16、世継ぎであること
「何故!父上はそれ程リリスを手元に置きたくないのですか?!」
会議を終わり自室へ戻る父王を追い、
王は眉をひそめ、しつこく迫るキアンの顔を左手で叩いた。
「キアナルーサ、あれは
これは試練ぞ。」
キアンが立ち去る父の背中を見送り、ガックリと肩を落とす。
ベスレムの使者が騒ぎを起こしてのち、前と変わらず自分に忠誠を誓ってくれるリリスが近くにいてくれると聞いてホッとしたのに、一日もたたずこの決定。
またリリスは自分の手元から離れていってしまう。
ベスレムでの
自分は……リリスに頼りすぎるのだろうか。
たとえラグンベルク公が公然とリリスこそ後継者だと話しても、父王がそれを認めない限りは
でも、父はどこかリリスを前にして、気持ちが揺らいでるのではないか。
最近身体の具合が悪い父は、リリスの器量をこれで計ろうとしているのではないか?
「ああ、僕は……しっかりしなくては……」
不安で不安で、心に大きな暗い雲が迫ってくる。
国の行く末が危ぶまれる今、肝心のドラゴンたちも自分に付いてくれるのかわからない。
「王子、お迎えに上がりました。」
気が付けばリリスが、心配そうな顔でかたわらに膝を付いている。
さわやかな風が吹き、ウェーブのある赤い髪が柔らかに舞った。
もし、この髪が僕と同じ金色であったなら……
「リリス、お前に使命が下った。」
「はい、なんなりと。」
リリスは、もし王が我が子だと認めたらどうするのだろう。
「リリス……お前は、僕のために死ねるか?」
不意の問いに、リリスが少し驚いた顔をした。
しかし何かを察したように、いつもの穏やかな微笑みを浮かべ頭を下げる。
「王子がそう命じられるなら、私はこの命も
私の忠誠は何を持ってしても揺らぐことはありません、どうぞご安心下さい。
リリスはその覚悟を持って城へ参りました。」
キアンがその言葉に目を閉じ、
言うのは
だが、
だが、お前が王の地位を僕から奪うなら……
目を開け、庭に目をやると叔父サラカーンの17才の息子、盲目のレスラカーンがそば付きの召使い、同い年のライアという青年に手を引かれキアンに頭を下げている。
目が見えない彼は、なにをできることもなく、ただ
彼にできるのは、近隣国の王女を嫁に迎え、アトラーナとの橋渡しになることくらいだと、他は何の役にも立たないのだと、心の奥底で見下していた自分がいる。
世継ぎ以外はたとえ王の
いてもいなくても何のことはない。
叔父のラグンベルクも、あれほど賢く人望があっても簡単に養子に出された。
なんてことの無い存在だ。
世継ぎである、そのことが重要なのだ。
世継ぎで無くては意味が無い。存在価値もない。
そう、お前が王の地位を僕から奪うなら……
お前を……殺すしか……
いいや、お前を……殺してしまおう
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