エピソード34 冒険者協会の登録と初依頼

 腹ごしらえを終えたオレ達は大通りにある冒険者協会に向かっている。

 オレの足取りは重く、リアナからは厳しい表情をされ、モーガンからは苦笑いをされていた。


「クライヴ、君は男として恥ずかしくないのか、一度覚悟を決めたなら、その道を突き進むのが騎士道ではないか」

 

(リアナよ、オレは騎士を目指してない。むしろ正反対で争い事なく楽しく暮らしたい)


「クライヴ、大丈夫だよ。今日は説明をうけるだけだからね。

 それに、平日は下校後に依頼は難しいから休日に依頼を受ける事になると思うよ。安全な依頼を選んだら少しはクライヴも気が楽になるでしょ」


(癒しのモーガンさま〜優しすぎて胸がドキドキするって、スカート履かれたらマジでヤバいぞオレ!)


 しかし! オレは騙されない。


(モーガンよ、お前は一つ忘れていたな、最後に黒い笑みを浮かべた事を! 

 そして、この世の中に絶対安全な依頼なんか無いんだよ! 

 オレはシェリダン領の教会に来てた依頼内容や、ランパード様の街の冒険者協会への依頼等を見てたんだよ。

 オレ達が受けれるギリギリの年齢の採取系の依頼でも街の外に出るのもあるんだよ! その時点で絶対に安全じゃなくなるからな)



「アンタ一人ぐらいアタシが守ってあげるわよ。もう、感謝しなさいよアタシに」


 そんな足取りの重いオレにフィーネが近づいて珍しく励ましてくれた。 


(ツンツンだが根は優しい女の子なんだよな……何故がオレにスパルタだけど......)


冒険者協会に到着して、オレ達は扉を開けると、

ランパード様から聞いてた通り、建物内の作りは似ているが広さが倍ぐらい違った。

 そして二階には吹き抜けの中に半分部屋のようなものが見え、更にその上の屋上付近にも部屋が見えた。


(えらい高い三階建てだなあ)


 まず入って左側の大きな壁に【討伐依頼】【採取依頼】【護衛依頼】【回収依頼】といった依頼書の張り紙が項目ごとに貼られている。


「回収依頼かぁ」


 オレは初めて聞く言葉にポツリと呟いた。


「亡くなった者の遺品を回収して冒険者協会が家族に届けたり、商人が何らかの事故で積荷を無くしたり、または置いてきた物を取りに行ったり、様々な事をする依頼だよ。

 まだぼく達の年齢では依頼を受ける事が出来ないが、クライヴが思っている通りこういった依頼をこなすのが騎士としてあるべき姿に思えるのだよ。

 どうやらぼくはクライヴの事を勘違いしていたようだよ。君は臆病だけど人を助ける気持ちは強い人なんだな」


 リアナはそう言ってオレに微笑んだ。

 十歳という元気発剌な輝きを放つ美しい顔立ちに油断をすると心を掴まれそうになる。

 現に若い冒険者がリアナを見て鼻の下を伸ばしている。


(まあそんな事より、リアナごめんなさい! オレそんな事全く考えてないから、ただ何だろうと思って呟いただけだから……)


 依頼を貼ってある壁の奥にはお決まりのバーと、机や椅子やソファが並ぶ打ち合わせスペースが併設されているが、それぞれの打ち合わせスペース間には道のように広い幅があった。


 入り口から入って右側は右側は大小の素材を納品する場所と二階に繋がる階段があった。

 他の街のような道具の販売所は王都の冒険者協会にはなかったのは大通りに店がある為、ここに必要がないからだ。


(二階は一体何だろう?)


 そして正面は大きなカウンターがあり、それぞれの依頼用に職員が二名体制で対応していた。

 ちなみに討伐と採取に関しては倍の四名体制で、奥のデスクにはその他ヘルプ用の職員が五名いて、依頼対応の補助や、納品の補助として動いていた。その中で指揮を取っていた赤色のストレートのロングヘアーのグラマラスな女性が副局長だろうか?

 

(局長はどこに? やっぱり最上階?)


 オレ達はそれぞれの依頼について説明を受けた。

 まず、冒険者はランク分けされており、冒険者見習い、初級冒険者、中級冒険者、上級冒険者の四種類があるらしい。十一歳以下は必ず見習い冒険者から始まり、簡単な採取依頼のみしか受けれないようになっていた。

 依頼をこなしていると初級冒険者になる事ができ、討伐依頼が受けれることになる。

 また王立学院中等部の実技で良い成績者は無条件で初級冒険者になれる事があるそうだ。

 討伐依頼では、獣、害獣、魔獣、魔物、盗賊、賞金首等と様々あるそうで、この王都周辺には魔物は殆ど存在しないらしい。

 魔物とは、ある程度の知性を持っており集団で行動したり、人間と話す事ができる存在や軍隊のように統率をとる魔物等がいたりとまだまだ謎が多い存在で王都周辺にいるのは中級冒険者パーティーで退治できる魔物しか出現しない。

 魔物の中で脅威となるのは話す事ができる魔物と軍隊のように統率を取る魔物だ。

 これらの魔物は上級者冒険者レベルと言われている。

 魔獣は、獣が弱肉強食の世界で突然変異する現象で目が赤色に変色し普通の獣より強くて危険な獣がいるらしい。

 魔獣も魔物もどちらも見つけたら協会に報告する必要があり、逃げて報告するだけでも報酬が出るらしい。


 後は冒険者のシステムとして。依頼達成数や人となりに応じて昇段する仕組みらしいが、中々昇段するのは難しく王都でも上級冒険者は一握りらしい。

 中級冒険者になると護衛や回収等の依頼を受ける事ができるようなるらしい。

 上級冒険者になると貴族からの直接依頼等を受けることがあるらしい。


 説明を聞いたオレ達はモーガンの発案で、取りあえず冒険者見習いに登録して依頼を受ける時は全員参加する事と約束を決めた。

 その時のリアナの目は輝いており、オレの目は曇っていたが、全員冒険者見習いとして登録をした……冒険者証明証に銀貨一枚必要だが、これ一つで国内のパスポート代わりになるらしい。

 もちろんフィーネの分は俺が支払った。



「では、登録も済んだのでぼく達の記念すべき初依頼を受けないか?」


 リアナは更に目を輝かせ、オレ達に問いかけた。


(見習いの登録記念で危険な身に合う可能性を考えてないのかリアナは)


「リアナ、まずはボク達に無理なく安全な依頼があるか見つけてから考えよう。全員の賛成も必要だからね」


 モーガンがリアナを落ち着かせて、みんなで採取依頼書を眺める事にした。

 ここでもオレは得意技強調性が無意識に発揮してしまい依頼を受けようとする流れに断る事が出来なかった……


「これなんてどうかしら?」


 フィーネが一枚の依頼書を見つけた。

 内容は、【回復薬に必要な薬草が十個程必要です。薬草一枚につき銅貨八枚で買い取ります。薬屋より】


「これなら、ボク達でも受けれそうな依頼だね。近くの森で採取できるし、獣が出る可能性も低い」


 モーガンの提案にリアナが反応した。


「今から万が一に備えて準備をしてから出発するのはどうだろうか? これならクライヴでも安心できるのではないかな?」


「…………二人がそう言うなら、この依頼受けてもいいけど………………絶対無理せず、安心安全な準備してを整えてから行こうな」


 そうして、オレ達の初依頼は薬草採取に決定し、それぞれ学生寮に戻り武具を準備した。

 足りない物は武器屋で購入した。

 主にフィーネの短弓と矢とナイフ、革の肩当て、レザーアーマ、それにオレの小盾とハードレザーの合計銀貨八枚消費した。残り小金貨一枚と小銀貨九枚の約十万九千円。

 命には変えられない出費だった。


 その様子を見たらフィーネは申し訳そうな顔をしてオレに声をかけてきた。


「クライヴ、あの、色々とごめんね。出世払いで必ず返すから!」


 なんだよ、その出世って十歳で出世できんのかよ!


 

 それぞれが準備を終えて王都の正門に集合した。

 みんなそれぞれ軽装で、モーガンは細剣を帯刀し、リアナは腰のベルトの左右に長剣と細剣を帯刀していた。


「それじゃみんなの準備ができたみたいだから薬草採取に向かおうか、問題なければ二時間程度だから夕方前には帰ってこれるよ」


 モーガンは俺への気遣いか明るく言ってくれる。

 また、昼間の大通りは大勢の人と活気で何もかもが明るく感じる。

 しかし……オレは気分が憂鬱だ。足はもう震えている。武者振るいで無く、怖くて行きたくないガクガクと震えている。 


「大丈夫だよクライヴ」


 後ろからフィーネが優しく声をかけてくれた。

 フィーネがオレにツンツンじゃなく優しく声をかけた事にとても驚き、オレの足の震えは止まった。




「もう少しで森に到着するから気を引き締めて行こうね」


 後方からモーガンの声が聞こえた。


「任したまえ、必ずぼくがみんなを守るよ。逃げる時も殿は任せてくれ」


 前方には男前発言のリアナがいる。



(………………どーしてこの配置になったんだ……)


 今オレ達はリアナを先頭ワントップにして、オレを右側の前方寄りの位置にして、フィーネを左の後方の位置にして、モーガンは中央のやや後ろに位置の陣形で歩いていた。

 これはモーガンの案で、もし敵に出会った時にリアナが攻撃役、オレが盾と時間稼ぎ役、フィーネが後方からの攻撃役、モーガンが指揮と魔法役といったそれぞれの長所を活かした陣形らしい。


 そんな事はない事を祈るが、そんなに気合い入れて陣形なんか考えると、何だか嫌なフラグが立ったような気がする……

 

 森に到着すると、とても静かで済んだ空気が流れる所だった。所々に切り株があってちょうど座れる形になっていたり、倒れている太い木はたいらになっており、天然のベンチだ。小鳥達の囀りも響き、何も危険のない森林公園のように思えた。


(王都から森までの徒歩二十分程度の距離にこんな場所があるとは)


 オレ達は薬草採取に取り掛かろうとすると、フィーネが薬草について説明してくれた。


「さっきの冒険者協会の植物図鑑にも書いてあったと思うけど、薬草は濃い緑色のツルツルした葉っぱのやつだからね。ギザギザの葉っは毒消しに使うハーブだからね。色が派手な葉っぱなどは大体毒草だから気をつけてね」


「「「はーい」」」


 オレ達は直径十メートルの範囲内で集中して薬草採取を行なった。

 

「みんな〜! 一回集合しようか?」


 モーガンの合図で一旦集まり状況確認を行なった。


「ボクが二個、リアナが一個、クライヴも一個、フィーネが……えっ五個も? あと一個で依頼達成だね!」


(さすがハーフエルフ! あっ! みんなには内緒にしてるんだっけ、でもさすがに怪しまれるぞ)


 移動時間含めて開始四十分でこの成果、あと少しで帰れるな。ふぅー何事もなくて安心したぜ。


 その時、森の奥の方からガサガサと音が近づいて来た。


「獣が向かってくるわ」


 フィーネがすぐ反応して、オレ達は陣形を整えて戦闘に備えた。


 奥から現れたのは、ブタ? いや猪? やっぱりブタ? ライオンぐらいの大きさの黒ブタだった。普通のブタとの違いは、目が優しくない! ガン飛ばしてくる不良みたいだ。

 そして首と体が太すぎる! ブタ特有の太さで無く、週三で首、脚、胸と背中と分けて筋トレしてますよっと言わんばかりのムキムキ具合だ!

 前脚に至ってはボコボコと膨れ上がった筋肉に血管の筋が見え、大会に向けて仕上げて来ているようだ。そしてその先の爪はとても鋭かった。


「ブタじゃない……足がゴリラじゃねーか! おいおい脚の爪がクマみてぇだなぁ!」

 

 オレはあまりの驚きでついツッコミを入れた。


「偽ブタね」

「偽ブタじゃないか」

「偽ブタか、初級冒険者が簡単に討伐できるレベルだね。みんな準備はいい?」


(えっ偽ブタ? いやいやアレは偽ブタって可愛い名前じゃダメだよ! マッスルブタの方がしっくりくるよ。というか何故みんな冷静なの……)


 偽ブタが現れた瞬間からモーガンが何かを唱え出した。


「クライヴ! 君は、モーガンを守ってくれ! ぼくが仕掛けてみる!」

 

 そう言ってリアナは偽ブタに向かっていた。

 偽ブタもリアナに気づき、リアナを標的にして突進していった。


「あまいな!」


 リアナは突進を横に躱しながら、そのまま回転して腰の右側の細剣を取り出し側面を刺した。


「プギィ!」


 偽ブタにダメージを与えたようだが筋肉の鎧で大きなダメージは受けていないようだった。


「クッ硬い! 心臓まで届かなかったか!」


「アタシに任せて!」


 すかさずフィーネが、偽ブタの前脚を目掛けて弓で矢を放ったが、深くまでは突き刺す事が出来なかった。


 二人の攻撃は偽ブタの動きに影響しない程度だった。

 そして、偽ブタはフィーネに向かって突進して来た。


「フィーネ!」

 

 オレは無意識で身体を動かしフィーネの前に立ち、右手でサーベルを突き出したまま左手で小盾を構えた。

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