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岡上 山羊

第1話 鈴木 修斗①

 親の期待なんて子供にとってみたら、ウザったい以外の何物でもない。大体、生まれてすぐに、この子にどんな能力があるのか、どんな可能性があるのか、なんて親であっても分かるはずもない。

 なのに “親の期待” と言うものだけで希望的観測な名前を付け、自分たちの不足を埋める為だけに教育を施し、それが満ち足りないとみるや、途端に放任主義と言うベクトルに方向転換する。正直、うんざりだ。

 俺の名前から分かるかどうかは分からないが、ウチの父親は、所謂いわゆる、サッカー崩れ。現役時代はそれなりにストライカー的な存在で期待されたらしいが、良くある “膝の故障” って奴をやったらしい。

 だけど選手として大成したかと問われると、恐らく “うーん、もしもの話しだから言いきれないけど、そこそこ行けたと思う” などと曖昧に答える事だろう。

 それで生まれた俺に対する期待が名前に現れる訳だ。修斗。漢字に意味なんてない。ただ韻が “シュート” だから。

 ただ残念な事に、俺にサッカーはおろか、シュートを撃つ能力なんてなかった。って言うよりもスポーツの才能なんて皆無だった。母親は俺に学業が大切だと説き、色んな習い事(勉学系)をさせ、父親は父親で、サッカークラブに所属させ、自らも熱血コーチとして笛をくわえた。

 俺にとってしてみれば、名字の “鈴木” 通りに、在り来りで平凡な、なんの特殊能力もない、極一般的な人間である事を、親の教育方針により、知らしめさせられただけだった。

 俺は中高と適当にサッカー部に所属し、適当に努力している振りをして、大学へ進学した。目標があった訳でもなんでもなく、現実逃避の為だけに大学に入学したのだ。

 もちろんだが、この頃になると、サッカー選手としての芽なんて皆無だった。だからたまたま入った法学部と言う所属を理由に、法律家を目指すと言う、ていの良い言い訳をやっと見つけて、俺は上京した。

 そして俺はこの“夢見荘” へ入居したのだ。 

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