8、謁見
王はまだ姿が見えず、横に並ぶ貴族や兵と、ただ玉座だけが一行を見下ろしている。
ザレルが先頭に膝をつき、その後ろにリリスが床に伏して頭を下げる。
リリスの胸が高まり、不安と交差する。
父親が王だと聞いてからも、一度も会ったことがない。
たとえ冷たい顔をされても、それは仕方のないことだ。覚悟を決めておかなければ。
「王のお越しでございます!」
どこからか声が上がり、皆が
床にひれ伏すリリスの耳に、
しかし初めて
手が震え、じっと床を見つめていると、突然王の側近がリリスの頭にバサリと布をかけた。
「ザレル、何用か。」
「こちらは風の魔導師リリスでございます。
どうか王子のおそばにお
「ふむ」
久しぶりに聞く王の声は、どこか
荒い息を
「呪われたその姿、気味の悪い物を見せられ不愉快きわまりない。
ザレルよ、これを王子のそばにおくのは気が進まぬ。何が望みだ。」
「このリリスは、王子のために仕える所存。
魔術では右に出る者のない魔導師として、きっと役に立ちましょう。」
「何故役に立つと思うのか。」
「はい、隣国のトランとの
隣国には正体のしれぬ魔導師が、常に王や王子のそばに仕えているとか。
「よい。だがこの、
ますますうわさに火を付けよう。ベスレムより生まれ出たこの奇妙なうわさ、不愉快きわまりない。
今こそそれを断ち切る良い機会ではないか。
兵よ!この者の首をはねよ。」
兵がズイッと前に出る。
突然の展開にリリスが小さくなり、恐怖でギュッと目をつむった。
「お待ちを!」
ザレルが立ち上がり、リリスの前に出た。
「このアトラーナの危機を、乗り切ってこそ王子の王として力量を計られましょう。
ラグンベルク公に認めて頂くためにも、何よりアトラーナのためにも!
それには魔導師の力が必要なのです。」
「魔導師は他にもおるではないか。何故お前はその者に
まさかお前までキアナルーサを裏切ると……」
ザレルがカッと目を見開き、地響きを上げ一歩踏みだした。
ドーンッ!
その気合いに気圧され、まわりの貴族達が小さく悲鳴を上げ、思わず身を引く。
「王よ!我が
この
「わ、わかった、お前の好きにするがよい。」
ザッと一歩下がり、許しを得るようにまたザレルが
王が大きなため息をつき、玉座に身をもたげた。
「……ふう……
驚かせるな。まったく、
だが、その魔導師が少しでも怪しきそぶり見せたなら、即首をはねる。良いな。」
「よしなに。良いなリリスよ、お前も心せよ。」
「はい、この身も心も、王子のため一つに
リリスが布をかけた頭を下げる。
王が冷たく見下ろし、そして立ち上がった。
「よい、城内でその布はずすことを許す。
だが、伏せっておる后の前にその呪われた姿を見せることは許さぬ。よいな。」
驚いて、側近が王の前に出た。
「王よ!ですが、あまりにもこの者の姿は不吉です!
このような時に、なにか悪いことを呼ぶのではありませんか?」
不安に側近達がざわめき、ヒソヒソとささやき合う。
王がそれを
「
キアナルーサこそ次の王、その命をかけて守るのだ。」
「はい、この命をかけて。」
リリスが額を床にすりつけ、そして顔を上げた。
「あ……」
布がスルリと落ち、ふと、王と目が合い見つめ合う。
一瞬の
初めて、リリスは本当の、あれほどこい願った父の顔を見た。
自分を殺しても、弟であるキアナルーサを王にしようとする父に。
似ている?いいや、似てはいない気がする。
いや、違う。
私には、この世に血の
師である母上だけが、私の親なのだ。
胸の中で何度も自分に言い聞かせる。
胸が、えぐられるようにズキズキと痛んだ。
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