15、夢の予見
空が赤く燃え、家々が焼かれ城が崩れ落ちる。
緑の草原は沢山の人々が血にまみれて倒れ、隣国の兵が雄叫びを上げる。
魔道師長ゲールは、胸が苦しくなるほどの恐怖に打ち震えながら、その日朝を迎えた。
「だ、誰か!メイス、水を!」
近くの者が部屋に飛び込み、騒ぎを聞いてメイスが水を持ち部屋へ駆け上がる。
ゲールは震える手で頭を抱え、ルークがかたわらに膝を付いていた。
「
「おお、メイスかありがとう。」
ゲールが水を飲み、一息つく。
「やはり、やはりあの赤い髪が不吉を呼び寄せるのだ。恐ろしい夢だった。」
「そのような……少年1人が不幸を呼び寄せるなどと……」
ルークがリリスを
しかし自らも似たような夢を見た後で、ルークにはうまく話すことができない。
「やはりあの少年は、城に置くべきではなかった。」
魔導師達がうろたえて話す中、メイスが部屋を出て行く。
「うろたえよ、おろかなる魔道師長よ。かき乱せ、そして判断を
クスクスと笑いながら、小さくつぶやく。
慌てて上ってくる他の魔導師たちに頭を下げ、メイスは階段を駆け下りた。
魔導の塔からの使者に、王は急ぎ朝食も早々に貴族や
ゲールの見た夢は隣国より国境の城が攻められる夢。
それはアトラーナでもこの王都ルランの隣、レナントにある国境の町が破壊され
「それがいつか、日が特定できぬのか?」
王の弟であり宰相のサラカーンが、ゲールに尋ねる。
「それは
ゲールの隣に控えるルークが、頭を下げ王に進言した。
「使者が参ります。」
「使者とは?お前は攻め入られる夢を見なかったのか?」
「いいえ、私が見たのはレナントへ使者が訪れた夢。しかしその使者の背後に、戦火のイメージを見ました。」
「これは……」
「さて、いかがしたものか。」
レナントに隣国から使者が来る。
その応対次第で戦火になると言うことか。
「レナントからは、隣国トランの兵が国境を越えて潜んでいると言う話しも来ています。
今までこのようなこともなく、王子に婚礼の話も持ち上がっているというのに、一体どうしたことか。」
隣国の王女をキアンが迎え入れる話しは、キアンが旅を終えたあとすぐに持ち上がり、2人は何度か会って話も進んでいた。
ところが、数ヶ月前に不穏な空気が見え隠れしだしたのだ。
一体何が原因なのか、隣国がアトラーナに攻め入る理由もわからない。
「領土を広げようと言うのですか?今更なぜ。」
キアンが、不安そうに声が小さくなる。
「先々代の頃は、領地争いがもっと激しかったのです。王子、しっかりして頂かねば困りますぞ。」
どうにも気弱な様子のキアンに、叔父のサラカーンが
「わ、わかっている、叔父上。」
疲れた顔で王が顔を
「隣国の使者は、レナントを任せているガルシア
卿はこれまでも数々の危機を
しかしもしもを案じて、こちらからも一軍と使者を送るとしよう。」
王はアゴを撫でながら、キアンに手を伸ばした。
「
「私に?!で、でも、万一戦いにでもなったら……まだ私の元にいますのは、
キアンが恐ろしさに身震いした。
戦いに自ら
「先日の魔導師がおるではないか。
レナントには、先日魔道師が1人病で
「リリスを?でも、あれは私のところに……」
貴族の1人が、横で思わず立ち上がった。
「私も反対です、これはアトラーナの命運をかけた事。
あのような不吉な者を向かわせるなどレナントがなんと考えるか。」
貴族の言葉に、王がゆっくりとゲールに視線を送る。
ゲールは目を閉じ、一時を考えたあとうなずいた。
「風の魔導師は先の旅で星に選ばれし魔導師。その力は幼少の頃より、
我ら塔の者は
「でも!きっとザレルは許さないよ!」
決まりそうな気配に、キアンが慌てて立ち上がる。
しかしその後も王は引くことなく結局他の貴族達の声も入れ、一軍にリリスを加えてレナントへの使者とすることに決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます