1話 彼女の正体
俺は彼女と共に彼女の住む家へと向かっている。
時間は既に夕方だ。
都内の夕方、人通りはほぼゼロですれ違う人もいない。
「そういや名前聞いてなかったな。 アンタ名前は?」
「名前ですか? 藤麻(ふじま)サリーです」
「えっ、藤麻サリーってあのアイドルグループの!?」
思わず俺の声は上擦る。
藤麻サリー。 人気アイドルグループクライズサイドのメンバーの一人である。
アメリカ育ちで英語が堪能であり声優としても活躍する人気の高い少女だ。
かくいう俺の推しメンでもある。
「そうですよ。アイドルの藤麻サリーです」
「……うわ、マジか」
そういや良く見たら思いっきりサリーちゃんだよ。
自殺を決めてナーバスになってたせいで気付かなかったのかよ。
そう考えると先ほど偉そうにアンタ呼ばわりしてたのは軽く自己嫌悪に陥る。
しかも自分語りまでして結構恥ずかしいな。
「わりい、サリーちゃんと気づかずに結構失礼なこと言っちまったな。やっぱ俺死んだ方がいいんじゃね。サリーちゃんと並んで歩いてるだけでも色々とヤバい気がする」
俺は思わずサリーちゃんに背を向ける。顔向け出来ねえな。マジで。
「もうそんなこと言わないでください」
だがサリーちゃんはそんな俺を後ろから抱きしめてくる。
背中から優しい気持ちが伝わってくる。
「サリーちゃん、俺……」
「言ったじゃないですか。私の世話になってくれるって。まだ何の世話もしてませんよ。約束を守らない人は嫌いって言ったじゃないですか」
「……そうだな。ああ、確かに……」
思わず笑ってしまう。
優しい気持ちに当てられ幸せな感情が俺を支配するのを感じる。
「ところで貴方の名前は何ですか? 私だけでまだあなたの名前聞いてませんよ」
「そうだったな。俺は風越遊(かぜこしゆう)。ただのニートだよ」
「そして今日から私の家の居候で恋人見習いですね」
「なんか、そうなると俺結構ショボいな」
「それならすぐに恋人になりますか。恋人昇格はいつでも無条件に可ですよ」
「……さすがにすぐはヤバい。俺の気持ちの整理が追いつきそうにない」
その後俺とサリーちゃんは二人で彼女の住むマンションまで歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます