、お金も、希望も。


 彼女が両親について考えるのは、一種の現実逃避であり、決意を固める為の儀式であった。


 これが終わったら、彼女は死ぬつもりなのだ。


「でも、呪われているんじゃって考えちゃうくらいにはおかしいよねー……。」


 暗闇に微かに響く彼女の声は、親が死んだとも、これから自殺するとも思えない程に明るかった。


 どちらか一方だけであればこうはならなかったであろうが、この世に望み無く、すぐに母の元に行くであろう彼女にとってはどちらも大して辛い事ではなかったのだ。


 彼女はとっくに、狂っている。


「実は異世界でもあるんじゃない? 異世界と繋がる扉があって、そこから怪物かなんかが出て来て、お母さんを殺したとか? ————ちょうど今来た怪物のように…………って、へっ⁉︎」


 馬鹿みたいだと思いながらしていた妄想が半ば現実となって、彼女は心の中で「目の前に巨大な怪物が現れましたー⁉︎」と誰に向けてなのか分からない説明をして思わず顔を伏せた

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