42、城中会議

一室で、ザレルがルークと門番を呼び、他の騎士や賢者けんじゃも合わせ話を聞く。

門番はひどく興奮してショックをかくせず、使者が死んだ時の様子をなんとか詳細に話していた。


「…い、以上でございます。

いきなりで、我々普通の者には逃げるしか……何も……できませんでした。

も、申し訳……」


「よい、その方らに落ち度は無い。

わかった、下がってよい。」


「は、失礼します。」


門番たちは頭を下げ、部屋を後にする。

同じテーブルにつくルークが立ち、軽く頭を下げた。


「では、私からの報告を。

私は遠見とおみ(予言者)ですが、大きな力の痕跡こんせきを感じる事ができます。

受けるのはイメージ。

見たようにはっきりしたものではありませんが、印象として浮かぶのです。

あの遺体から受けたイメージは、ひどく禍々まがまがしい、呪いのような物。

術士じゅつしは普通の魔導師ではないように思えます。

ところが一方……あの燃えた手紙から受けるのは…………

清浄な…青い炎。空よりも青い、青い……」


「普通の魔導師ではない?それは魔物ということか?」


「いえ、はっきりとは……

闇のように暗く……何か、こう、つかみ所のない、しかし巨大な闇が……」


ルークがどう表してよいのか、しかしそのイメージをとらえたときの恐怖にじわりと汗がにじむ。


「清浄な?炎とは?それはどういうものか?

我らにイメージはつかみにくい。もっとわかりやすく例えていただきたい。」


貴族の一人が、はっきりしない報告に少しいらついて訪ねた。

ルークはしばし目を閉じ、迷いながら顔を上げる。

詳細しょうさいに伝えるすべのないもどかしさに、自身もいらついていた。


「例えが…言ってよいものか、見当がつきませぬ。

あの手紙を燃やした炎の気配は、神殿にある神火かみびのようにんでいたのです。」


「なんと!では、手紙を燃やしたのは巫子だと言われるのか?!

魔物と巫子が組んだとでも?」


「馬鹿な!神殿の謀反むほんとでもおっしゃるか!」


賢者けんじゃが驚いて立ち上がる。

一同は驚きにざわめき、ザレルは腕を組みじっと考えている。


「いや、巫子だけとは限るまい。」


貴族の一人が、気弱そうにつぶやく。


「それはどういう事か?」


問われて貴族の男は、ザレルを気にしながら答えた。


「精霊王の血族であれば、清らかな炎を扱うも可能であろうと……思うてな……」


「血族…というと、あのフェリア嬢ちゃんか?馬鹿な事を。」


賢者が首を振り、ザレルを横目で見る。

そしてゾッと震え上がり、思わず腰を引いた。

ザレルは無言で、見た事の無いほど恐ろしい顔をしていたのだ。


「ひっ…」


言ってしまった貴族が激しく後悔し、あわてて首を振る。


「た、た、たとえじゃ!ザレル殿!

あ、あのおてんば少女が、人を殺すなどあり得ぬ!」


ザレルが腰の剣を取って、ドンッと床に突く。

一同がビクッと飛び上がり、小さくなって顔を引きつらせた。


「いや、我が子が精霊王の子である事に変わりはない。

だが、俺が知る限りは、そのように大それた力はまだ無いと断言できよう。

しかし、その方らに一瞬でも疑惑ぎわくを向けられると言うならそれはそれ、俺も親として子の疑惑ぎわくは晴らさねばならぬ。

もしあの子が敵に加担かたんしているとなれば、騎士長としてもこの身にけじめを付けよう。

この首、落として野ざらしにしてかまわぬ。」


静かに、しかし迫力のある言葉が一同を圧倒あっとうした。

精霊の女王を妻にする、その覚悟。

あがめられ、しかし一方では恐れられる精霊王たるドラゴンは、その力もはかり知れない。


賢者が息をのみ、そしてふっと微笑んだ。


「おぬしのその一本気には、ほとほとまいる。

あのまだ生まれて1年もたたぬお嬢ちゃんが、忙しいおぬしの手元にいる。

それだけで皆わかっておるよ。

自分の身を守る事さえかなわぬから、おぬしは目の届く所に置いておきたいのであろう。

我らも年端としはもいかぬ少女を一瞬でもうたがった、それはわびる。

これこそ敵の思い通り、術中にはまる所であったわ。」


「ええ、私もそう思います。

互いを疑っては敵の思うつぼ、それこそ敵の狙い通りでしょう。」


賢者とともに告げるルークの言葉に、一同がうなずく。

そこへ、兵が一人報告に来た。


「あの者の素性すじょうがわかりそうです、腕輪の内側に刻印こくいんがありました。

ここ、ルランの商人です。今、実在するか確認に走らせております。」


「まことか!!では隣国の者ではないのだな!」


全員が立ち上がり、ホッと息を吐いて落ち着いて腰を下ろした。


「助かった、だが……、だとすると……

王女が個人的に使いをやったのなら知らせを送るのはまずい。

どうしたものか。」


「あと、遺族にあの状態の遺体を見せるのはまずかろう、ショックが大きいと町で騒ぎになる。

とりあえずは家族には戦闘に巻き込まれたと、確認は持ち物で簡単にさせるよう取り計らってくれ。

騎士を使いに送って丁重ていちょうに、遺体は荼毘だびして渡すことにしよう。

ザレル殿、心遣こころづかいにけた者の人選じんせんたのみたい。」


「承知した。信用にる者に心当たりがある。」


「とにかく、レナントにやった使いが帰ってくるのを待つ事にしようではないか。

敵が魔物なのか、トランの魔導師によるものか、巫子が関係するのか今のところはっきりしない。

うろたえて判断をあやまってはならぬ。

ザレル騎士長、血気盛んな若い騎士がトランへめ入ることを口々にはやっている。

今がその時ではないことを一同によくよく言い聞かせ、規律きりつを正すよう願いたい。」


賢者が一番心配していることをザレルに告げる。

ザレルは大きくうなずき、顔を上げた。


「では、この件、賢者殿けんじゃどのから宰相殿さいしょうどのへお伝え願いたい。

ルーク殿。魔導師の塔の方々は、続けて魔物か魔導師によるものかさぐってほしい。

それと、城の結界けっかいの強化をお願いする。」


「わかりました。私から長に伝え、できるだけのことをいたします。

後ほど賢者様に報告を。」


「了解した。」


重々しい雰囲気の緊急会議が終わり、ザレルが部下に各部署の責任者を集めるよう指示をする。

人をりつするのは頭が痛い。

よほど剣を振り回していた方がラクだと思いながら、廊下を歩く。


頭を下げる下女たちをいちべつしてふと先を見ると、夕食の準備だろうか大きなパンかごを持ち、食事を別のむねへ持って行く女たちと共に、楽しそうにしているフェリアが目に入った。


「また余計なことを……」


どうしたものかとため息が出る。


「あれはお嬢様ではありませぬか?」


部下が気がついたようで、指を指した。


「あっ!お父ちゃまじゃ!お父ちゃまあぁぁぁ!!」


持っていたパンを横の侍女に渡し、一目散にザレルに向かって駆け寄ってくる。

そして、元気にピョンと飛びついた。

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