エピソード80 怪しい露店

「なんで! ワシなんじゃああぁぁぁ!」


 ショーンの叫び声は公園の芝生でゆっくりと昼寝をしていた人達にも注目を浴びる事となった。

 ………………人目を避けて芝生エリアの側の木々に囲まれた場所を選んだつもりだが…………………



 事の発端は、朝食後の予定を決めるモーガンの一言から始まった…………



「クライヴ。今日はどうする?」


「昨日の鍛冶屋のおじさんの話も気になるし、今日は公園の露店に行ってみたいんだ」


 オレがそう言うとフィーネは悩んでいた。


「どうしたんだフィーネ?」


「あの……クライヴ、アタシ達、まだ服屋とか雑貨屋とか全部見れてないからリアナと一緒に行動しようと思うんだけど、今日一日は別行動でもいいかな?」


(オレに気を遣ってそんな事で悩んでいたのか……)


 最近のフィーネはイルーラ女王様のおかげなのか、ツン要素がまだまだ強いが、時々お淑やかさが顔をチラリと覗かせる事がある。


「オレの事は気にしなくて良いよフィーネ。オレもモーガンとショーンに公園の露店を案内してもらうつもりだし」


「なんでじゃ!」


 すかさずショーンのキレの良いツッコミが飛んできた。


「まぁまぁ、ショーン。予定もない事だしクライヴを案内してあげようよ」


 モーガンがショーンを納得させてオレ達は公園に向かった。


 公園に着くとオレは無意識に声が出た。

 

「えっ?」


 オレは驚きのあまり次の言葉が出てこなかった。


「スゲェじゃろ! これが生誕祭の隠れた名所じゃ! 毎年池に飛んで行くからぉ」


 以前は自然豊かな長閑な大規模な公園だったが、公園入り口付近や散歩道の両脇には屋台がずらりと並んでいる……


(この屋台の列って何キロメートルあるの? 生誕祭の話になってショーンからずっと出ている池に飛ぶというパワーワードが気になって仕方ないんだが…………)


 そして、初詣のような人集りの中に屋台付近の木々からは小動物が地面に落ちた食べ物を拾い食いしていた。

 オレはそんな小さなホッコリする小さな幸せを見つけ人の流れに身を任せながら広場の方へ進んだ。


 大きな池のある広場には、ベンチに座り語り合う恋人達、芝生に座り屋台で買った物を食べている家族等、大きな場所に出ると人口密度は少しマシになった。


「クライヴ、この先の大きな広場を見るとまた驚くと思うよ。毎年その広場に様々な露店が集まるからね」


 モーガンが自分でハードルを上げる発言をしたが、オレ達は大きな広場に移動すると、そこには広場には一面に露店が広がっていたオレはその光景に絶句した。


(出店している露店に対して反比例するかのように人が少ないなぁ……それだけイロモノを扱っているのか?)


 オレ達は様々な露店を見て回った。訳の分からないセンスの塊達にどうしてもツッコミそうになる。


「これは王都ではお目にかかれないぜ。一度作り上げた壺を割って細かく砕いた石や灰やらを水と混ぜて固めようとしたが強度が低くなってしまったあの有名なヘンパーニッヒ作の【残念な壷】だ。金貨一枚の価値があるが、生誕祭だから小金貨七枚にまけといてやるよ」


(いやいや、使えねえ壺だろ。何で一回割るんだよ。そのセンスがわからない)


「へいへいへい! コイツは最高傑作選だぜぇ! フォォォォォウゥ! この魔道具は土と一緒に水の中に入れると中々抜け出せない沼が作れるんだぜ! イェーイ!」


(あっ変態だ……)


 さすが露店商人、誰一人個性が被る事はない天才なのか変人なのか? よく分からない集まりだ。


 次の露店に移動し、商品を見ていたら怪しい商人が嬉しそうに説明をしてきた。


「イッヒヒヒ。こちらはですねぇ、ハントチェンジと言う特殊な道具でしてね。何とこのスイカのような大きさの特殊な球体でして、ヒヒヒ、魔道具が二つ内蔵してましてね、イッヒヒヒ、衝撃で起動するんですよぉ、もちろん軽い衝撃では反応しないですよぉ。ヒヒヒ。

 一度目で起動して、何かに当たる衝撃で作動するんですよぉ。

 ヒヒ、何が起きるのか気になるでしょ? 

 とても気になるでしょう? イッヒヒヒ。

 球体が緑色と茶色で半分半分違う色になってるでしょ。イッヒヒヒ。どちらの面に衝撃を与えて起動するかによって用途が変わるんですよ。

 緑色は植物の蔦が球体から出てきて捕らえる事ができるんですよぉ。イッヒヒヒ、効力は一分間ですがね。

 茶色は土壁が出てきて足止めや矢避け等が出来るんですよぉ。

 ヒヒヒ、土壁って言っても魔道具の力で頑丈なんですよぉ、イッヒヒヒ、形も直線でなく、半円で長さは八メートルで、高さは四メートルなんですよぉ、ヒヒヒ。

 まぁ一回使うと魔道具の魔力が空っぽになるので使い勝手は悪いのと、軽い衝撃では反応しないので、起動するのに手間がかかりますし、作動させようと投げても衝撃が弱くて反応せず作動しない欠点がありますがね。イッヒヒヒ。癖があり使いづらいハントチェンジですが、値段も小金貨三枚と決して安くなく、ヒヒヒ、私も値段を下げるつもりはないので一度も売れた事はないですけどね……」

 

 最初は嬉しそうに説明をしていたヒヒヒ商人だったが、最後は哀愁漂う何とも言えぬ表情で遠くを眺めていた……


(コレ欲しいいい! 魔道具の充填は誰かに協力してもらう必要があるが……サッカーボールみたいな物と考えるとかなり活用できるはずだ!)


「小金貨三枚でハントチェンジを買います」


「「「えっ」」」


 オレの発言にモーガンとショーンだけでなく、ヒヒヒ商人も驚いていた……


(商人は売るのが仕事だろ! あんたが驚いてどうするんだよ!)

 

 オレは心の中でツッコミ、モーガンとショーンがオレを心配そうに見ている。


「クライヴ。その……言いにくいんだけど、頭は大丈夫なの? それって使い道あるの?」


 モーガンは本当に心配しているようだが、オレの頭は正常かつ冷静だ。


「モーガンはオレをどんな人間だと思ってんだよ。後で本当の活用法を見せてやるよ」


 オレはそう言ったが、モーガンとショーンは不思議な顔をしていた。



「そろそろ昼が近づいたので屋台で何かを買ってお昼にしようか?」


 気付けばあっという間に時間は経っていて、モーガンの提案にオレ達は頷いた


 オレ達は一度広場に戻り、ベンチに座った。


「それぞれ手分けして買ってこようか?」

 

 モーガンの案でオレが肉担当、ショーンは飲み物担当、モーガンはパン担当となり各自調達に行った。


「買ってきたよ」


 モーガンが急いでオレ達が座っているベンチにやってくる。


「モーガン結構並んでた?」


「うん、サンドイッチの屋台が行列でさぁ。結局ボクが最後になっちゃったね」


 モーガンは恥ずかしそうな顔をして後頭部を触りながら、申し訳なさを可愛さで誤魔化そうとしていた。

 なんとその時! 家族で来ていた男の子がモーガンを二度見して頬を赤くしていた。


(あーあ、勘違いしちゃった。男の娘だよモーガンは)


 オレ達はオレの買った色々な肉の串焼き盛り合わせ、モーガンの買ったサンドイッチ三種類、ショーンの買ったオレンジジュース三つとビスケットをベンチに広げて食べた。


 ちなみに色々な肉は鳥と牛と豚っぽい味だと思うが…………詳細はわからない……というか屋台の裏にはそんな食材達はいなかった……もっと厳つい何かの肉が置いてあった。処理した所にマンモスみたいな牙とか転がってたし………………


「さぁ! ご飯も食べたし、ハントチェンジを試したいんだけど……人目も避けたいし、ここから少し離れてあそこの木々に囲まれた場所で試して見ようぜ」


 オレ達は木々に囲まれた場所に行き、モーガンに魔道具を充填したもらった。

 その後に、二十メートル離れた位置にモーガンを立たせて、その五メートル後ろにショーンを立たせた。

 そして二人にはその場で動かないようにと伝えた。


「クライヴ! ワシの前にモーガンがおるんじゃけぇ、ワシに当たらんじゃろうが? 横に並ばせんと意味無かろうが」


 ショーンは言葉が悪いが、オレが失敗しないよう心配してくれているのが伝わってきた。

 そしてモーガンは、一瞬だがショーンの言葉を聞いた時にニヤッと黒い笑みを浮かべた。


(相変わらずモーガンは黒い部分がチラリと出てくるなあ……特に人が騙される時とか。モーガンには俺の意図が気づかれたか)


 オレはフリーキックのように緑色の面をこちら側に向けて、ターゲットまでの距離を見た。

 そして数歩だけ後ろに下がり少し助走をつけ右足を振り抜いた。

 【カチッ】と音が聞こえた……多分起動音だろう。

 

 そしてハントチェンジはモーガンの左肩の斜め上方向に飛んでいき、途中から弧を描きながらショーンの顔に向かって行った。


「なんで! ワシなんじゃああぁぁぁ!」


 事の結末はこうなった。


 ショーンは両足を広げて頭を後ろに向けて避けようとした姿勢のままハントチェンジの蔦に捕らえられていた。


オレとモーガンはショーンのその姿に笑っていた。


「クライヴ成功だね」


「な! これが本当の使い方だろ?」


「はよ、外せや! 変な姿勢で腰が痛えんじゃ……」


 ショーンの叫び声を駆けつけた人達にもショーンが捕らえられている姿と姿勢に笑い声が起き、誰よりもこの芝生エリアで輝いていたショーンだった………………

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