エピソード81 まさかの代物
あれからショーンを宥めるのに暫く時間がかかり、もう一つの土壁の方を試さないと言う事でショーンはやっと怒りを鎮めた。
オレはもう一度露店巡りをしたくてモーガン達を誘った。
「ボクは特に用事もないしクライヴについて行くよ」
モーガンも少し露店の魅力に気づいたのか、オレよりも楽しみな表情をしていた。
「ワシはもうええわ……最終日に向けて池の手伝いに行くんじゃ。おめぇらも暇なら後から見てみぃ」
そしてショーンは地元の人達と何かを話して何処かに行った。
残りの露店は特に目を引く物もなく通り過ぎて行き、露店巡りも残りわずかとなった。
「露店が楽しかったよ。個性的な商人ばかりだから飽きる事無かったし、あっという間に時間も過ぎるし」
オレはモーガンに見て回った露店の感想をアレコレ言いながら歩いていたが、一つの露店の前で足を止めた。
「クライヴどうしたの?」
オレはモーガン達の声がスローモーションで聞こえてくる感覚になるぐらい目の前の商品に釘付けになった…………
「どうしたんだい? 客か? 冷やかしか? うちはよくわからんガラクタばかりだぞ。売れれば儲けもんだけどな」
商人には明らかに冷やかしと勘違いされて嫌そうな顔をされた。
「あ、あの、そこにある物が欲しいんですが……」
「兄ちゃん物好きだなぁ、オレにもこのガラクタが一体なんなのかサッパリ分からんぞ。飾りにも使えねえぞこんなもの。まぁ小銀貨三枚でいいぜ」
「あっ……はい、じゃあ購入します」
「おっ! ありがとさん」
購入した事で商人は笑顔を見せた。
オレはこのタイミングしかないと思い聞きたかった事を聞いた
「すいません! これってどこで手に入れたんですか?」
オレの強張った表情での質問に商人はキョトンとしていた。
「どうしたんだい兄ちゃん? こんな物に興味を持つなんざ。俺にも分からんが、商人仲間が勇者の住んでた村の跡地にあったとかなんたら言ってオレに売りつけたんだよ。でも何に使うかサッパリ分からなくて、そいつも雲隠れしやがったんだ。まぁ馬鹿なオレは騙されたって事だ」
(騙されてないよ、この代物はこの世界にある訳ないはずだよ! これで勇者マサイチロウは転生者確定だ! しかし何で日本人が……もしや日系人?)
「クライヴどうしたの? そんなに驚いた顔して?」
モーガンがオレの異変に気づき、オレはどう答えようか少し迷い言葉を選んだ。
「爺ちゃんが昔の家に飾っていたのに似てたから、気になって衝動買いしたんだよ」
オレの苦しい言い訳にそれ以上モーガンは何も言わなかった。
(空気を読んでくれてありがとうモーガン。中々答えにくいんだよコレは)
オレが購入した物を手に取ると少し重たさを感じる。
その重たさで本物だとオレは信じた…………人生で初めて触るハンドガンという道具を…………
(この重たさで偽物ではないよな…………しかしこの世界でどうやって使うんだ? そもそも使い方も知らないし、弾丸とかの構造や中身も知らないし、それに弓矢と魔法のファンタジーの世界に存在したらダメでしょう。
ミリタリーかヤクザの世界観が入ってきてしまうだろ……まぁハントチェンジも異質な魔道具だけども……)
オレはハンドガンを皮袋にそっとしまい、露店の広場を後にした。
そして、池のある広場に戻ってくる頃には夕陽が木々を赤く染めて冷たい風が流れていた。
オレは風を避けるように肩をすぼめながらモーガンと一緒にショーンを探した。
「確か、この池で何かするんだよなぁ」
オレはモーガンに聞いてみると、モーガンは考え込んでオレに池で行われる事を説明してくれた。
「いつからするようになったのか分からないけど、生誕祭の最終日には池に飛び込んで技を競う合うのがボク達平民の間ではお決まりになっているんだ。最近は貴族も参加して盛り上がったりもしたけどね……」
オレはその説明を聞いて水泳競技の飛び込みをイメージした。
「それでね、昔はどうやって技を競うのか? という事に悩まされていた時期があったらしく池のすぐ近くに厚さのある木の板を置いたら凄く盛り上がり好評だったそうなんだ。それから毎年グレードアップしていってるよ。クライヴも最終日は参加したら? 楽しいと思うよ」
モーガンは一瞬だけニヤリとした。
(モーガンの怪しい笑みは危険だ。多分参加すると大変な事に巻き込まれるんだろうな……)
「オレは見学でいいよ。そういうのって見てる方が楽しいだろう」
「フフッそうだね」
モーガンはオレが参加しなくて残念そうな表情をしたが、すぐにいつもの表情に戻り池の方を眺めていた。
「設営されていないから、まだ飛び込みようの土台が完成してないのかなぁ? いつもなら土台は生誕祭の二日目にはあるんだけどなぁ」
オレ達は暫くベンチで待機してショーンの帰りを待っていたらショーンが程なくして戻ってきた。
「まだ出来きてねーけぇ。準備は来週からするらしいけぇ。もう帰ろうや?」
ショーンは楽しみにしていたのか、とても残念そうな顔をしていた。
「そうだね、もう夕方になる頃だからフィーネ達も学生寮に戻ってるかもしれないし、学生寮に帰ろうか? クライヴもそれでいいかな?」
モーガンはショーンを気遣いながら言葉をかけた。
オレはショーンとモーガンに頷いて、公園での屋台や露店等の今日あった出来事の余韻に浸りながら学生寮に足を進めた。
学生寮に着くと玄関の衛兵さんがオレの顔を見て声をかけてくれた。
「クライヴ君、今日はいい事があったのかな?」
「はい! 今日は公園に行って驚く事が沢山ありました。楽しかったです」
オレは純粋無垢な子どもを演じて十歳児らしく笑顔をして衛兵さんに話をした。
「それは良い一日だね。生誕祭は色々な国から人がやってくるから珍しい物とかたくさん見れると良いね」
(ハッハッハ、もう見てます。この皮袋の中には特殊な魔道具と日本じゃ危険なブツが詰まってます)
衛兵さんと少し会話をしていたらフィーネ達も帰ってきた。フィーネの皮袋はパンパンに膨れ上がっていた………………
そしてオレ達は食堂で夕食を食べながら、今日の出来事をお互いに話し合った。
「えっ何そのハントチェンジって! アンタ相変わらず変な物が好きよね」
フィーネは変態を見るような目をオレに向けてくる。
「フフッ……ぼくもショーンの捕らえられて姿が見たかったよ」
リアナはオレの話を笑みを見せながら聞いている。
「アァ! 二度とするんじゃねぇ! 次したら許さんけぇな!」
話を蒸し返されたショーンは再びご立腹されている。オレが悪いので何も言えないが…………
「それより、フィーネ達はどうしてたの?」
ショーンの怒りの矛先がオレに向く前にモーガンはフィーネ達に話を振った。
「そうそう! アタシ達は服やアクセサリーとか七割引セールのお店を見つけて、大量に買っちゃった」
フィーネはホクホク顔で喜んでいるが…………中等部の入学費の事を考えて行動をしているのか疑問が残る…………
そして話題はオレの露店で買ったハンドガンの話になった。
「アンタ浮かれ過ぎなのよ! 無駄な物ばかり買って!」
そう言ってフィーネはジト目でオレの方を見ていた。
(オカンか! もう一度言おうオカンか! フィーネは!)
「しかし、クライヴ。ぼくには価値があるようには見えないんだが…………君が真剣な表情で購入したとは珍しいね」
リアナも神妙な顔をしてオレを見ていた。
(いやいや、ハンドガンですからね。もし弾丸とか開発できれば弓よりも危険ですよ。ある意味魔法みたいなモノですよ)
食後も終始会話に盛り上がっていたが、夜も遅くなり食堂から出て各自部屋に戻った。
「ふぅー」
オレは一息つき、皮袋の中からハンドガンを取り出して、じっくりと観察した。
(よく分からないが曲がったり、凹んだりしてないので、割と良い状態で保管されていたのだろう。取り敢えずコレは危険な物なので、ここ以外の場所に保管しよう!)
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