エピソード31 お部屋のレイアウト大作戦

 昼過ぎには暗い雨雲は風に流されて、曇り空の中陰っていた太陽が時々現われた。

 もう雨は降らないだろう。

 そしてモーガンの部屋のドアをノックした。


「は〜い」


 知らない人なら声だけ聞くと女の子に間違えると思う。

 パッと見ても女の子? いや男の娘? にしか見えない。


 モーガンの部屋はオレの部屋の向かい側に決まったそうだ。

 遠くに家族がいるそうだが今は離れ離れになっており、この王都で一人で生活する為に王立学院に入学式を決めたらしい。住む所学生寮も付いているのもポイントだったらしい。


 オレは率直に疑問を思った事を聞いた。


「でもモーガンの家はよく入学金支払えたなぁ」


「ボクは少しずつ貯金を貯めていたからね。貯金が無ければどうなってたんだろう。野垂れ死んでしたのかな」


 またモーガンはどこか諦めにも似た冷めた表情をする。


 モーガンは持参してきた荷物が少なく既にタンスに収納済みだったが、せっかくの仲良くなれる機会なので、フィーネも含めて王都での買い物に誘った。


 モーガンは少し遠慮気味にオレ達の事を気にしていた。


「特に予定もないし二人の迷惑じゃ無ければ」


 その時、ドアからノックをする音が聞こえた。


「は〜い」


 やはりモーガンの声を聞くと女の娘に勘違いしそうになる。

 おれは断じて男の娘に興味があるわけではない。


 返事を待ってからフィーネが部屋に入ってきた。


「あっクライヴ君も居たのね」


 コイツいつまで猫被ってんの、オレの時なんかノックもせずドアを思い切り開けてくるじゃないか!

 しかもいつもアンタ呼ばわりじゃないか、何がクライヴ君だ。鳥肌が立つわー


 オレはなんとも言えない表情でフィーネを見ていたら、軽く睨まれた。


 その様子にモーガンは突拍子のない事を言い出した。


「二人は仲が良いんだね。付き合っているの?」


 おいおい十歳に恋愛なんかわかるのか? 付き合うと言う事は手を繋ぐ程度だろ?

 ちゃんとモーガンに誤解ないように説明をしておこう


「えっ……そ、その、つ、つっ、付き合うとか……

そんなのじゃ、なくって……その……あの……しょうがないからここしばらく一緒に居たから」


 面倒だよフィーネさん。誤解されるでしょ。


「へぇー クライヴとフィーネは一緒に居たんだぁ」


 あらモーガンが少しニヤッとした。天使のくせに実は腹黒??


「ちょ、ちょっと、違うの、その……一緒に居たと言うのは、王都までの旅の事で」

 

 フィーネさん顔が真っ赤になってるよ。


「二人で旅をしていたんだから仲が良いって事だよね。ボクは嫌いの人とは旅なんか出来ないと思うんだ」

 

 あっやっぱり腹黒さん。モーガンよ可憐な男の娘はどこに行ったのだ?


「二人! あっ、二人……だけじゃ、なくって、その、他にも乗客もいて、それに旅って言っても二週間程度で、宿屋とかも一緒だったからモーガン君にはアタシ達が仲良く見えるんだと思うよ」


 フィーネさんがまさかのテンパってます! 腹黒モーガンの策略で余計な事をペラペラと言ってますよー


「そうなんだぁ。フィーネはクライヴと宿屋でも一緒に過ごす仲なんだね。それは仲良しと言うか付き合っている事にはならないの?」


 モーガン、完全にフィーネで遊んでいるな。


「ア、アタシは、その、クライヴとは……クライヴの……そのぉ…………そぅ………………なって…………………………かなって思うけど……」


 ゴニョゴニョ言って聞き取れないよフィーネさん。

 いつものツンツンが全く発揮されてない。

 むしろ可哀想なので、オレは助け舟をだした。

 

「大丈夫だよモーガン。オレとフィーネは何と言うかお互い認め合った敵……じゃなくて、命懸けの出来事を通して知り合った戦友みたいなもんだよ。だからお互い腹を割って話せると言うか、そんな感じだよ」


「そうだったんだ。フィーネはクライヴとボクの時で話し方がガラリと変わるから、てっきり二人は付き合っているのかなぁって思ったんだ」


 やっと笑顔に戻ったねモーガン。

 そして、なぜか助け舟を出したはずのオレにガン飛ばしてるよねフィーネ。

 

 そんなたわいもないやり取りを続けていくうににモーガンと少し距離が縮まったような気がした。



「さぁ、みんな! 買い物に行きますかぁ」


「「おう」」


 そんな掛け声とともに学生寮を出て街に向かった。


 オレ達はフィーネの要望を優先して西通り学生通りの雑貨屋を目指した。

 

 

 三人で話しながら歩いていると、いかにも雑貨屋です! と女子が喜びそうな様々な色のレンガに広々としたガラス張りの大きな建物が異彩を放っていた。

 まさにここなら何でもありそうと期待させる大小様々な商品が多く揃っていた。

 

 しかし! ここで疑問を感じた。

 フィーネはとても機嫌良く、蔦で編んだ丸い形状の物に布を縫い付けたラグーマットやクッションのような物を選んでいて、その後大きめのタンスを物色している。

 フィーネよ、君のどこにそんなお金があるのかい? お金は湯水のように湧いてこないよ?


 オレは気にする事をやめて自分の家具を選びに行った。


「大き過ぎると持ち運べないし、小さ過ぎてもなぁ。これくらいかなぁ」


 オレは縦型三段の衣装ダンスを選んだ。決め手は大きさは横幅六十センチの高さ九十センチで奥行き三十センチ程度で、強度が低いのか思ったよりも軽い作りでオレでも運べるギリギリの重たさだった。

 机や椅子は持ち運びが大変だからジャパニーズスタイルで床に敷物して、机でも置こうかな。


 そんな事を考えていると、モーガンが声をかけてきた。


「クライヴ重たそうだけど大丈夫? ボクも何か手伝うよ!」

 

 心配してくれているので素直に甘えよう。


「モーガン、実はあの茶色の敷物と床用の脚の低い茶色の木のテーブルを運んで欲しいんだけど、お願いしてもいい?」


「うん! これくらいならボクでも運べるよ」


 はぁぁ笑顔がマジ天使だぁぁ。最近はフィーネからツンツンしかされてこなかったからか、この癒し効果は絶大だ。


「お会計は銀貨五枚になります」

 

 この人が店長! て思う若い店長にお金を支払う。この大きさの建物に従業員は十数名で切り盛りしており、女店長伊達じゃないな。

 おれは残りの所持金が小金貨四枚と銀貨三枚になった。


 そして、後方からは会計を済ませたオレを呼ぶ声が聞こえた。


「クライヴ〜 アタシそう言えばお金無かったの忘れてたわぁ。クライヴお会計お願いね。出世払いで返すからさぁ」


 フィーネ……入学金も貸したの忘れてるよね?

 しかもこの世界に出世払いってあるの?

 踏み倒すのじゃないの?

 なぜお前フィーネは勝ち誇った顔をしている! 普通逆だからな、お願いしますって頼み込む方だからな!


「お会計は小金貨二枚と銀貨二枚になります」


 女店長の言葉に耳を疑った!


「えっ!」

「えっ!」


 オレの驚きに対して女店長も同じ反応を返した。


「クライヴ大丈夫? 実はちょっとアタシのイメージ通りの家具があってさ、つい買っちゃった。でも重たいから郵送にしてもらう事にしたんだ」


 多分オレの顔はモーガンには見せれない鬼のような顔をフィーネに見せていると思う。


「なにがつい買っちゃっただよ! この文無しが!」


「別にいいじゃん。クライヴがお金出してくれるんだし……」


 えっ! そこ拗ねるとこ? オレは十歳にしてキャバ嬢に貢いでいるのか?


「プッハッハッ、なにそれフィーネ。クライヴ大変だね。プッフフ」


 そんな二人のやり取りを見ていたモーガンは、笑いのツボにハマり、帰り道でもしばらく思い出し笑いが続いていた。

 しかしオレは笑う気にはなれないよ。だって所持金が小金貨二枚と銀貨一枚……今日だけでオレの全財産の半分強が飛んで行った……



 そして雑貨屋を出ると、すっかり辺りの街の建物の屋根や壁は淡い赤黄色に染めていき、オレ達は学生寮へ戻った。



 「説明は以上となります」


 デジャブ? 総合窓口のお姉さんが誰かに説明をしているようだ。


 二階へ上がる階段付近には、オレよりも背が高く、青色の後ろ髪が首の上の方までしかないスッキリとした印象の性別不明の子が説明を受けていた。


 その子はこちらを振り向くと、サイドは耳が隠れるぐらいの髪の長さで前髪は眉がハッキリとみえるぐらい短かい髪型だった。

 後ろがスッキリしている分顔周りの髪はシャープな印象を受ける前下がりのショートヘアーに、目は茶色で目頭と目尻がシャープなアーモンドの様な形をしていた。

 キリッとした表情はまるで◯塚の男役の人の様に気品を感じる。

 そして、背が高くハリウッド女優並みのスタイルと発育の良さ。

 本当に同じ十歳か? と思う人だった。


「初めまして、ぼくの名前はリアナ・ヘンダーソン。訳あって王立学院分校に入学する事になり、こちらに入寮する事になった。よろしくね」


 ん……ぼく? どう見ても男には無い膨らみがそこにはあるので女の子で確定してなんですが? もしかしてボクっ娘? 


 

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