『夜、たべる』

やましん(テンパー)

『夜、たべる』


 〰️これは、ほら、である。〰️しかし、作者が、震え上がる、お話しなので、ある。




 むかし、しもうさのくにに、やましんざえもんという、下級武士がいた。


 武士と言っても、名ばかりで、刀も見た目だけのイミテーションであり、中身はとっくに、売ってしまっていた。


 父親は、叩き上げの、なかなか、強者だったが、良いところは受け継がず、気が良いだけが取り柄の、出来損ないだった。


 それでも、ある、西国の、小さな小さな領主に拾われて、やっと、夫婦食べるだけの生活はできていた。


 ところが、この領主が亡くなり、跡継ぎが大がかりな合理化を開始したため、お払い箱になった。


 妻はいたが、子供はなく、なんとか形は付けたが、事実上、逃げられてしまった。


 仕方がなく、ふるさとに帰ろうとしたが、路銀さえなく、野宿しながら、野草や木の実、川魚や、虫など食べながら、ふらふらと旅をしていた。


 ある、おぼろげな月が、涙で潤んで見えるような晩、彼は、かなり怪しい雰囲気に満ちた、森のなかで一夜を過ごしていた。


 もはや、滅びる日を、待つのみである。


 『どうせ、死ぬならば、せめて、獣の役に立つなら、地獄の沙汰の、多少のお目こぼしもあろう。』


 とか、愚にもつかないことを、つぶやいていた。


 すると、目の前に、光が輝いたと思うと、全体が、伝説の安土城かと思うような、きらびやかな、異界のものらしき、真ん丸な玉が現れた。


 『これは、おったまげた。さては、地獄の使者か。』


 と、思って、ひたすら眺めていると、扉が勝手に開き、なかから、天女のような、不可思議な衣に身を包んだ女が現れたのである。


 『あらあ。時代を間違えたかなあ。あらま、やましんさんがいる。おーい。やましんさん、何で、こんな場所にいるの。』


 やましんざえもんは、名前をズバリと言い当てられたと思い、仰天した。

  

 『なんで、拙者の名が、わかったのか。』  


 『あらあ。たしかに、そっくりだけど、かなり、痩せてるなあ? 年代表示がおかしいと思ったけど、やはり、時空間の歪みにはまったか。やれやれ、お腹すいたし、ここで、ごはんにしよう。せっかく、女王さまに、休暇もらって、遊びに出たけど、なんか、時空間移動ポッドが不調で、まいったなあ。』


 その女は、やましんざえもんのことは、それ以上興味もないらしい。


 『さては、やはり、魑魅魍魎の類いか。しかし、拙者の刀は、見た目だけ。また、本物であったとしても、腕はなし。脇差しでは、いかにも、不利だろう? おや、何をしている。』


 彼女は、ポッドに手を伸ばすと、中から、オシャレなテーブルを出し、さらに、それに、テーブルクロスを掛けた。


 また、椅子を、二つ用意した。


 『ここの、やましんさん、どうぞ。お食事は、二人の方が楽しいよ。』


 やましんざえもんは、驚嘆した。


 それは、そうだろう。


 彼女の手は、やすやすと伸びて、その光輝くあやしのもののなかに入っていっては、何かを取り出すのである。


 やましんざえもんでなくても、そりゃ、吃驚して、当然である。


 『やはり、化け物か。化けきつねの仲間か。』  


 テーブルの上には、またたくまに、見たこともない、豪華な食べ物がならんだのである。


 魚の料理などには、理解可能なものがあった。


 大殿様が、食べているのをみたことがある。


 たい、という、高価なさかなであろう。


 しかし、なんのものかわからぬ、あやしの肉らしきもある。


 『はい。地球産の最高級、ビーフ・ステーキですよ。それと、宇宙伊勢海老の火星風味たるたるソースかけ。野菜が大切ね。金星産の、きんせいほうれん草。タイタンの、タイタンレタス。こちらが、エンケラドスセロリね。さあ、遠慮なく。スープは、普通に、コンソメです。あ、この間、お饅頭と一緒に、買ったやつ。さあ、この時代のやましんさん、たぶん、ご先祖さまよね。どうぞ。』


 このようなもの、口にしようものならば、たちまちにして、牛馬の類いに身が変容しそうではないか。


 しかし、空腹は、容赦しない。


 それは、生きる基本である。


 やましんざえもんは、考えるのを、放棄したのである。


 それは、あまりにも、正しい判断であった。


 まさに、珠玉のような、食事であった。


 最後に、彼女はさけんだ。


 

 『お饅頭、あらしい〰️〰️〰️〰️❗』


 すると、天から、大量の、饅頭がふってきたのである。


 やましんざえもんは、恥ずかしながら、それを、かき集めた。


 『楽しかった。ごちそうさま。それ、お礼です。じゃね。』


 彼女、つまり、『不思議が池の幸子』さんは、時空間移動ポッドに、また乗り込むと、消えてしまった。



 呆然とした、やましんざえもんではあったが、いささか、ひらめくものがあった。


 『この、饅頭は、うまい。うますぎ。』


 彼は、山を越えて、賑やかな町に出た。


 すると、菓子屋を探しだし、その饅頭を提供して、なんとか、同じように作ろうとしたのである。


 この、菓子職人と、やましんざえもんは、やがて、饅頭で、名をあげることとなるのである。


  

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 さて、今夜も、一人ぼっちのやましんは、コンビニ弁当を食べて、することもなく、なにも映っていないテレビを、ぼうっと、眺めていた。


 朝と、昼は、大体、寝ているので、まともな食事は、夜だけなのだ。


 この生活は、太るし、血糖値が上がる。


 仕官のみちは、もはやなく、あとは、滅びる日を待つのみである。


 なんとなく、体がうっとおしい。


 そこに、幸子さんが、現れたのである。


 『久しぶりい〰️〰️。やましんさん。ちょっと、時空間旅行してたから。はい、おみやげ。お饅頭です。なんか、やましんさんに、似た人にあって、びっくりした。お饅頭あげたよ。それから、時代をちょっとくだったら、なんかさあ、スッゴク、人気のお饅頭屋さんがあって、たくさん、買ってきちゃった。金の斧と、引き換えで。はい。じゃ、またね。なんか、あげた、お饅頭と、にてるけど、かなり、美味しい。』


 幸子さんは、お池に帰っていった。


 やましんさんは、ひとつだけ、お饅頭を食べた。

  

  


 それが、最後の、食事になったのである。


       

         

 



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 



 

 



 

  


 

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